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ご本人様とは全く関係ありません
あけましておめでとうございます!
新年第1作目!
気づけば長く、ぐたぐだな文章に……。
バタバタしながら作ったので、
誤字脱字がとんでもないことに
なってるかもしれないですが、
青桃、赤水、黒白の3本オムニバスです!
今年も1年、よろしくお願いします!!
(*˘︶˘*).。.:*♡
あなたと始まる
何気ない1日
その毎日が俺/僕にとって
特別な日になってるって
気づいてる?
あなたさえいれば
どんな願い事も叶わなくていい
強いていうなら
今年も 1年よろしくね
俺/僕の旦那様
今年もよろしく、旦那様
N.side
「それでは、みんなそろったので!!
あけまして〜??」
「「「「「「おめでと〜!!!」」」」」」
神社の比較的人が少ない一角で、
俺たちの声だけがやけに大きく響く。
1月1日。
無事に新年を迎え、
いれいすメンバー全員で、初詣に来ています。
このあと、みんなで参拝をして、
おみくじ引いて。
それからは、
天才組と白黒組、俺らないふの3組に分かれて、
別行動の予定だ。
鳥居をくぐって、
手水舎の前に並ぶと、
さっきまでの騒がしさが嘘のように
みんな自然と声を落とした。
「りうちゃ〜ん、絶対あれ寒いよね……」
「正月からの洗礼だと思うしかないです。
頑張りましょ、ほとけっち」
「初兎、ハンカチ先出してたほうが、
ええかも」
「そうやね、ありがとう悠くん」
……ん?んん??
明らかにりうら、口調違くないか?
さっきまでタメで話してたよな?
しかも、最近、
いむって言ってたのに、
ほとけっちに戻ってない??
何があった??
ちらっと当のいむを見ると、
何も言わずに流れている水を
じっと見つめていた。
その背中が、
心なしかいつもより小さく見える。
そりゃそうだよな、
急に自分だけ敬語になって、
呼び方まで変わったら。
気にしないほうが難しい。
……え、待って
このあと別行動になるんだよな?
大丈夫か、これ。
そう思って、横にいるまろを見ると、
まろもちょうどこっちを見ていて、
一瞬だけ目が合った。
まろは、
俺が2人の方へ足を向けているのを
止めるように首を振り、
人さし指を口の前に持ってきた。
首を傾げ、眉を寄せると、
あとでな、とまろの口が動いた気がした。
……今は、触れるなってことか。
そうこうしているうちに、
順番がまわってきて、
冷たい水で手水をとる。
指先がじんと痺れる感覚と一緒に、
さっきまで渦巻いていた考えを
頭の奥に押しやった。
「は〜、今年も拝殿の列長かったな〜」
参拝を終えて、
初兎ちゃんがそうぼやきながら、
今度はおみくじのほうへ歩き出す。
「まぁ、正月だもんね」
首都圏の初詣でなんて、
どこもそんなもんだ。
地元じゃ、まず考えられなかったけど。
「おみくじ楽しみだね!」
いむが、
自分の暗い気持ちを振り払うように、
明るい声を出す。
「おみくじだけで、今年の運勢が
決まるのは、正直ごめんやけどな」
「そう言いながら、まろも毎年引いとるやん。
やっぱりおみくじ引かな、
正月始まったって感じせぇへんもん」
そんな声に押されながら、
俺たちもぞろぞろと社務所に並ぶ。
番号を告げて、
巫女さんから紙をもらう。
その場では、まだ開かない。
みんなで同時に開くのが、
いつの間にか恒例になっているから。
「いくよ?せーの!」
俺のその声を合図に、
一斉に紙が開く音が重なって、
境内が一気に騒がしくなる。
「え、俺大吉やった!」
「あにきほんま!?
