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私達この先どうなるの?
いつまでこうして付き合うの?
お互いの寂しさを埋める為に始まった関係。
私は今はもう、湊の事が恋しくて寂しくて泣いたりしない。
でも、雪斗は? まだ私との関係を切らないのは、別れた奥さんを忘れられないから?
今でもまだ元奥さんが好きなの?
聞きたい事は沢山有る。
でも言葉にはできない。そこまで踏み込めない。
「美月……」
雪斗の手が頬に触れて、そのまま唇が重なり合う。
身体だけはこんなに近づけるのに……少しずつ深くなっていくキスで頭の中はぼんやりと霞がかかる。
気持ちがいい。このままでいたい。雪斗もそう思ってる?
私のこと……どう想ってるの?
どれくらいそうしていたのか、雪斗と離れた時にはすっかりのぼせてしまっていた。
「大丈夫か?」
雪斗に抱えられて浴室から出て、バスローブを羽織る。
「ほら、悪かったな無理させて」
そう言いながら冷たい水をくれる。濡れた髪も手際よく乾かしてくれて……。
ズキリと胸が痛くなる。
いろいろ考える事が有って感傷的になってるのか。
ワインを飲みすぎて酔いが回っているからか。
切ない気持ちでいっぱいでどうすればいいか分からない。
衝動的になって雪斗の首に腕を回してしがみついた。
「美月?」
雪斗は少し驚いた様だけど、宥める様に抱き締めてくれた。
それからどういった流れかは分からないけどぼんやりしている内に、ベッドに運ばれていた。
身体中を触れられて、甘やかな震えが走る。
「雪斗……」
雪斗の事いつもと違うと思ったけど……今日の私はそれ以上におかしかった。
泣きたいくらい雪斗を求めてしまう。
ああ、私は本当にどうかしちゃったのかもしれない。
「雪斗……雪斗」
自分じゃないような気さえして……。
「……美月」
「……っ!」
雪斗が中に入って来ると、僅かに残っていた理性も保てなくなる。
ただ彼の背中に腕を回して縋る事しか出来なくて。支配されてこの激しさを増す時の終わりを待つだけ。
そう思っていたのに、雪斗が不意に動きを止めた。
どうして? 閉じていた目をうっすらと開けると、私を見下ろす雪斗と目が合った。
鋭くて真剣な目。
「美月」
「……」
答えようと思ったけれど、声が出ない。
雪斗は私の返事を待たずに続けた。
「まだ忘れられないのか?」
「……え?」
湊の事を聞かれてるんだと分かったけれど、咄嗟に言葉を返せない。
「まだあいつが好きなのか?」
それは私が雪斗に聞きたかったこと。
でも恐くて聞けなかったのに、雪斗はあっさりと聞いて来る。
組み敷かれたまま首を横に振った。
「今、好きなのは?」
雪斗は私の髪や頬を撫でながら言う。でも答えられない。だって……。
「美月?」
いつも私の気持ちを読むくせに、どうしてこんな事聞いて来るの?
雪斗だって気付いてるんじゃないの?
