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3 - 第3話『初めての、勇気』

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2025年06月15日

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『初めての、勇気』

次の日の朝、姫那は駅のホームで翔を見かけた。

本を読んでいる横顔が、相変わらず落ち着いていて、

それを見ていると、不思議と心が静かになった。


でも今日は、少しだけ自分から話しかけてみたかった。


「……おはよう」


姫那の声は小さかったけど、ちゃんと翔に届いた。


翔は本から顔を上げて、少し目を細めて微笑んだ。

「おはよう、姫那」


たったそれだけのやりとりなのに、姫那の胸はふわっと温かくなる。


電車の中、姫那はずっと迷っていた。

“昨日のお礼”をちゃんと伝えたい。

でも、言葉にしようとすると、喉の奥がつかえる。


それでも。


今日は――少しだけ、勇気を出したいと思った。


「……昨日、ありがとうね。隣にいてくれて、助かった。」


翔は少し驚いたような顔をしたあと、ふっと息を吐いた。


「俺、何もしてないよ」


「ううん。いてくれるだけで、十分だったの」


その言葉に翔は、少しだけ視線を落とした。


「……そっか。よかった」


姫那は、思った。


――ああ、私、ちゃんと変わってきてるんだ。

言いたいことを、ちゃんと伝えられるようになってきた。

まだ少し怖いけど、それでも。


翔と出会ってから、自分の中の何かが、少しずつほどけていく。

その日の昼休み。

いつもなら机で静かに本を読むだけの時間。


だけど今日は、姫那の心の中に小さな火が灯っていた。

「少しでいいから、誰かと話してみたい」


姫那が本を閉じると、前の席の女の子がこっちを見てにこっと笑った。


「姫那ちゃん、本好きなんだね?」


姫那は一瞬、びっくりして固まる。

でも、その子の笑顔はとても柔らかくて、どこか安心できた。


「う、うん……小説とか、よく読むよ」


「私も! 最近この本読んでて──」


そう言って見せてくれた文庫本は、姫那が前に図書館で借りたことのあるタイトルだった。


「あ、それ、私も読んだことある……!」


自分でも驚くくらい、声が自然に出た。


その瞬間、なにかがふわっとつながったような気がした。


「私、春咲 凛(はるさき りん)。よかったら、お昼一緒に食べない?」


姫那は一瞬ためらったけれど、ゆっくりと頷いた。


「……うん、よろしくね」


それは、本当にささやかな、でも姫那にとっては大きな“はじめて”だった。


放課後、翔に会ったとき、姫那は少しだけ笑って言った。


「今日、友達ができたの」


翔は驚いた顔をしたあと、目を細めて優しく言った。


「そっか。よかったね」


その言葉が、姫那の心にじんわりと染みた。


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