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日曜日の朝。待ち合わせ場所の駅前は、休日らしく人が多いのに——
俺には、ひとりだけしか目に入らなかった。
ぷーのすけが携帯をいじりながら立っている。
いつもの制服と違う私服。
くしゃっとした髪。
少し見上げれば、柔らかく笑ってくれる目。
「……まぜ太」
気づいた瞬間、隣の女子たちが小声でざわつく。
“あの子かっこよくない?”
“え、待ち合わせ相手この子?”
……そんなの聞こえなくていいのに。
胸がちょっとだけ誇らしくなる。
「……待った?」
「全然。今来たとこやし」
ほんとは十分くらい前からいたんだろ。
いつものくせに、今日は少しだけかっこつけてる。
「てか、その服……似合ってるやん」
「は!?」
「褒めたら照れるのやめてや。かわええから」
朝から心臓に悪い。
でも嬉しい。
映画館に着くまでの道のり
駅前のビルにある映画館に向かう道で、 並んで歩くだけなのに、距離が近い。
時々、肩がぶつかる。
「……ぷーのすけ、近い」
「おまえが離れたらええやん?」
「いやだ」
「ほらみろ。近いの好きなんやん」
軽口のはずなのに、言われるたびに胸が熱くなる。
エスカレーターに乗った瞬間、 ぷーのすけが一段下から俺を見上げて言った。
「今日……なんか緊張してる?」
「してねぇよ」
「じゃ、手ぇつないでもええ?」
「……っ、ここで!? 人いっぱ……」
「嫌ならええで」
少し手を伸ばしかけて、引っ込めるふり。
その仕草が卑怯すぎて、俺の指が勝手に触れてしまう。
手を滑らせるように、指が絡む。
「まぜ太、あったか」
小声で言われて、息が止まりそうになった。
上映開始からしばらく、俺は映画に集中できなかった。
隣にはぷーのすけ。
同じ椅子に座って、同じ画面を見て、同じ空気を吸ってる。
それだけで胸がずっとざわつく。
映画の途中、
ぷーのすけがゆっくり手を伸ばしてきた。
手の甲にふれる。
指先でそっとなぞる。
——まぜ太。
声にならないその呼びかけに、 俺の指が自然とぷーのすけの手へ重なった。
暗闇の中で、そっと手をつなぐ。
映画の音だけが響く。
ふたりの鼓動が、やけに大きく聞こえる。
時々、親指で俺の手をなでてくる。
その一回一回が、胸の奥に沈んでいく。
「……っ」
堪えきれず、小さく息が漏れる。
「大丈夫か?」
耳元で、囁くように言われた。
映画館なのに……
耳元なのがずるい……。
「……大丈夫。 あんま近くで喋んな……声、震える……」
ぷーのすけは笑いもせず、真剣に言った。
「……まぜ太の反応、全部かわいすぎて…俺、映画どころやない」
心臓が一瞬で崩れ落ちそうになった。
暗闇の中で顔を見られなくて、本当に良かった。
エンドロールが流れ始めると、
周りの席から立ち上がる音が聞こえた。
なのに、ぷーのすけは俺の手を離さない。
「なぁ、まぜ太」
「……ん?」
「今日さ……俺めっちゃ楽しい」
「俺も……楽しいよ」
言葉にすると、胸がじわっと温かくなる。
ぷーのすけは少しだけ眉を下げて、俺の手をぎゅっと握った。
「……好きやわ」
小さく、こぼれた声。
映画館のざわめきでかき消えそうなほどの小ささ。 でも、俺にははっきり聞こえた。
「……え?」
「聞こえてるくせに」
ぷーのすけの親指が、つないだ手の上をそっと撫でた。
「まぜ太のこと、好きやって言うてるねん」
息が止まる。
心臓が痛いくらい高鳴る。
「……っ……俺も……好きだよ」
自分でも驚くほど素直に言えた。
暗闇のおかげかもしれない。
手を離したくない気持ちのせいかもしれない。
ふたりの指はまだつながったまま、 エンドロールの光が揺れていた。
映画館を出ると、外の空気は夕方の気配を帯びていて、 館内の暗闇からいきなり現実に引き戻される感じがした。
でも、なんか違う。
いつもの街なのに、色が少し明るい。
歩く道も、聞こえるざわめきも——
全部“ふたりでいる”ってだけで変わって見えた。
俺たちは映画館ビルを出て、ゆっくり歩き出す。
隣のぷーのすけが少し照れくさそうに笑う。
「なぁ……さっきの、聞こえてた?」
「……好きってやつ?」
「そう。それ」
「……聞こえてたよ」
言った瞬間、顔が熱くなる。
言葉として返すのも照れくさいのに、
ぷーのすけの顔を見たらもっと心臓が跳ねた。
「で……まぜ太も、言うてくれたな」
「……言っちゃったな」
「言っちゃった、て。いや、嬉しいけど」
俺は歩きながら、視線を下に落とす。
手はつないでいないのに、指先がむずむずする。
ぶつかりそうになるたび近づく肩。