俺もやった!」
「りうら、末吉〜。
まぁ、そこそこかな」
「うぇ〜、僕小吉だった〜」
「やばい、どーしよ、俺凶やねんけど」
「嘘!?凶引いちゃったの!?」
「初兎ちゃんある種強運じゃん」
「所詮おみくじやからね、
今回はくじ運が悪かった、いうことで……」
わいわいと結果を言い合う声の中で、
ふと視線が集まった。
「で、ないちゃんは?」
「ないこ、どうやったん?」
一瞬だけ、言葉に詰まる。
手の中の紙を
もう1度だけ見下ろした。
「……大吉」
「おぉ〜!」
「さすがないちゃんだね!」
「今年は大人組がみんな大吉やったな〜」
「しょにだは凶やけどね」
「うるさい!まろちゃん黙れ!」
「お?なんや?初兎をいじめる気か?」
「そ、そんなわけないじゃないっすか。
あにき?その拳、降ろしましょ、ねっ」
口々に祝われて、
俺は場の空気に合わせるように、
曖昧に笑ってみせた。
大吉。
間違いなく大吉。
でも、視線は自然と、
紙の中央に書かれた文へ戻ってしまう。
『平穏を願うは吉。
しかし、変化を恐れるな。
変わりゆく中に、真の安定あり。』
平穏。
それは、俺が1番欲しかったものだ。
なのに、
〝変わる〟という言葉だけが、
胸のなかで小さく引っかかる。
「ないちゃん?どうしたの?」
その声に顔を上げると、
気づけばみんなは
おみくじ結び所へ向かっていて、
俺だけが1人、取り残されていた。
「あ、ごめん!今行く!」
俺は、
おみくじを握ったまま、
慌ててみんなの後を追う。
『変わることを恐れるな。』
その言葉を、
まだどう受け取ればいいのか、
分からないまま。
「ないこ〜、まだ食べるん〜?」
「あと、箸巻きと焼きそばは、確定で食べる」
「嘘やん!?
さっき、唐揚げとか食べとったよな!?」
みんなと別れて、
俺は、あの言葉を忘れるように、
屋台の食べ物をやけ食いしていた。
立ち止まったら、
あの言葉が追いついてきそうで。
屋台のおっちゃんから、
湯気の立つ焼きそばを受け取る。
口に運べば、
ソースの味が強くて、
考える余地をくれない。
それでいい。それで、いいんだ。
「ほんま食べ過ぎちゃう?太るで?」
横から、まろが呆れたように言う。
「うるせぇ、愛せる面積が増えると言え。
それに、正月だからチートデイですー」
「理由になっとらんやろ、それ」
笑いながら返されて、
俺は肩をすくめた。
噛んで、飲み込んで、
確かに腹は満たされていく。
でも、そのたびに、
あの言葉が
頭の奥から顔を出そうとする。
それを追いやるように、
また箸を進めようとして
「……なぁ、ないこ」
まろの、いつもより少し低い声が
俺を呼んだ。
俺は、箸を止め、
顔を上げずに返す。
「なに」
「何かあったん?」
その声に冗談はなかった。
ちらりと視線を向けると、
まろは真剣な顔をしていて。
誤魔化しは、許さない。
そう、言われてる気がした。
嘘をつこう。
どうやってかわそう。
そう思えば思うほど、
言葉は喉の奥で絡まって、
外に出てこなくて、
「え?まろ、どうしたの?
俺、なんかおかしいとこある?」
軽く笑って、そう言うのが限界だった。
まろは、はぁ、と小さく息をついた。
「おみくじ引いてから、
ずっと暗い顔してんで」
焼きそばの容器を指差しながら、
まろは続けた。
「食べるの好きなないこが、
食べとるのに全然満足した顔してへん」
それに、と少し間を置いて。
「今もや」
まろは、俺をまっすぐ見て言った。
「引きつった笑み浮かべとるやつに、
何もあらへんわけないやん」
すべて、言い当てられてしまった。
誤魔化す余地も、
笑って流す逃げ道も、もうない。
俺は、一息ついて
諦めたようにポケットへ手を入れた。
さっき引いたおみくじを
くしゃりとならないように取り出し、
何も言わずに差し出す。
「結ばんかったん?」
こくりと頷くと、
まろはそれを受け取り、
黙って目を通した。
「……大吉、やな。
これがどうしたん?」
あまりにも分かっていなさそうで、
じとっとした視線を向ける。
すると、まろは一拍おいてから、
はっとしたように声を上げた。
「あ……もしかして、これか?」
