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桃源暗鬼

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桃源暗鬼

70 - 第70話

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2025年12月29日

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溢れそうになる言葉を何とか抑え込み、皇后崎は一度鳴海から体を離す。

本音を言えばずっと抱き締めていたいけれど、今の状況を考えればそうも言っていられない。

頭を切り替えた皇后崎は、彼が敵地に1人でいる理由を問いかけた。


第54話 華厳の滝跡地研究所④


「お前、何で1人でこんなとこいんだよ?危ねぇだろ。」

「そうだった。この部屋の中に鬼國隊の人がいて、助けたいんだけど…中に入れなくて。」

「鍵でもかかってんのか?」

「いや、そうじゃなくて」


そうして鳴海は現状をかいつまんで話し始める。

室内にいる鬼國隊のメンバーは盲目で、耳だけが頼りの人物であるということ。

にも関わらず、一瞬だけ開けた扉の中からもの凄い大きさの音が聞こえてきたこと。

故に、今彼は何もできない状態であることを…


「なるほどな。」

「突入自体は出来なくはないんだけどちょっと俺自身の事情で入れなくてさ」

「事情?」

「1年前の戦闘で耳壊したの。ほら」

「!」


そう言って髪をかきあげ左耳を見せた鳴海。

左耳は一応、原型は留めているが治す過程で聞こえ方が変わってしまったらしく瞬間的な爆音を聞くとしばらく動けなくなると言った。


「俺が開けるから援護よろしくね」

「耳はいいのかよ」

「瞬間的な爆音だとやばいってだけだし。んじゃ行くよ!」


と次の瞬間、彼は部屋の壁を盛大に破壊して中へと突入した。

突然の侵入者の登場に、中から聞こえていた音がピタッと止まる。

室内には百目鬼の他に、2人の桃太郎がいた。

音の発生源はそのうちの1人…マイクを持った桃太郎が出していた声だった。


「剛くん!」

「鳴海…と、誰だ…?」

「状況は鳴海から聞いて把握してる。騒音野郎は俺がやる。」

「すげぇな。鳴海からってことは、味方…でいいんだよな?」

「知るかよ。俺は鳴海を守ってるだけだ。」

「俺の生徒!迅頼むよ!剛くん耳、治すからそっち向いて」

「おぅ。ありがとな。」


お礼を伝える百目鬼に笑いかけてから、今度は鳴海が血を解放した。

そんな2人を守るように立つ皇后崎の前には、マイクの桃太郎…桃尾旋律がいる。

鳴海が治療する光景を見ていた彼の脳裏には、同期である月詠・桜介コンビとのやり取りが浮かんでいた。

あれは彼らが大ケガを負って病院送りになったと聞き、後日お見舞いがてら顔を見に行った時のこと…


「お~2人とも見事にやられてんなぁ!」

「…うるせぇよ。」

「お見舞いありがと。」

「何、桜介随分ヘコんでんじゃん。そんなにコテンパンにされたの?」

「そうじゃなくて、あれは恋する乙女状態なだけ。」

「月詠!」

「は?恋?」

「そっ。鬼の子に恋しちゃったの。」

「そういうんじゃねぇって言ってんだろ!」

「面白っ!詳しく詳しく!」

「ほら、生け捕り命令が出た鬼がいたでしょ?」

「あぁ、斑鳩鳴海な。…え?まさかそいつに惚れたの!?アイツ男だろ!?」

「耳も治してもらって上機嫌なんだよね~。あと恋愛に性別は関係ないでしょ」

「違ぇって!前に言っただろ?からかうと面白ぇし、一緒にいて飽きねぇし、能力は当然文句ねぇし…それだけだよ。」

「それを恋って言うんじゃねぇの?」

「(あー言っちゃった…)」

「え、そうなのか?」




その時話題に上がった鬼が、今目の前にいる鬼というわけだ。

同期にやったのと同じだと思われる耳を治すその手技は、実に鮮やかなものだった。

桜介に代わってお礼を…と思ったが、それを許さない男がこちらに殺気のこもった視線を向けている。


「おい。足手まといになりたくなきゃ、鳴海の治療が終わったら逃げるか、あっちの筋トレ馬鹿の相手しろ。」

「筋トレ馬鹿って…褒めんなって…!いやいや!何勝手に決めてんだ!?旋律、お前の相手は盲目。黒マスクは俺がやる。」

「いや…あのガキは俺がやる…誰の声が騒音だ…?客がステージに上がんじゃねぇよ…!」

「上がる客すらいねぇだろ。」

「…よしっ。剛くん、耳どう?」

「面白いぐらい元通りだ。すげぇな!」

「大丈夫そだね」


すっかり回復した百目鬼は、お礼を言いながらポンと軽く鳴海の頭を撫でて立ち上がる。

そして皇后崎に対し声をかけた。


「悪いけどこいつは任せたぜ。俺は別の所に移動するけど、1人でやれるか?」

「うるせぇよ。お前にいられると迷惑だ。さっさとどっか行け。」

