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〈おとうさん〉
返事はない。
〈怖いよう〉
助けてはくれない。
〈おかあさん〉
返事はない。
〈こっちにきてよ〉
誰も来てはくれない。
『私か”居る ヨ』
優しい声。私の隣にいてくれた声。
その声に溺れていくようで、不思議な感覚がした。
浮遊するよりも不確かな空間にその声は響く。
その声がもっと聞きたい。
聞かせて。
私のためだけに声を発してほしい。
私の全てを捧げるから。
「君!大丈夫かい!?」
急に辺りが明るくなったと思ったら、目の前には学ランを来たヤンキー。変な前髪をしている。
彼が私の肩を揺する。そうしてやっと、私は正気に戻った。
高校から下校中、急に大きな化け物が私を飲み込んだ。そのまま怖くなって助けを呼んでいたら、眠くなった。
さっきのは幻夢なのかと、気付かされる。
「怪我は?」
「あ、ない……です」
ヤンキーなのに、人の事心配するんだ。変な人と思った。お団子頭に変な前髪。それを言ったら、彼は傷つきそうだけど。
「傑〜、こっち終わった」
白髪の碧眼イケメン。最近のヤンキーはそういう人ばっかりなの?と疑問に思う。私の通う高校は所謂ガリ勉が行くような高校だから、不良とは縁が遠い。
「これからは気をつけてね」
そう言い残して、彼らは去ってしまった。
〈気をつけてね〉って、どうやって気をつければいいのよ。不良だから、しっかり伝えられなかったのかなと思った。
けどまあ、私あのままいたら、どうなってたんだろう。きっとただではすまなかっただろうから、あの不良たちには感謝しないと。
「ありがとう」
もう見えなくなったけど、気持ちは伝えておくね。
×_ 紀伊馬 麻音
. キイマ アサネ
×_普通の女子高生
「えぇ……、ちょっとヤバい人たちだったんじゃない?」
私は数日前に起きた出来事を友達の相良と話していた。
「ほら、最近問題になってるじゃん。宗教勧誘とかさ……。あ、もしかしたら口止めで殺されちゃうかもよ……!!」
相良は私が変な化け物に襲われたこと、そこをヤンキーに助けられたことを話すと、とても心配してくれた。なので今日の昼休みまでずっと私にくっついていたのだ。
「え、でも、連絡先とか聞かれなかったし、心配だからって家まで送られるとかもなかったよ?普通の不良じゃないの?」
さすがに相良の心配のし過ぎなので、私も少々止めてはいた。案外、相良の心配性っぷりはすごく、私が何を言ってもあーだこーだ言って心配されている。
「あのね!麻音が助けられたヤンキーが着てた制服ってさ、私らの地域じゃない制服のデザインなんだよ?しかもボンタンって……。ダサすぎ!!しっかりしてよ麻音ぇぇ〜!!」
相良に肩をブンブン揺らされながら心配される。こうした友達を持った私は幸せ者かもしれない。
「あの、でもね。私あの日からおかしくなったみたいで……」
その言葉に相良の動きは止まり、今度は泣きそうな顔で私を抱きしめてきた。
「なーに!?ウチに言ってごらん!?ウチ麻音の話ならなんでも信じるし相談乗るよ!!」
相良はそう言って、力強く私をまた抱きしめた。私が抱きしめ返すと、その力はもっと強くなってしまった。
「ちょっと、離れて……。話せない」
「あ、ごめん」
相良が下を向く。
「あのね。今から話すこと……。本当に相良にしか話せないから言うの」
そうやって切り出すと、相良はパッと顔をあげて私の目を見た。話を聞くらしい。私はそれを確認すると、一言だけ言った。
「私、あの日から
───見えるようになっちゃった」
相良が驚いたように私を見る。真ん丸な目をして。
「え、それって……」
「うん……。お化け」
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