まろは、
おみくじの中央に視線を落としたまま、
静かに息を吸った。
「……あー」
それだけで、
ちゃんと気づいたんだと分かった。
まろは、声に出さず続きを読み、
それから、ゆっくり顔を上げる。
「『平穏を願うは吉。
しかし、変化を恐れるな。
変わりゆく中に、真の安定あり。』……か」
まろは、ふっとかすかに笑った。
「なんや、これ。
ないこに1番刺さるやつやん」
「……やっぱそう思う?」
「当たり前やろ」
迷いなく、そう言い切る。
「今が大事やから、今のままでおりたい。
せやけど、それが壊れるんが
何よりも怖い、やろ?」
図星すぎて、
思わず視線をそらした。
「俺は、今のままでいいんだよ。
何も変わらず、何も壊れず、
みんなで笑っていられれば、
……まろの隣にいられれば、それで」
まろは少し考えてから、
ぽんと、軽く俺の肩を叩いた。
「このおみくじ、
そういうことを言ってるんちゃう?」
「……え?」
「変化ってな、
壊れることでも、
全部失うことでもないで」
まろは、俺を見る。
「守ろうとして、
選び続けることも、
立派な変化や」
俺は少しだけ目を見開く。
「それに、ないこはな、
守りたいものが分かっとる。
それだけで、ええやん」
まろは、いつもの調子で笑う。
「守るために、
考えて考えて。
その都度、変化していけばええんよ」
その言葉に
胸の奥でひとつだけ、
残っていた不安が胸に浮かぶ。
「……でも、もし間違った選択をしたら?」
まろは一瞬も迷わず、
肩をすくめた。
「その時は、それを補うくらいの選択をする」
続く言葉は、柔らかかった。
「もちろん、俺も手伝うで?」
その一言が、
思っていたよりも、深く胸に落ちた。
俺は、おみくじを畳んで、
今度こそポケットにしまった。
『変わることを恐れるな。』
まだ、その意味を完全には分かっていない。
でも。
少なくとも、
1人で抱え込む必要はないらしい。
「……ねぇ、まろ」
「ん?」
「やっぱりんご飴も食べていい?」
「まだ食うんか!」
そう言って笑うまろの声が、
さっきより、近く感じられた。
平穏を願う気持ちは、
きっと変わらない。
ただ、
それを守るために、
少しずつ形が変わっていくことを。
今年は、
ちゃんと受け取ってみようと思う。
「あ、まろ」
「なんや?
ベビーカステラも食べたいん?」
「そうじゃなくて」
1番大事なことを
言い忘れていたことに、
今さら気づいた。
「今年もよろしく、まろ」
まろは、きょとんとした顔をして、
それから、すぐに笑う。
「なんや、急に。
そんな改まって」
「別に、
言いたかっただけ」
そう言うと、
まろは少しだけ目を細めて
「こちらこそ。
今年もよろしくな」
そう返してくれたんだ。
H.side
朝から、りうちゃんの様子がおかしい。
僕のことを
最近はいむって呼んでくれていたのに、
今日はまた、ほとけっちに戻ってる。
それだけなら、
気のせいって思えたかもしれない。
でも、みんなと合流してから
はっきり分かった。
僕にだけ、敬語。
他のみんなには、いつも通りタメなのに。
僕、何かしちゃったかなぁ……。
思い返しても、
これといった心当たりはなくて。
だからこそ、
単に嫌われてしまったんじゃないかって
不安になる。
「ほとけっち?どうかされましたか?」
僕が俯いてたのを気にして、
りうちゃんが話しかけてくれた。
その呼び方と口調は、
さっきと何一つ変わらないけれど。
「ううん、どうもしてないよ」
「それならよかったです。
りうらたちは、何をしますか?」
「んー…とりあえず、
このあたりぶらぶら散歩しない?」
屋台の食べ物を食べたり、
神社の絵馬やお守りも買おう。
そんな計画はあったけど、
それどころじゃないくらい、
りうちゃんのことばかり気になっているのに。
「了解です」
いつもと同じように、
ふわりと笑みを浮かべて
そう答えられるから。
その『いつも通り』が
今はただ苦しかった。
どこかを目指しているわけじゃないけど、
当てもなく歩きながら、
さっき結んだおみくじを思い出していた。
『親しき仲にも、迷いあり。
