テラーノベル
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駅から離れた小道。準備中の看板を向けられた学生向けの定食屋に、おしゃれな外装をしたカフェ。
その前を抜けて行くと視界に入ってくるのは、照明により照らされた大学名と四階立てのキャンパス。
心まで暗く染まり、もう前が見えない。
そんな私を、光りが差す所まで導いてくれた彼。
そこは街で頻回に目にする、四角い建物。暗闇に光る安心感。ここは。
「……コンビニ? 駅前にもあったのに?」
「ここは、ベンチがあるんだよ。飯、食おうぜ」
流星が指差す先には、私の友達と呼べるほど馴染みがある懐かしの木製ベンチが設置されてある。
変わらないな、ここは。
安堵感と、言語化出来ない感情が入り混じり、私の心はより分からないものへと変わっていく。
「私は、いらないから」
「ん? そっか? 俺は買ってくるから、逃げんなよ?」
「分かってるよ」
一人ベンチに座ろうとする私に、「待て」と言わんばかりに手を伸ばしてきた。何かと思えば黒いズボンのポケットからハンカチを取り出し、ベンチの表面を丁寧に拭ってくれた。
ドクン、と胸が鳴る。
いや、彼はセラピストだから優しさも仕事のうち。
離れていく背中を見つめながら、自身にそう言い聞かせる。身の程ぐらい、弁えているから。
ベンチに背中を預けて夜空を見上げると、広がるのは煌めく星と大きな満月。駅前はネオンが多くて、その存在に気付かなかった。
またこのベンチに座ることになるなんて、思いもしなかった。一人でおにぎりを食べていた、このベンチで。
「ん!」
「え?」
流星に押し付けられたのは、蓋が開きお湯がたっぷり入ったカップラーメン。
「ま、食えねーなら、俺が食うから問題ねーけど」
そう言う彼の右手にも、同様のカップラーメンの容器があり湯気が出ていた。
「二つ食いとか、ヨユーだし」
隣のベンチに足を広げて座ったかと思えば割り箸を綺麗に割り、豪快にすすり上げる。
「え、深夜に? しかも、カレー味!」
「背徳の味なんだよ」
そう言いながら、スープをゴクゴクと飲んでいく。
「あなた、普段からお客さんとこうゆうデートしているの?」
「まさか。ちゃんと綺麗めのレストランに決まってるだろ? あ、行きたいのか? じゃあ次は昼に会って」
「結構です」
目力の強い彼から目を逸らし、私は誘われるまま俯いてしまう。空腹なんて感じなかったのに、スパイスの効いたカレーの香りが私の胃を刺激してくる。
一口汁を啜れば、口の中で広がるカレー風味。渡されていた割り箸で、夢中で食べていた。
「んー! 美味しい!」
「だろ? 夜中のカップラーメンは最高なんだよ!」
人が少ない静けさ。周囲の暗さから人目を気にしなくて良い安堵感。コンビニより差す明るい光りが、この場所を作ってくれているみたい。
人目を気にして食べていた私は決して顔を上げることがなく、ここから見える空の広さを知ることなんてなかった。
「どうして、女風なんか頼んだ?」
突然の問いに、買ってきてくれた三百五十ミリリットルのお茶を咳き込んでしまった。
「おいおい、大丈夫かよ?」
「全然、問題ないし!」
こちらを覗き込んでくる顔から、パッと身を逸らし、自分を落ち着かせる。
ふっと思い出すのは、出会ってからのこと。
駅で待ち合わせをし、ホテルに行き、その後は。
そういえば私、この人の前で。
まさかこんな一夜を過ごす相手だと思っていなかったから、えーいと色々思い切っていた。
うわあ、もう帰りたい……。
気付けば、ペットボトルを握る手も強くなっていた。
つい数時間前のことだというのに、遠い昔のことのように錯覚してしまうのは、彼の不思議な魔法にかかってしまったからだろうか。
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