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「戻ったよ~」
「やっと来た。遅かったやん、何して…って、顔色めっちゃ悪いけどどしたん?」
「なんもないよー。ね?」
「あ、あぁ…」
「鳴海お前なんかしたんか?」
「さぁ?」
「あんま刺激の強いことしたらあかんで。敵地なんやから」
「へぇーい」
なんだか微妙な距離の2人を不審な表情で見やる不破なのだった。
3人が合流した研究室もまた、1階のそれと同様に荒れ果てていた。
残された書類やパソコンを手分けして調べる鳴海達だったが、なかなか相手側の目的や研究内容を把握できない。
と、そんな折…パソコンを調べていた囲が2人を呼んだ。
「不破っち、鳴海。」
「ん~?」「何?」
「これ見て。」
囲を中心にパソコンを覗き込むと、そこには実験の様子を撮影したと思われる写真が映し出されていた。
鬼の脳みそや血を取り出しているその光景は、現実とは思えないほどに凄惨なものだった。
「グロ…」
「うぇ…趣味悪すぎやろ…」
「1人2人どころじゃない…数百人…」
「…あっ。1階の研究室を調べた時、鬼のマークと100っていう数字が書いてあるデータがあったな。もしかして…」
「関係ありそうやな…」
「急がないと捕まってる鬼も…」
「しかしホンマ何の研究してんねん…」
「それをあんたたちが知る必要はないわ。だって私たちも知らないし?何研究してるか。」
「知らない!それよりおしっこしたい!」
不破の呟きに言葉を返したのは、第2部隊隊長・桃木田与一と副隊長・桃脇岼であった。
突然の登場に驚いたのも束の間、3人はすぐさま表情を切り替えて相手を見据える。
「おでましやで。鳴海、その怪我で動けるか?」
「足は引っ張らないよ」
「うふふ…美しい私に人生の幕を引いてもらう幸運な男はどっち?それとも同時でもいいわよ?」
「「…」」
岼の発言に、3人は顔を見合わせる。
それぞれ肥満好き・熟女好きという性癖を抱える彼ら…(鳴海に関しては旦那onlyLove)
30代半ばで標準体型(そして女)の3人には、何の魅力も感じなかった。
「「ガリガリ/ガキンチョ/女に興味ないな。」」
「は!?」
「ぎゃはは!フラれたでしょ?フラれたね!」
「岬~鳴海の前でそんなん言うてええの?」
「鳴海は例外。…鳴海は女の子は好きじゃない感じ?」
「今は女の子射程範囲外。てゆーか俺、旦那様一筋だから♡」
「興味ないとか、そんな照れ隠しするなんて…あんたたち童貞?」
「シンプルに興味ないもんなぁ。」
「ぬぁ!?」
「確かに魅力的かもだけどごめんね俺人妻だからさ」
「既婚者!!!」
「お姉さんの体重があと60キロあれば話は変わるんやけどなぁ。」
「あと60!?デブ専!?」
「デブ専って言葉あんま好きやないわぁ。」
「おデブが好きなの?じゃあさ!僕も好き?」
そう言って飛び上がった与一は、自身の体を巨大なボールへと変える。
どんどん膨らみながら不破の方へと迫っていき、そのまま壁に激突した。
「おー、でっかい球だ」
「あらら。不破っち任せたーって聞こえてないか。」
「あの質量攻撃で死ぬタマじゃないでしょ?」
「そんな簡単にやられる人じゃないから、心配しなくていいよ。てことでこっちも…」
2人が視線を向けた先には、副隊長の岼がいる。
だが目を閉じ、何かを考えているのか沈黙のままでいる彼女を、鳴海と囲は不思議そうに見つめていた。
なかなか攻撃態勢に入らない岼を注視していた2人だが、それに構わず彼女は相変わらず沈黙のまま。
おまけにブツブツと何事かを呟いているその様子に、囲は恐怖を覚え始めていた。