相手の態度に違和感を覚えるとき、
その不安は己の心にあり。』
まるで、
今のりうちゃんと僕のことを、
そのまま書き写したみたいで。
あまりにもタイムリーすぎる言葉に、
向き合うのが嫌で。
だから、
誰よりも先におみくじを結んだ。
見えなくしてしまえば、
少しは楽になる気がしたから。
「こんなとこ、あったんだね」
「ですね、りうらも初めて知りました」
当たり障りのない会話をしながら、
僕はなるべく、
隣をみないように歩いていた。
そんなふうにしていたら、
結び所に揺れる紙の音が、
風に紛れて聞こえてくる。
ぎゅっと結ばれた白い紙は、
願いを託したというより、
見ないふりをした証のようで。
胸の奥が、きゅっと痛んだ。
その音が聞こえなくなる場所まで、
考えるより先に足を動かしていた。
「……ほとけっち」
後ろから、
りうちゃんの呼び止めるような声がした。
振り返るのが少し怖くて、
それでも、無視することもできなくて。
僕は、
ゆっくりと足を止めた。
「はい」
反射みたいに、
敬語で返してしまった自分に、
あとから気づく。
りうちゃんは、
ほんの一瞬だけ目を伏せてから、
困ったように笑った。
「歩くの、早いですね。
置いていかれると思いました」
「あ、ご、ごめん。
無意識だった」
会話はちゃんとしている。
言葉も丁寧だ。
なのに、その間に、
見えない壁がある気がして。
『不安は、己の心にあり。』
分かってる。
分かってる、はずなのに。
「……りうちゃん」
呼びかけて、
言葉の続きが見つからない。
聞いてしまえば、
何かが崩れてしまう気がして。
聞かなければ、
この距離が続く気がして。
どっちに転んでも、
自分にとってしんどい未来しか見えなかった。
りうちゃんは、
僕の言葉を待つように、
何も言わず、そこに立っている。
その沈黙が、
やけに優しくて、
だからこそ、余計に心がきしんで、
「僕、ちょっと寒くなっちゃったから、
何かあったかい飲み物買ってくるね!」
そう言って、
この場から離れることしかできなかった。
「はぁ」
近くにりうちゃんがいないことを
いいことに、
ベンチに腰を下ろして、深く息をついた。
急に変わった呼び名と口調
その理由を聞きたい気持ちはある。
でも、
もし答えを聞いてしまえば、
何かが決定打になって、
今までがすべて崩れてしまいそうで。
あいにく、
そんな覚悟を持てるほど、
僕は強くないらしい。
実際、その結果が
今のこの状況だ。
自販機で買ったホットはちみつレモンを
口に含むと、
じんわりと体全体に沁みわたる。
……って、僕、
だいぶおじさんみたいなこと言ってない?
そう思って、
思わず苦笑した。
そんなことを思ったからなのかな。
「ねぇ、君って、今1人?」
まさか、本当のおじさんに、
声をかけられるとは思わないじゃん!?
しかも、なんかにやにやしてない!?
これって、もしかしなくても、ナンパなの!?
新年早々!?
いやいやいや、
今年、色々と運悪くない?僕!!
胸の奥がさっきとは、
違う意味でざわついた。
「あの、僕、男ですよ……?」
念のため、聞いておいた。
女の子だと勘違いしてたら、
僕が男だと知って、
離れてくれるだろうと思って。
「うん、そうだろうね」
あ、知ってた。
知ってたんだね、おじさん。
じゃあ、なおさらなんで声かけてきたん!!
その辺に
可愛い女の子なんて山ほどいるでしょ!!
そんな心の叫びも虚しく、
おじさんは、僕の手首を掴む。
「ひっ」
手つきが気持ち悪くて、
生理的に出た声にも反応しているのか、
おじさんは、鼻息を荒くしながら、
さらに距離を詰めてくる。
助けを呼ぼうにも、
このあたりには人の気配がない。
声を出したところで、
きっと、りうちゃんには届かない。
りうちゃんから離れようとしたことが、
こんな形で仇になるとは……。
そう考えた瞬間、
遅れて危機感が押し寄せた。
ハッと我に返った時には、
おじさんの顔が、すぐ目の前にあって。
しまった。
考え事してて、
気づくのが、遅すぎた。
とっさに顔を背けて、
とにかく距離をとろうと首をひねる。
