テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「いやー!」
その透き通った頬に手を振りかざし、僅かな眠りにつこうとする街にパチンと乾いた音を響かせる。
「お前なー!」
勢いで頬を打ってしまった。
真っ赤に染まった彼の頬を見て、私は自分が悪いのに頭を抱えてギュと目を強く閉じていた。
また、やってしまった。
「ご、ごめんなさい! 私、もう……」
「……服、直せよ」
流星が低く呟きながら目線を逸らす。その声が妙に優しくて、私は戸惑いながら自分の服に視線を落とす。
ポロシャツのボタンが開いたままで、この状態で駅前通りを走っていたなんて。
全身が火照る感覚を抑えながら第一ボタンまで閉め、恐る恐る目を開けると、彼は視線を逸らしながら紺色ブラウスのボタンを触る彼。
どうやら、掛け違いがあったみたいで黙々と直す横顔を思わず見とれてしまった。
もしかして、なりふり構わず追いかけて来てくれたの?
不器用なくらいに誠実な、その仕草。すると流星は、電光掲示板とその横に設置されている柱時計を見つめて呟く。
「……始発は、四時五十一分」
「えっ?」
唐突な言葉に、間が抜けた声が漏れる。
「現在一時三分。始発まで三時間五十分ってところだな? それまで付き合え。そしたら、解放してやるよ」
「……え? いや……」
なんとか振り絞った言葉を、彼の声がかき消す。
「顔が商売道具とされる、セラピストの顔を引っ叩いたんだ。その上、流星の名に傷を付ける? これで帰れると思っているのか?」
「わ、わ、分かりました!」
逃げ場のない夜の空気に押されるように、私は思わず頷いてしまった。
もう彼のペースに巻き込まれるしかない。
でも、なぜだろう。私はそのまま逃げたいとは思わなかった。
「本当の恋を教えてやる」
「え?」
さっきと違って、今度はやさしく、手を握られた。
手首ではなく、手の平ごと包み込まれる。
凛とした声に引かれ、私は立ち上がる。
そのまま腕を引かれ、彼に導かれるように、私は夜の街を走り出す。
「ちょっと、どこに行くの!」
「あと三時間四十八分しかねーから、走るぞ!」
「どこに行くか聞いてるのー!」
ふたりの声が混ざって、静まりかけた通りに弾ける。
彼は名前通り、流れ星のような人だった。
真っ直ぐで、衝動的で、どこか危うい。一瞬で相手の心をさらっていく。
その光に触れたら、もう戻れない。