それを避けない距離が、逆にくすぐったい。
「……なぁ、ぷーのすけ」
「ん?」
「手……つなぐ?」
「おまえから言うん珍しいな」
そう言いながら、ぷーのすけは俺の手をそっと取ってくれた。
温かくて、落ち着く。
——この温度を、俺はもっと前から欲しかったんだ。
歩きながら、指を絡めて、
映画館よりも強く握ってくる。
「なぁ。今日の映画んとき、手つないだだけで震えとったん分かるで? そんなん見てたら…… ちゃんと、大事にしたくなっちゃったんよね」
歩きながら手を引かれ、ぷーのすけが少し俺の前に出る。
「お前、ずるい」
「どこが?」
「……そんなこと言われたら……余計に……」
「余計に?」
「……好きになるだろ」
ぷーのすけは一瞬固まったあと、
顔をゆるませて笑った。
「……ほな、もっと好きになってもらうためにキスでもしたろか?」
「、っへ…?!」
「じょーだんねw」
「……ああ、もう……!」
自分でも驚くほど声が弾んでいた。
帰り道の夕焼けが、
ふたりの影を重ねて伸ばしていく。
翌朝。
まぜ太は、鏡の前で自分の顔を見つめた。
――なんか、昨日より顔が優しい気がする。
自覚すると余計に照れて、頬を軽く叩いて誤魔化す。
「……よし、いつも通り。いつも通りだ。」
特別扱いするなって自分で言ったんだ。
だからこそ、今日も“普通”でいたかった。
でも。
胸の奥は、昨日からずっとふわふわ落ち着かないまま。
家の前で、ぷりっつが手をポケットに入れながら待っていた。
「おっそいねん、まぜ太。」
「ごめんじゃん、おはよう」
「ん、おはよう。行くぞ」
そう言って手を伸ばしてくる。
そういうとこ、ずるい。
教室
「おい、まぜ太。席かわれや。」
「なんで? 昨日の宿題写させてあげたのに、その態度?」
「チッ……ほなちょっとだけ机ちょーだい。」
「ほらね、素直になればいいのに。」
「だまれや。」
周りにはいつも通りの空気。
喧嘩みたいなやり取り。
クラスメイトも笑って「今日も仲ええなー」と言ってくる。
誰も“ふたりが付き合った”なんて気づかない。
昼休み
購買帰りの廊下。
ふたりはあえて距離をあけて歩く。
そんな時ぷりっつが寄ってきて小声で囁いた。
「……放課後、昨日の続きしよ。」
「…なんの?」
「昨日言ったじゃん。キスしよっか?って」
まぜ太はパンを落としかける。
「バ、バカだろ…!学校でそんな、」
と言いつつもキスに興味はあった。
今がチャンスではとあからさまに意見を変えて
「……っ……はいはい……行くわ……」
とわざとめんどくさそうにする。
放課後——
校舎裏の、夕日が差し込む静かな場所。
まぜ太は、ぷりっつをじっと見つめた。
昨日より落ち着いた目。
でも、奥にあたたかい熱がある。
「まぜ太。」
「……なに。」
「昨日…じょーだんって言ったけど、やっぱしたくなっちゃった」
「昨日の…照れ隠しでしょ」
「うるさい。……でも今日は逃げへんから」
ぷりっつは一歩近づく。
そして、指先をまぜ太の手にそっと触れさせた。
「……触っていい?」
「……ダメって言っても、どうせ触でしょ」
まぜ太は照れ隠しに顔をそむける。
その横顔があまりにも愛しくて、ぷりっつは胸がいっぱいになる。
そっと手を絡めて、きゅっと握る。
「……昨日よりも好きやで。」
「……っ……言うな、そういうの……!」
その言葉が引き金のように、ふたりの距離がゆっくり縮まり――
そして。
「……ん。」
長く、 少し深く、 ふたりだけの“秘密のキス”が落ちた。
手をつないだまま、離れようとしないまぜ太に、
ぷりっつは反対の手でそっと頭を撫でる。
「まぜ太。」
「……なに?」
「……好きやで。」
その言葉にまぜ太の目が潤む。
でも泣かない。
代わりに、ぎゅっと手を握るだけ。
まぜ太は心の中で強く思った。
――この日常が続くように。
――ずっと、共にいたい。
その願いは、ふたりだけの夕焼けに吸い込まれていった。
テスト期間に入り、勉強尽くしの毎日。
夕日が差し込む静かな教室。
ふたりは机を寄せ、教科書とノートを広げていた。
「……ぷーのすけ、ここが分かんなくて。」
まぜ太が数学の問題を指さす。
ぷりっつは椅子を寄せ、隣でのぞき込んだ。
「ここはな、“逆やねん”。この式はこっち側から見んと。」
「え、逆?」
「そや。ほら見てみ?」
ぷりっつが丁寧に説明しながら、まぜ太の手元のノートにサラサラと解法を書いて見せる。
横顔が近くて、指先も近い。
まぜ太はその距離に少しドキドキしながら、でも集中しようとしていた。
「……なるほどね、ありがとう。」
「わかったか?」
「うん。ぷーのすけの教え方、分かりやすい。」
