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広々とした空間。セカイで、奏が私の為に作ってくれた曲を口ずさみながら、絵を描いていく。家だと弟がいて、中々こういう風にできないから、セカイというものは都合いい。
「あ、結構いい感じかも。でももっと立体感をつけて……構図を変えて……。いやあ、今日は描けるなあ」
「絵名って声はいいよね」
「うわぁ!?」
足音も無しにいきなり話しかけてくるので、体が跳ねた。めちゃくちゃびっくりした。
「声はって何よ、もっといいところあるでしょ!」
「そうだね。声もいいよね、歌も」
「……どうせなら絵で褒めなさいよ」
「絵、ね……」
まふゆは描いていたイラストを覗き込んできた。私も隠す気はなかったので、スケッチブックごとまふゆに渡す。
「……いいと思うよ」
「ほんとに?」
「うん。いつもとは違う雰囲気の絵。でも、なんだろう、違和感はないのに迫力がある」
「そうそう、ちょっと構図に挑戦してね。よかった、まふゆにそう言われたなら、安泰ね」
「これ、どうやって描いたの?」
「気に入ったの?」
「疑問かな?」
まふゆが私の絵に興味を持ってくれたようで、ちょっと嬉しい。
「線がたくさん書いてある。絵に立体感がある。美術で二点透視図法とか少し習ったけど、それ?」
「ああ、そんな感じ。ふふーん、これはね〜」
ちょっとした用語も交えつつ、まふゆに説明していく。大人しく私の説明を聞くあたり、優等生が垣間見えた気がした。
「私も描ける?」
「……やっぱり気に入ってるんじゃないの。まふゆのことだし、理論が理解できたんなら描けるんじゃない?」
「そっか。やっぱり、絵名は声がいいね」
ここまできてまさかの声の話。ちょっとだけ拍子抜け。でも、私の絵は気に入ってもらえてそうだし、ちょっと嬉しい。
「ここまできて声?」
「うん。話が入ってきやすい。聞いてて不快じゃない、と思う」
「不快な声とかあるの?」
「あまりないけど、絵名はずっと聞いていられるってだけ」
「ふーん」
謎に褒められてしまった。今日のまふゆはなんだか素直な気がする。いつも素直と言えば素直なんだけど。それなら、今日のまふゆは棘がないってことになるのかな。
「私も、まふゆの声嫌いじゃないから」
「どうしたの、急に」
「それはあんたよ、いきなり褒めてきて」
「思ってたことだから、伝えようかなって。丁度歌を聴いてて思ったから」
む、それは私の歌を聴かれていた。ということに。
「な、なら早く言いなさいよ!」
「急にうるさい」
「ちょっと恥ずかしいじゃない!」
「セカイで歌ってるのが悪いんじゃない?」
「もう……」
確かにそれは私が悪い。でも聴く方も悪い筈だ。
……まあいいか。絵を褒めてくれたし、ついでに声も褒めてくれたし、プラスマイナスゼロってことで。