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研究室には柔らかな午前の光が差し込み、机の上の試験管や小瓶を淡く照らしていた。くられは手を止めず、整然と並べられた器具の間を淡々と動きながら、次の液体を慎重に取る。今はもう肩の力も抜け、頭の重さもなく、体調はすっかり回復していたはずだった。
「心配性だなぁ。大丈夫だよ」
微かに笑いながらそう呟く声が、研究室の静けさに溶け込む。しかし、そのわずかな隙に、手元の小瓶がわずかに傾き、液体が机の端に流れかけた。
「先生!」
慌てて手を伸ばすツナっち。だがくられは落ち着いたまま片手で受け止め、もう一方の手で滴を拭き取る。ツナっちは反射的に手を出しかけ、くられの背にほんのわずか触れる寸前で止まった。
「……ほら、大丈夫。ちょっと揺れただけだ」
くられは冷静な声で言いながら、試験管を再び並べ直す。ツナっちは肩越しに小さく息を吐き、胸の奥の緊張を少しずつ緩めた。あの時のことを思い出さずにはいられない。倒れたときの冷たい肌、浅い呼吸、支えながら感じた体の熱。光景が頭の隅にちらつき、心の奥にわずかな不安が残る。
くられは顔色一つ変えず、次の試験管を手に取りながら微笑む。
「心配しすぎだよ、ツナっち」
「いや……先生!」
ツナっちは小さな声で反応しつつも、手はまだ出せず、ただくられの背を見守る。
その瞬間、くられが持ち上げた小瓶の蓋が少し滑り、液体が机の端に滴った。ツナっちは思わず体を前に傾け、手を伸ばそうとする。しかしくられは片手で受け止め、もう一方の手で小さな滴を拭き取りながら淡々と言った。
「……ほらね、大丈夫だって」
ツナっちはわずかに肩を落とし、深く息を吐く。あの時と比べれば些細なハプニングにすぎない。だが、無意識に体が緊張してしまう自分に気づき、思わず手を出そうとした瞬間の迷いが、胸の奥に残る。
くられの手元は再び安定し、試験管が静かに並んでいく。ツナっちは隣で静かに立ち、手を出さずに見守る。午前の光が二人の影を長く伸ばし、研究室の静寂の中に小さな呼吸のリズムだけが響く。
ふとくられが小瓶を置き、肩を伸ばしながら目を細める。
「ほら、これで全部うまくいった」
「はい……でも、先生……やっぱり無理はしないでください」
ツナっちは声を潜めるように言ったが、目はしっかりくられを見つめていた。
くられは手元を片付けながら、微かに肩をすくめて笑う。
「心配かけて、ごめん。でも、ツナっちがいるから大丈夫だよ」
その声に、ツナっちは胸の奥にふっと暖かいものを感じた。あの時の出来事も、手元の小さなハプニングも、すべてが過去のことのように思えるほど、今は静かな時間が二人を包んでいた。
研究室に漂う光と温もり、そして微かな揺れの中、二人だけの穏やかな朝が静かに続いていく。ツナっちはそっと背中を見守りながら、心の中で小さく呟いた。
――先生、ほんとにもう、無理はしないでほしい。