そのとき、
背後から肩を引っ張られて、
身体がぐっと引き止められた。
勢いのまま、
背中が誰かにぶつかる。
驚いて顔を上げると、
そこには
「りうちゃん!?」
遠くにいたはずのりうちゃんが、
すぐ目の前に立っていた。
「何してんすか、おっさん」
りうちゃんは、僕の前に一歩出て、
僕を守るように立ち塞がる。
その声は低くて、はっきりした声だった。
いつもの柔らかさはなくて、
それだけで空気が変わる。
おじさんは一瞬、言葉に詰まったように
見えたけど、すぐに言い返そうとしていて、
「触んないでもらえますか。
嫌がってんの、
その腐った目でも分かりますよね?」
りうちゃんは、
敬語でも、挑発するような言い方で、
一切視線を逸らさない。
周囲に人が集まり始めて、
そのことに気づいたのか、
おじさんは舌打ちして後ずさった。
「……なんだよ」
吐き捨てるように言って、
そのまま人混みに消えていく。
その背中が見えなくなってから、
りうちゃんは、ようやく僕を振り返った。
「大丈夫ですか?」
その声は、いつものりうちゃんで。
でも、
「なんで、助けてくれたの……?」
敬語が、呼び名が、
それでも変わらないことのほうが
僕には、重要だった。
りうちゃんは、目を見開くけど、
1度溢れてしまった気持ちを抑えることは
できなくて。
「どうして、敬語なの?」
自分でも分かるくらい、
声が強張っていた。
「昨日まで、タメだったのに。
呼び方も……ほとけっちに戻ってるし」
言葉を重ねるほど、
胸がじわじわと締め付けられていく。
「ねぇ、僕……
昨日、何かしちゃった?」
最後のほうは、
ほとんど問いかけになっていなかった。
声が、
少しずつ震えていくの分かる。
りうちゃんは、
答えに困ったように
視線を逸らした。
その仕草だけで、
全て悟った気がした。
あぁ。
ほんとに、
僕のこと、嫌いになっちゃったんだ。
そう思った瞬間、
胸の奥が、静かに沈んでいった。
りうちゃんは、しばらく黙ったまま、
それから、深く息を吸った。
「……違う」
それは、今日初めて聞いた、
懐かしい口調だった。
「そんな顔させるつもりでも、
そんなふうに思わせるつもりもなかった」
顔を上げると、
りうちゃんはもう視線を逸らしていなくて、
僕を真っ直ぐ見ていた。
「じゃあ、なんで……」
「正月だから」
間髪入れずに返ってきた
予想外の言葉に、目を見開く。
「え……?」
「正月って、
ちょっと特別だと思わない?」
りうちゃんは、
言葉を探すみたいに、少しだけ間を置いた。
「区切りっていうか、
気持ちを整える日っていうか……」
そう言って、照れたように
そっと視線を伏せた。
「いむは、りうらにとって大事な人で。
今年も、去年みたいに、
冷たい態度とっちゃうかもしれない。
だから、正月だけは、
軽く扱わないようにしようと思って」
頭が追いつかない。
「……じゃあ、ほとけっちは?」
「戻したんじゃなくて、
出会った頃の呼び名に改めただけ」
優しく言われて、
今度こそ、言葉が詰まった。
「りうらの急な態度で
不安にさせてたら、ごめん」
りうちゃんは、
申し訳なさそうに笑う
「でも、りうらがいむを嫌うなんて、
絶対ないよ。むしろ、その逆っていうか……」
そこまで言って、
りうちゃんは言葉を濁した。
そうだとしても、それで十分だった。
胸の奥に居座っていた重たいものが
すうっと溶けていく。
「……じゃあ」
さっきとは別の意味で声は震えているけれど、
「今年も隣にいてくれる……?」
それは、精一杯の僕の心の声。
りうちゃんは、
一瞬だけ目を見開いて、
すぐに破顔した。
「当たり前じゃん。
りうら、いむから離れる気ないよ?」
その返事を聞いて、
ようやく、ちゃんと息ができた気がした。
「りうちゃん、りうちゃん!
はやくいこ!」
「ちょっと待ってってば。
はやすぎるよ、いむ」
そう言いながらも、
りうちゃんは小さく笑って、
ちゃんと隣まで歩幅を合わせてくれる。
さっきまで胸を締めつけていた不安が、
嘘みたいに軽くなっていて、
その分、足取りまで軽くなってしまう。
「りうちゃん!