そんな中、鳴海が囲の袖をクイッと引っ張る。
「ん?」
「俺、がやろうか?俺ならすぐ終わらせ「やだ。」
「え?」
「…鳴海のその考え方、カッコ良くて好きだよ。俺が鳴海に興味を持ったのも、それ聞いてからだし。でもさ…カッコつけたいんだよね」
「でも…」
「鳴海が人妻なのは知ってる。けどチャンスは欲しい」
「岬ちゃん…」
「大丈夫。鳴海が不安になるような戦い方はしない。すぐ終わらせるから待ってて?」
照れくさそうな笑みを見せる囲に、鳴海もこれ以上止める理由は無いと判断し “じゃ落とせるよう頑張ってな” と穏やかに言葉を返す。
その何とも良い雰囲気に、いつの間にか意識が戻って来ていた岼が怒りを露わにした。
「くそくそくそ…どいつもこいつも…結局若い女がいいってか…34歳なんて責任感じる微熟女は興味ないってかぁあ!ふざけんな、クソがぁぁあ!」
「微熟女?俺からしたら、あんたなんか生まれたての女の子だけど?」
「(岬ちゃんの一言で、副隊長の背後にキラキラが見える気がする…!)」
岼の脳内でどんな解釈がなされているかは不明だが、その後も囲の発する言葉に過剰に反応を示す彼女。
だが何かが吹っ切れたのか、ついに自身の力を解放し戦闘態勢に入る。
が、囲の攻撃スタイルが自分と同じ弓であると知り、またしても表情が崩れてしまった。
喜怒哀楽の激しい岼に対する恐怖が増していく囲は、早くケリをつけようと勝負を仕掛ける。
「さっきから何したいのかわかんないけどさ…遊ぶつもりないんだよね。」
「(遊ぶつもりはない…!?つまり…真剣交際ってこと!?)」
「(……近年稀に見る脳内花畑?)」
「こっちからいかせてもらうよ。」
突然の命を狙うような攻撃に、岼は目を見開く。
しかしまたしても脳内妄想が暴れ出し、彼女にとって都合の良い解釈がはじき出された。
そうして反撃とばかりに構えた岼は、矢をセットしないまま弓を引く。
見えない矢は、何故か囲の背後から右腕を貫いた。
「お」
「(!? 後ろ…!?警戒はしてた。でも反応ができなかった…!?)」
「ふふふ…どう?さぁロミオ!私は貴方のジュリエットになれるかしら!?」
矢を持っていないはずの人物が弓を引いた瞬間、どこからともなく矢が現れる。
岼の能力はその不思議さから、全容を把握するのが難しいとされていた。
それは囲にとっても例外ではなく、彼も頭を悩ませる。
戦いながら考えるのが通常のパターンだが、彼はある1つの可能性を感じていた。
その確認をするべく、鳴海の能力を使って彼女と会話を始める。
『鳴海、聞こえる?』
『! 聞こえるよ〜』
『俺の勘違いじゃなければ…あの人って俺に惚れてたりする?』
『間違いないと思うよ。岬ちゃんと話す度にキラキラしてるから』
『やっぱりか~…じゃあ能力のこと聞いたら教えてくれるかな?』
『さすがにそこまで単純では……でも、やってみる価値はあるかも』
「凄いね、どんな能力?」
「えへ!私の “ストーキングアロー” は、矢が物質の中を移動するの!あ!でも人体を移動することはできないのが欠点なのよ!」
『鳴海聞いた?馬鹿だった!とめどなく馬鹿だったよ!』
『あれで副隊長っていうのが驚きだわ…』
あまりに素直に能力を吐露した岼に、鳴海も囲も驚きと呆れを隠せない。
自分への想いが強く、利用できると踏んだ囲は、鳴海には絶対見せないような悪い笑みを見せる。
囲は追尾する6本の矢をセットすると、岼に向けて迷いなく弓を引いた。
彼が放った矢を見事に避ける姿は、先程までの様子のおかしい状態とは打って変わり、副隊長の名に恥じぬものだった。