「迅…!」

「はは…一見冷たい台詞だな。けど冷静で優しい声だ。きっと顔もイケメンなんだろうな。全部終わったらじっくり顔を触らせてもらうぜ!鳴海、お前は安全なとこにいろよ!」

「自分の身は自分で守るのでご安心を〜」

「追えよ。言ったろう?こいつは俺がやるって。手出すんじゃねぇよ。」

「はいはい。我儘な部下を持つと大変だ。お礼のプロテインを忘れるなよー。」


そうして百目鬼と、筋トレ馬鹿こと桃舵壱郎はその場を去った。

いなくなった2人を捜すようにキョロキョロしている鳴海を、皇后崎は自分の方へ向かせる。

肩を掴み、真剣な眼差しを向けてくる後輩に、鳴海も表情を硬くした。


「鳴海、お前も他の階に行ってろ。」

「えっ。」

「ここにいると、あいつの攻撃に巻き込まれる。」

「生徒見捨てて行くわけには…」

「大丈夫。俺にはお前がいるから。」

「…仕方ないか。ただし!何かあったらすぐ連絡すること!俺の血、連絡手段にもなるから!」

「そうなのか?いつの間にそんなこと…」

「器用でしょ?…また後でね。」

「あぁ。」


皇后崎の手から自身の血を入れると、鳴海は不安そうな目を向けつつ部屋を出て行った。

皇后崎と別れた鳴海は、次の応援要請があるまで2階へ戻ることに。

血を使って不破と囲に連絡を入れれば、2人の嬉しそうな声が聞こえてくる。

“迎えに行く”という囲の言葉を最後に一旦通信を切り、鳴海は駆け足で下へと続く階段を目指した。

階段を降り、踊り場に着いたタイミングで、下のフロアから見慣れた顔が現れる。


「鳴海。」

「岬ちゃんだ。お迎えあざすー」

「思ったより元気そうだね」

「まさか。今むっちゃ腕痛いよ。」

「だろうね。血、垂れてるし」

「え?…わ”ぁ”ーーーー!?垂れてる垂れてる!!」

「落ち着いてよ。ほら包帯替えてあげるから」

「縫い付けが甘かったのかなぁ…ごめんね」

「気にしなくていいよ。」

「ホッチキスとかないかな。」

「(可愛い顔…)ホチキス無いから。ほら、行くよ。」

「へーい」


不破がいる研究室へと歩きながら雑談をしていた2人だったが、不意に囲が立ち止まる。

急に止まった彼を追い越してしまい、鳴海は慌てて振り返った。


「岬ちゃん?」

「…鳴海はさ、好きでもない人とキス出来る?」

「ん?」

「俺とキス、出来る?」

「何寝ぼけたこと言ってんの?頭打った?」

「寝ぼけてないし頭も打ってない」

「…キスしたきゃ他の人としなよ」

「俺…鳴海とならキスできるよ」

「えっ?」

「不破っちもいないし……する?ていうか、したい」


気づけば壁際に追い込まれ、壁ドン状態で会話をしていた鳴海。

至近距離で見る囲の表情は、年齢が近いとは思えないほど色気を含んでいて…

どうしたらいいか対応を決めかねている鳴海を他所に、囲は端正な顔を近づけてくる。

鳴海はパシッと手で口を押え、囲の手を掴んだかと思うとひっくり返し壁ドン返しをした


「ごめんだけどしないよ。キスは」

「へ?」

「必要があれば俺は誰にでもキスして股開くけど今は不必要だし」

「誰にでも…?」

「そう。誰にでも。男でも女でもね。区別つけられる人だからさ」

「じゃあ…!」

「言ったよね?”必要があれば” って。今要らないの分かる?」

「それは…」

「じゃあさ、これ見ても俺の事好きだとか言えるの?」

「!」


鳴海は自身の顔の傷を覆い隠していた菌を取り払い本来の顔を見せた。


「気持ち悪いでしょ?歪で…鬼の血を持ってしても治らなかったんだよ」


何か言いたげな囲の手を離し1歩下がった


「…誰にやられた」

「この家紋、見たことない?」


懐から出したのは鳴海の生家、桃原家の家紋


「この家の人間に傷の8割付けられた。」

「…残り2割は」

「桃太郎機関で行われた実験と拷問」

「は?」


そんなこと初耳だと言わんばかりの顔をする囲を見て鳴海は肩を竦めた。


「中学ん時に売られてさ羅刹に保護されるまでの3年は地下牢で過ごした。」

「!」

「俺の旧姓は『桃原』あ、勘違いしないでね?桃原家は元々、鬼の家系。でもいつからか桃太郎機関の人間がいる家系になった。俺は隔世遺伝で鬼になった訳よ。」

「…異端分子は消す為に売られたのか」

「そうだね。桃原家から出身の鬼は結構いるけど、その中でも俺が飛び抜けて異常だった。」


鳴海は条件が揃えば桃太郎の菌が使えることを話した。


「なんで言わなかった!?」

「言ったところでどうにかなるの?岬ちゃんが俺の中から桃を消してくれるの?出来ないでしょ?」

「…」

「全部中途半端なんだよ俺。そんな自分が大嫌いなのは今も変わらない。それに、こんなこと颯ちゃんに言ったら止まんなくなるよあの子」


その後、不破と合流するも囲の顔色は優れることは無かった。

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