ほら、あそこ。お守りあるよ!」
「ほんとだ……種類、多いね」
社務所の横に並ぶお守りを前にして、
二人そろって立ち止まる。
色も形もたくさんあって、
どれもそれなりに意味がありそうで。
「いむは、どれにする?」
「うーん……」
少し考えてから、
僕はひとつ手に取った。
「これ。健康祈願」
「堅実だね」
「だって、今年も元気じゃないとさ」
そう言うと、
りうちゃんは一瞬だけ考える素振りをして、
同じ棚から、よく似たお守りを選んだ。
「じゃあ、りうらもそれにする」
「え、同じやつ?」
「うん。並べたほうが、安心するかなって」
その言い方があまりにも自然で、
胸の奥を、またじんわりあたたかくさせる。
「……それ、僕が不安がりみたいじゃん」
「事実じゃないの?」
「ひどい!」
笑い合いながら、
一緒にお賽銭箱の前へ向かう。
きっと、
呼び名が変わっても、
口調が変わっても。
こうして隣で笑っていられるなら、
今年も、大丈夫だ。
そう思いながら、
僕はそっとお守りを握りしめ、
少し前を歩いていたりうちゃんを呼び止める。
「りうちゃん!」
振り返ったりうちゃんは、
きょとんとした顔でこちらを見る。
「今年もよろしくね、りうちゃん!」
その言葉を聞いて、
ふわりと、いつもの優しい笑みを浮かべて
りうちゃんは答えた。
「はい。よろしくお願いします!」
「……あ、ねぇ!
さっきまで敬語じゃなかったのに、
戻ってるじゃん!!戻して!!」
軽く抗議すると、
りうちゃんはいたずらが成功したみたいに
楽しそうに笑っていて。
その表情につられて、
僕も、声を立てて笑っちゃったんだ。
S.side
新年始まって、早9時間。
僕はさっそく、
おみくじで凶を引いてしまった……。
いや待って。
普通さ、おみくじに凶って入ってるん?
入ってたとしても、
そんな簡単に引くもんちゃうやろ?
よりによって
なんでその低い確率を
ピンポイントで僕が引いてしまうんや……。
まだ何も始まってへんのに。
僕は運を使い果たしたんか、
それとも、
これから先、全部こんな調子なんか。
縁起でもない考えが
頭の中をぐるぐる回って、
勝手に不安を膨らませていく。
「初兎〜?行くで〜??」
数歩前を歩く悠くんが
のんきな声で僕を呼んだ。
えぇなぁ、悠くんは。
大吉やもん。
新年幕開けから、
縁起のえぇ話やで。
凶を引いたとき、
みんなの前では、
気にしてへんふりをしたけど。
ほんまのところ、
僕は結構気にしていて。
悠くんにだけは、
バレへんように、
表情整えて、
気を引き締めなきゃあかんな。
悠くんの背中を追いかけながら、
僕はぎゅっとポケットの中の紙を握った。
結び所で、結ぶか迷った。
でも、結んでしまえば、
神様に『僕は凶です!!』と
自分から認めてしまう気がして。
ただの迷信やって分かってるけど、
そうすると、
さらに良くないことが起きそうで。
なんとなく結べなかった。
だから、僕は、
凶を手放すことも、
受け入れることもできないまま、
ポケットの中にしまい込んでいる。
悠くんの後ろをついていくと、
着いた場所は、
さっきのおみくじをもらった巫女さんのいる
社務所だった。
悠くんは振り返ると
「絵馬、しようや」
そう言って
何でもないことみたいに
僕の手に絵馬とペンを渡した。
その何でもなさが
今の僕にはほんの少し眩しかった。
社務所から、
少し離れた場所に腰を下ろし、
絵馬に書く内容を考える。
家内安全?
無病息災?
いや、違う。
頭に浮かぶ願い事なんて、
ひとつしかない。
でも、それを書くのは、
なんだか怖かった。
横を見ると、
悠くんはもう書き終えたらしく、
紐を通している。
「はやっ。
悠くん、何書いたん?」
「秘密」
そう言って、
絵馬をさっと裏返す。
「え、見せてくれへんの?」
「うん。見せへん」
即答だった。
冗談っぽく言っているのに、
その手つきは妙に丁寧で、
本気で隠しているのが分かる。
「なんでやねん」
「願い事は、言ったら叶わなくなる言うやん」
「健康第一とか?」
「違う」
「じゃあ、人間関係とか?」
「それも違う」
当てにいこうとする僕をよそに、
悠くんは一切ヒントをくれない。
そのくせ、
僕の手元をちらっと見て言う。
「初兎は、もう書いたん?」
「……まだ」
書いてない、というより、
書けない、というほうが正しい。
凶を引いた僕が、
何かを願ってもええんか分からなくて。
願った瞬間、
その願い事は叶わなくなってしまいそうで。
「そっか」
そう言って、
自分の絵馬を持って立ち上がった。
絵馬を先に掛けに行くのかと思ったそのとき、
「じゃあ、初兎が気にしてること、
俺が当ててみせようか」
悠くんは、僕の反応を見ながら、
ポケットから何かを取り出した。
手に持っているのは
「……え?」
僕のポケットの中に入っている紙と
同じもの。
違うのはただひとつ、
その紙に書かれている文字が大吉だということ。
「ゆ、悠くん?どうしたん?」
悠くんは少し笑いながら、
にやりと僕を見て笑った。
「交換しよや、初兎のと」
その言葉に、
思わず目を見開いた。
「僕のおみくじ、凶やで?