続けて岼が放った矢は地面を移動し、囲の顔目掛けて飛び出してくる。
楽しそうに2人の戦闘を観戦中の鳴海とは裏腹に、囲自身は至って冷静。
どうすれば一番楽に終わらせられるか…彼が導き出した答えは “演技力” だった。
構えていた血の弓を解除した囲は、ゆっくりと岼の方へ歩き始めた。
「(弓を消した…?能力を解除したの…?)」
「貴女は強いよ。」
「え…?」
「素晴らしいね。」
「え…じゃあ…私のロミオになってくれるの!?」
「あぁ…僕のジュリエットは君しかいないよ。」
そう言いながら岼を抱き締めた囲は、鳴海から見えないのをいいことに、それはそれは悪い顔をしていて…
蕩けるような表情の岼と比べたら、どちらが悪役か分からない程である。
と、そんな彼女の背中と腕に突如矢が突き刺さった。
「ダメだよ、こんなのに騙されちゃ。弓使いが弓手放した途端、敵意がないと思ったでしょ?俺の弓矢は一度出したら、俺の意思で消さない限り残り続ける。さっき放った矢は、そのまま残しておいたんだ。」
「(あれ…?体が…)」
「あぁ。ついでに俺の矢は微弱な神経毒を含むから動けないよ。つっても微弱だから、数分動きが鈍くなる程度だけどね。まぁ殺るには十分だよね。」
「ふふふ…そうね…私が甘かった…こんなひっかけに騙されるなんて…まだあなたに相応しい女じゃなかった…殺しなさい…そしたらあなたの記憶に住み着いて、一生あなたの中で生き続けられる…うふふ…正真正銘、身も心も1つになれる…」
「(こっっっわぁあ…)」
「岬ちゃん、これほっといた方がいいよ。もっと大変なことになっちゃうから」
あまりにアブノーマルな発想に、囲の戦闘意欲は急速に萎える。
縄を持ってきた鳴海の制止もあり、彼は岼をグルグル巻きにして気絶させることで勝負を終わらせるのだった。
「お疲れ様」
「ありがと。にしてもあの人怖すぎでしょ。」
「愛が重い人だったね。顔と腕の怪我見せて」
「腕はともかく、顔はほっといてもいいよ?あんま影響ないし。」
「ダメに決まってんでしょ。俺と違って面はいいんだから」
「! 鳴海にそう言ってもらうと嬉しいかも。」
「今までも言われてきてるでしょ」
「似たようなことは言われたことあるけど…今みたいに、ドキドキする嬉しさはなかったかな。」
「そーですか」
座った状態で向かい合い、鳴海の治療を受けていた囲。
さっきまでの悪い男っぷりが嘘のように、彼の表情と声音は優しく甘いものだった。
囲の言葉を気にすること無く腕の治療を続ける鳴海だったが、顔を治すためにはどうしたって目線を上げなければいけない。
顔を上げれば、こちらを穏やかに見つめる囲と目が合う。
「…やりづらいんだけど」
「何で?」
「何でって…恥ずかしいんだけど」
「俺のこと意識してくれてるんだ。」
「いや、全然、そんなことは…」
「鳴海って嘘つけないタイプなんだね。」
「どこをどう聞いたらその答えになるのさ」
「…ねぇ。」
「ん〜?」
「さっきので惚れた?」
「え?」
「チャンスくれるって言ったから。惚れた?」
「さっきので惚れたら世の中の人全員惚れるからね?まだまだだネ。無人くん見習いな」
「くそ、まだだったか」
項垂れる囲を見た鳴海は、クスッと笑みをこぼすと、座ったまま距離を詰め囲を抱き締めた。
「鳴海!?」
「ま、今回はダメだったけど次は頑張んなよ。」
「し、刺激強…」
「これは頑張ったご褒美」
「ご褒美…」
「……いつかちゃんと面と向かって無人くんに言えたらいいね」
「ハードル高ぇ…」
「それまでは、まぁ、片想いで頑張れ」
「わかった…!」
そう言って抱き締める力を強くした囲の表情は、とても幸せそうだったとか。