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午後五時。
空は昼間の晴れ間が嘘だったかのように、灰色の雲で覆われていた。
校舎の窓に、ぽつりぽつりと雨粒が打ちつけられ、やがて百それは本降りになった。
梅宮一は、校門の前で立ち尽くしていた。
制服のポケットを探るが、傘はない。朝の晴れ間に油断して、家に置いてきてしまったのだ。
「うわ、やっべ……」
周囲の生徒たちは、傘を広げて次々と帰っていく。
一人、また一人と人が減っていき、校門の前には一だけが残された。
雨は容赦なく振り続ける。
一は、仕方なく校舎の軒下に戻ろうとしたそのとき………
「……」
目の前に、一本の傘が差し出された。
黒くて、少しだけ縁が擦り切れている傘。見覚えがある。
見上げると、そこには百合がいた。
制服の袖が少し濡れていて、髪も雨に触れてしっとりしている。
「……風邪、ひく」
それだけ言って、傘を一に押し付けるようにすると、百合は自分の制服の上着を頭にかぶって、雨の中を走り去った。
「え、ちょ、姉ちゃん!? 傘は!? って、俺のために……」
一は、傘を握りしめたまま、しばらくその場に立ち尽くしていた。
雨音の中に、心臓の音が混じる。
彼女の背中は、すぐに人混みに紛れて見えなくなった。
でも、一の胸の中には、彼女の言葉と行動が、しっかりと残っていた。
「姉ちゃん、やっぱ優しいな……」
傘を広げると、雨粒が弾かれて、静かな空間が生まれた。
その中で、一はそっと笑った。