「……」
どうしてこんな関係になってしまったんだろう。
始まりは平等だったのに、今は違う。
……私だけが変わってしまったから。
「……雪斗が好き」
震える声で告げると、雪斗は満足した様な笑みを浮かべた。
それからは何度も唇を重ねられながら、苦しいくらい翻弄された――。
朝、目が覚めると雪斗の腕の中だった。
背中と腰に回った腕で動けない。
スーツを着てるとスラリと痩せて見える雪斗だけど、実は結構筋肉が有って腕一本だって重い。
いつもならこっそり甘えてみたり、急いでいる時は強引に抜け出たりするけれど、今日はどちらも出来なくて、身動きしないでじっとしていた。
曖昧な夜の記憶の中での、鮮明なワンシーン。
『雪斗が好き』
はっきり言ってしまったのを覚えている。
絶対に言えないって思ってたのに、何もかも見透かされている様な目で見つめられたら黙っていられなくなった。
いつからかは分からないけど芽生えた気持ち。
自覚しない様にしてたけど駄目だった。
言葉にしたら更に想いが大きくなった気がする。
私の告白を聞いて雪斗はどう思ったんだろう。
重いと思われた? ……嫌そうな顔はしていなかった気がするけど。
雪斗の気持ちは見えないから不安になる。
目の前の整った顔を見ていると、幸せと同じくらいの切なさが込み上げる。
「雪斗……」
無意識に呟くと、雪斗がゆっくりと目を覚ました。
「……おはよ」
雪斗は柔らかく微笑みながら言う。
「お、おはよ」
有り得ないくらいドキドキして、顔が熱くなる。
絶対赤くなってると思う。
「大丈夫か?」
雪斗は私の頬に手を添えて言う。
「大丈夫って……」
「身体。昨日頑張っただろ?」
……そっちの話か。
ニヤリといつもの不敵な顔になった雪斗にがっくり来た。
昨夜の告白について何か言われると思ってたのに。
恐くて緊張したけど、何事も無かった様にされるのも困る。
でも、これから言われるのかな?
「まだ時間有るな。シャワー浴びて来る、美月は?」
「え、あの、雪斗の後でいい」
「そうか、じゃあ先に入るな」
雪斗は普通にそう言うと、ベッドを出てスタスタとバスルームに行ってしまった。
バスローブくらい羽織っていって欲しい。
スタイル抜群だから目の保養にはなるけど、なんか気恥ずかしいし。
そんな事よりやっぱり完全にスルーされてる?
悶々としながらシャワーを浴び、身支度をして朝の光溢れる外に出た。
「何か食べて行くか?」
ヤケに爽やかで機嫌の良い雪斗。
対して鬱々としている私。
そんなに気になってるならストレートに聞けばいいんだろうけど……聞きづらい。
『ねえ、昨日の告白、好きって聞いてどう思った?』
なんて気軽に聞ける訳が無い。だって、良くない返事が返って来たら……。
面倒とか重いとか、話が違うとか。
それに雪斗はあえて触れない様にしてるのかもしれない。この関係を維持する為に、割り切った二人でいる為に。
分からない。それとも私が考え過ぎなのかな?
ベッドでの会話でこんなに悩む事は無いのかな。
ワインも飲んでたし、状況的にも普通じゃなかったし。
「どうしたんだよ? 変な顔して」
変な顔って……雪斗って都合いい時は洞察力鈍くなる気がする。
結局、週末の間に雪斗からは決定的な言葉は聞けなかった。
態度は優しいし、疎ましく思われたりはしてないって分かるけど。
でも、やっぱりスッキリしなくて不満だった。
心が穏やかじゃなくても仕事は始まる。
オフィスでは雪斗と離れ自分の仕事に没頭して夢中で働き、気が付けばお昼の休憩になっていた。
小さなバッグを持って慌ててフロアを出る。
今日は成美と新しく出来たパスタの店に行くことにしていた。
成美とだったら雪斗も文句を言わないだろう。
店は明るい雰囲気で、開店記念で格安になっていたせいか混み合っていた。
それでも早めにオフィスを出たおかげで、なんと席を確保できた。
「結構、メニュー豊富だよ」
成美はドリアにするかラザニアにするか悩んでいる様子。
私は早々に海老のトマトクリームパスタに決めて、何となく店内を見回していた。
外から見たより中は広くて奥にもテーブル席がいくつか有った。
「ねえ、有賀さんとは上手くいってる? 」