せっかく大吉引けたんやから、
自分でもっとき?」
悠くんの強運と僕の不運を
簡単に交換なんてしちゃあかん。
そう思って言ったけど、
悠くんは迷いなく、首を振った。
「俺は、大吉引けることより、
初兎が笑ってくれるほうが嬉しいんよ」
そう言って、
悠くんは自分のおみくじを差し出した。
「それに、凶なんて、
俺の筋肉でどうにかなるわ」
満面の笑みを浮かべる悠くんは、
本当に、僕が好きになった悠くんそのままで。
これ以上、悠くんの提案を拒むのは
この優しさごと突き返すみたいで。
ありがたく、
おみくじを交換してもらった。
「これなら、初兎の願い事、
なんでも叶うな!」
にかっと笑って言う悠くん。
そんな言葉と表情に押されて、
僕は絵馬にようやくペンを走らせた。
『悠くんと今年も一緒にいられますように』
その願いが叶うのならば、
何もいらない。
最後に紐を通して、
勢いよく立ち上がった。
「よし、絵馬掛けに行こ!」
もう僕の心には、
さっきほど不安な気持ちはなくなっていた。
「なぁ、悠くん。
ほんまに教えてくれへんの?」
「秘密言うたら、秘密」
結局、悠くんは、
絵馬をかけてもその願い事を
教えてくれることはなかった。
けど、悠くんのことだ。
きっと、世界平和みたいな
みんなが幸せになるようなことを
書いているのだろう。
そのまま並んで歩き出そうとした、そのとき。
ひゅっと、
境内を抜ける風が吹いた。
からん、と木が鳴って、
無数に掛けられた絵馬が一斉に揺れる。
その中で、悠くんの絵馬だけが、
少し大きく跳ねて――
ぱたん、と。
裏を向いていたはずの面が、
一瞬だけ、こちらを向いた。
「あ……」
声が出そうになって、
慌てて息を飲み込む。
見てはいけない。
秘密だって、言われたのに。
そう思ったのに、
目は、勝手に文字を追ってしまっていた。
そこに書かれていたのは、
世界平和でも、
壮大な夢でもなくて。
『初兎が、今年も笑って過ごせますように』
それだけ。
拍子抜けするくらい、
短くて、
真っ直ぐで。
胸の奥が、
じんわりと熱くなる。
すぐに風は止んで、
絵馬はまた、何事もなかったみたいに
元の向きへ戻っていった。
……なんや、悠くんも
僕と同じ願いやったんや。
胸の奥が、ゆっくり満たされていく。
「あ、初兎?
帰りにスーパー寄ってええか?
夕飯の材料買いたいんよ」
そんなことを言いながら、
少し前を歩く悠くんの背中。
気づいたら、
僕は後ろからその背中に抱きついていた。
「ど、どうした、初兎?」
少し上ずった声がして、
それがおかしくて、嬉しくて。
「今年もよろしくな、悠くん!」
ぎゅっと力を込めて言うと、
悠くんは一瞬だけ黙ってから
「おう、よろしくな」
そう、いつもみたいに返してくれた。
大吉のおみくじが、
ポケットの中でかさりと鳴る。
今年はきっと、
また悠くんの隣でたくさん笑う年になる。
そう素直に思えたんや。
コメント
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新年早々投稿ありがとうございます😭😭💕 さくらあんさんの小説は本編の前に少し言葉があるのが本編の雰囲気に包まれるような気がして大好きなんです…!! 青桃さん、赤水さん、黒白さん、どのペアも癒されました…ෆ 青桃さんのお互いを信頼しあっているところや赤水さんの少しのすれ違い、黒白さんのとにかく癒しな可愛さ…全てに心を撃ち抜かれました😖🤍 今年もどうぞよろしくお願います…!