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午後の光は柔らかく、研究室の机や書類に淡い影を落としている。窓の外ではそよ風がカーテンを揺らし、その揺れとともに机上の光もかすかに動いた。くられは椅子に腰掛け、ペン先を紙の上で正確に滑らせながら書類に目を通している。その背中や肩の動きは落ち着いているが、ツナっちはそっと呼吸を合わせながら、わずかな緊張の残滓を探していた。
「先生、肩、少し張ってませんか?」
ツナっちは声を抑えつつ尋ねる。くられは肩を軽くすくめ、微笑む。
「大丈夫だよ、ツナっち。気にしすぎ」
その笑顔は穏やかで、午後の静寂に自然と溶け込む。しかし、ツナっちの胸の奥には、あの時の光景がまだ鮮明に残っている。倒れた姿、冷たくなった肌、浅い呼吸……支えながら感じた体温の記憶。今は平然としているけれど、ツナっちは慎重に観察を続ける。
くられは立ち上がり、研究室の片隅にある休憩スペースへと歩みを進めた。そっと腰を下ろすと、手元にある湯呑みにお茶を注ぎ、湯気がゆらりと立ち上る。香りが柔らかく室内に広がり、午後の光に溶け込むように漂った。ツナっちはその動きをじっと見守る。小さな湯気と光の揺らぎが、心の奥にじんわりと安心を届けてくれる。
「少し休憩にしようか。お茶を淹れたんだ」
くられの声は自然で優しい。ツナっちは一瞬戸惑ったが、くられの目の温かさを見て、少しだけ笑みを浮かべる。
やがて、湯呑みを手にしたままくられは目を細めて笑い、ツナっちの方を見た。
「わかっているよ。心配してくれてありがとう。大丈夫だから」
その言葉は穏やかで、午後の光に溶けるように柔らかく響いた。ツナっちは微かに頷き、肩の力を完全に抜く。長く抱えていた緊張がゆっくりほどけ、心の奥底で安心がじわりと広がった。
くられは湯呑みを両手で包むように持ち、静かに息をつく。その仕草ひとつで、研究室の空気はさらに穏やかになった。ツナっちは隣に座り、同じ光と湯気の中で呼吸を合わせる。互いに言葉は少なくても、存在の安心を確かめ合う時間が静かに流れていった。
窓の外では午後の光が傾き、机の上の書類や器具に柔らかい陰を落とす。くられはふっと微笑み、湯呑みの縁を指でなぞるようにして目を閉じる。ツナっちはその背中をそっと見つめ、安心と静けさに包まれたこの瞬間を心に刻むのだった。