ようやくメニューを決めた成美が興味津々と言った様子で聞いて来る。
そう言えば、成美とゆっくり話すのは久しぶりだった。
「順調だよ。営業部の仕事にも慣れて来たし、有賀さんは落ち着いてるし」
「落ち着いてるか~大人の余裕だよね、で、プライベートではどうなの?」
「どうって、何も無いけど」
「そうなの? 一緒に仕事してるといいな、とか思わない?」
「別にそんな事は……」
「もしかして、まだ湊君のことひきずってる?」
成美は少し心配そうに言う。
「湊のことはもう大丈夫」
自分でも驚く位、失恋の傷は癒えている。
いつか雪斗が言っていた、失恋の傷は新しい男で癒すって。
信じた訳じゃないけれど、実際私は新しい恋をして立ち直ってる。
その恋は微妙な状態だけど……。
「そっか、美月も誰か好きな人が出来るといいね、有賀さんで駄目だとなかなか出会いは厳しそうだけど……」
「あの、成美……私ね」
成美には雪斗の事を言っておこうと思った。
条件付きで付き合ってるっていうより、私の気持ちを話したいと思った。
少し緊張しながら告白しようとした瞬間、成美の顔に驚きが浮かんだ。
「……どうしたの?」
「藤原さんがいた」
「え?」
「しかも女連れ。あの人、彼女かな?」
成美以上に驚きながら、その視線を追い、振り向いた。
その光景に衝撃を受けた。
レストランの奥の席には成美の言う通り雪斗の姿があり、同じテーブルに座っていたのは、忘れらない彼女……水原奈緒さんだったから。
どうして雪斗があの人と?
個人的に付き合いは無いって言ってたのに。
会うなんて私は一言も聞いていなかった。
呆然としている中、成美の溜息混じりの声が耳に届く。
「やっぱり藤原さんは素敵だよね。相手の女の人も綺麗。 でもどこかで見た気もするよね、社内の人じゃなさそうだけど……」
綺麗な女性という成美の感想は真実なのかもしれないけれど、私は頷けなかった。
嫌な気持ちがどんどん湧いて来る。
二人が何をしているのかが気になって仕方なかった。
楽しみにしていたパスタも美味しさを感じなかった。
ただあの二人の事ばかり考えて、成美の話にも上の空になってしまう。
「美月、どうしたの?」
さすがに様子がおかしいと思ったのか、成美が不審そうな顔をした。
「何でもないよ」
正直に言えないから誤魔化すしかない。
「そう? それならいいけど……あっ、そう言えば昨日のドラマなんだけど……」
上手く笑えたみたいで、成美はそれ以上追及して来ることは無かった。
成美の好きなドラマの話を聞いてる内に、昼休みも残り少なくなった。
雪斗達はまだ店を出る気配は無いけれど、私は仕方なく店を出る。
会社に戻る途中、息苦しい気持ちになった。
自分でも驚く位の不安を感じている。これは普通の嫉妬じゃない。
雪斗が一緒に居た相手が彼女だったのが、なにより辛い。
初めて湊の浮気を知った時の衝撃を思い出す。
もしまた、同じことになったら?
雪斗が彼女を好きになったらどうしよう。
私の様になんとなくの付き合いじゃなく、本気で好きになったら……。
嫌な想像ばかりしてしまい気分が悪くなる。
眩暈の様な感覚に襲われたその時、メールの受信に気が付いた。
メールの相手は雪斗。
【後でちゃんと話すから変な心配すんなよ】
件名無しの短いメール。
でも見た瞬間、息苦しさから解放された。
雪斗……私が居た事に気付いてたんだ。
全然そんな素振りは見せなかったのに。
私が暗くなってることを見越してメールをくれたのかな。
こういう気遣いって嬉しい。
雪斗が水原さんと会っていた事実は変わらないけれど、まだショックな気持ちは消えないけれど、穏やかな心で雪斗が話してくれるのを待つことができる。
湊は、こんなふうに気遣ってくれなかったな。
水原さんと一緒に居る湊を見て動揺している私を、置き去りにした。
あれは今思い出してもキツイ。
私はつくづく湊に大切にされてなかったんだって、改めて思う。
それに気付こうとしないで湊を責め続けたのが、私達の酷い別れに繋がったのかな。
雪斗とはあんな風に争いたくない。
だから、雪斗と水原さんに何が有るのか分からないけど信じて待とう。