「だろ?」
「やっぱ前言撤回で」
「なんでだよ」
心の中、 まぜ太が問題を解き直す横で、ぷりっつは静かに胸の奥が痛んだ。
(……余命、言われとるんやぞ。 こんな問題覚えても、将来使う機会なんて…ほんまは無いかもしれへんのに。)
けれどまぜ太は、他の生徒となんら変わらない姿でペンを動かしている。
みんなと同じように、
同じテストを受けて、
同じように一喜一憂して。
(……ほんま、すごい人やな。まぜ太は。)
その努力を、簡単に「無駄」だなんて思いたくない。
そして、そんなふうに頑張っているまぜ太を支えたい気持ちが、ますます強くなる。
(俺…もっと、まぜ太のためにできること全部やりたい。)
そう胸の中で願ったけれど、口には決して出さない。
余命の話をしたくないとまぜ太が望んだのだから。
ただ、そばにいて、力になりたかった。
問題が解けた瞬間——まぜ太の小さな笑顔
「……できた!」
まぜ太が嬉しそうに顔を上げた。
「お、ちゃんとできとるやん。」
「ぷーのすけのおかげ。」
「まあ、俺が天才やからな。」
「はいはい。」
まぜ太が笑う。
その笑顔が思った以上に眩しくて、ぷりっつは胸が熱くなった。
(……守りたい。 こうやって笑ってる時間を、もっともっと長くしたい。)
帰り道
勉強を終えて、ふたりで下校する。
「今日はありがとう、ぷーのすけ。」
「別にええよ。明日も教えたる。」
「ふふ…嬉しい、」
まぜ太が袖をつまむ。 ほんの一瞬。
だがそれで、ぷりっつの心臓は大きく跳ねた。
「……お前、そういうとこやで。」
「え…なに、?」
「なんでもねーよ、」
夕焼けの道、ふたりの影は隠しきれない“恋人”の形をして寄り添っていた。
休日の昼下がり。
まぜ太の部屋には、教科書とノートが広がっていた。
静かで、少し眠たくなるような空気。
窓の外では鳥の声がして、夏の気配が近づいている。
勉強開始5分で、まぜ太の限界がくる
「……ぷーのすけぇ……」
「なんや。」
まぜ太はシャーペンをくるくる回しながら、机に突っ伏した。
「もう勉強やだぁ……今日休みだよ?なんでこんなことしてんの……?」
「お前、まだ5分しか経ってへん。」
「5分が一番つらいの……聞いてぷーのすけ……」
「聞きたない。」
そう言いながらも、ぷりっつは笑いをこらえられなかった。
まぜ太がノートに頬を押しつけて“ふにゃ”っとしているのが可愛すぎるからだ。
「まぜ太、立て。問題一個ずつやってこ。」
「やだ……今日はもう終わりでいいよ……?」
「あかん。」
「え〜〜〜〜〜……」
完全に駄々っ子だった。
ひとつ提案をする
ため息をひとつついたあと、ぷりっつは言った。
「……じゃあな、テスト終わって、点数良かったら……」
まぜ太の耳がピクリと動く。
「……夏祭り、行こっか。」
まぜ太の顔がぱあっと上を向く。
「……ほんと?」
「ほんまや。」
「二人で?」
「当たり前やろ。」
「……デート?」
「……まあ……恋人やしな。」
ぷりっつの方が照れて顔をそむける。
でもまぜ太は、まるで光が差し込んだみたいに表情が明るくなった。
「よーし!じゃあ勉強しよ!」
「態度変わりすぎやろ笑」
「やる気出たんだもん!」
さっきまで机に沈んでた子とは思えない勢いで、まぜ太がシャーペンを握り直す。
ぷりっつはその姿を見て、思った。
(……ほんま単純やな。 …でも……めっちゃ、可愛い。)
胸の奥がくすぐったくて、思わず微笑んでしまう。
「ここ分からん。」
「はいはい。ここはこうやってな……」
「え、天才?」
「俺が天才なんは昔からや。」
「調子乗った。」
「……誰のために教えとる思てんねん。」
「えへへ、ごめん。」
問題を解くたび、
「できた!」
「すごいじゃん」
そんなやりとりが繰り返されて、
いつもの勉強とはまるで違う“あったかい時間”が流れていく。
ぷりっつはまぜ太の横顔を見ながら、心の中で静かに感じた。
(……この子と一緒に、夏祭り行けたらええな。 浴衣着せたら絶対似合うやろし… 屋台全部回って……写真撮って……)
そして、少しだけ喉が詰まる。
(……時間、少ないのにな。 でも……今この瞬間は、普通の恋人みたいに過ごせる。)
まぜ太の笑顔を見ていると、
“悲しい未来”のことを忘れてしまいそうになる。
夕方、一区切りついて
「ふぅ……頑張った。」
「今日の分は合格やな。」
まぜ太は嬉しそうにぷりっつの袖を指でつまむ。
「……夏祭り、絶対行こね?」
「行くって言ったやろ。約束や。」
「やった……」
その顔は、まるで子どものように純粋で。
ぷりっつは胸がぎゅっとなる。
(……絶対、連れて行く。 約束は絶対守るからな、まぜ太。)