メルとガルの母親がベッドで寝ている? ていうか鳥の巣みたいな寝床だな。おい。
寝心地はいいのだろうか? シロなら喜びそうだが。
まあ、そんなところに母親が横向きで丸まっているのだが……。
まずはどういった病なのか確認だな。
俺は隣りに居るシロの背に手を乗せる。そしてもう一方の手を母親のお腹の上にかざし、
――鑑定!
………………
ほほう、心臓の病気だったか。
これは内臓の方もかなり弱ってきているなぁ。
さすがは聖獣フェンリル。
シロを介した鑑定だとこんなに詳しく診断が出きるんだね。
心臓や他の臓器の状態がCTでも使っているように映しだされ、それがどう処理されるのか立体的なイメージとして浮かび上がってくる。
異常がある箇所には赤い網目が掛かりブリンクしているので一目瞭然である。
よし、大体は把握した。まずは内臓のほうからいってみますか。
「――ハイヒール!」
すると母親の身体全体が一瞬光り、その光が各患部に流れ込んでいく。
ピーン! {回復魔法を取得しました}
おっ、回復魔法きた! だが確認はあと回しだ。
「シロもう一回いくぞ、今度は心臓だ」
この病気は先天性のようだったので、組織ごと作り変えるイメージで、
「――リカバリー!」
今回は胸の部分だけが光っている。
組織が再構成されていくのだろう。
ピーン! {回復魔法のレベルが3に上がりました}
はいはい、あとあと。
再度、鑑定をおこない身体全体を確認してみるが問題は出ていないようだ。
「これで大丈夫です。病気で悪くなっていた部分は治しました。ですが筋力は落ちたままなので無理をせず体力の回復につとめてください」
そう言って身体を起こしてやった。
玄関先を見やると子供たちが心配そうに見守っている。
俺はその子供たちに向かって大きく頷いてあげた。
すると母親のところにメルとガルが駆けつけ、飛び掛かるようにして抱きついていた。
「あっ、ああ、ありがとうございます。本当にありがとうございます!」
子供たちを両手に抱えた母親は、涙を零しながら何度も頭を下げてくるのだった。
落ち着いたところで、いろいろと話を伺っていく。
熊人族は人族や他の亜人族と比べ力が強く温厚な種族なんだそうな。
一般的な村のように固まっていなくても魔獣や獣はめったに縄張りには入ってこないそうだ。
生活面では主に農業を営んでおり、麦・芋・野菜などを作っている。
そして樹海に入り、猪や鹿などを狩って生活しているハンターも一割程度はいるのだとか。
村には冒険者も僅かながら居るそうで、
ダンジョンに入り魔石やドロップ品を集めては町の冒険者ギルドへ売りに行ってるそうだ。
そうして町から薬のほか様々な品を買ってくるのだという。
しかし、町までは樹海を抜けていくため人族なら3~4日、熊人族の足でもまる2日はかかってしまうそうだ。
なるほど整備されてない所をダンジョンまで片道4日以上か……。
割に合わないし人が来ないわけだな。
途中に中継地点を設けるという手もあるが、この樹海では馬車が通れる道を整備するのも大変だよ。
しかし、近くに町があるなら行ってみたいかな。
ダンジョンの力を使えば道を通すことなんて造作もないはずだ。
そして、どうやらダンジョン・デレクがある場所は山脈の裏側になるそうだ。
この辺りから中央 (王都) をめざすためには、この山脈を大きく迂回しなければならず、順調にいって馬車で25日、雨に降られようものなら30日はかかってしまうだろう。
――それがどうでしょう。
ここ (ダンジョン) まで来れば、山脈の向こう側にある王都までひとっ飛び!
これは間違いなく流通革命が起きるね。
うん、面白い試みだわさ。
人が集まればデレクだって喜ぶし、転移門はかなりの利権だぞ。
今まで日の当たらなかった山脈裏の過疎地が……、
いや、王国南側の地域全体が一気に活性化することになる。
これはどう考えても王国との交渉になるな。ハハハハハッ! (汗)
あっ、いかんいかん。今はこっちだよな。
「今から俺たちと温泉へ入浴しにいきましょう。タオルはあるので着替えだけを持っていけばいいですから」
「はい、承知しました。ほらっ、メルも表に干している服を取ってきて。ガルもその袋を持ってきてちょうだい」
見てると子供たちも笑顔でキビキビと動いている。
やっぱり母親が元気なのは嬉しいよなぁ。
へぇ、それにしても……。
もう少し疑問を持って、いろいろと聞いてくるものと思っていたんだけど。
そんな不思議そうな顔をしていたせいか、俺の視線に気づいた母親が、
「変……ですか? でも、私はあなたに付いていくと決めましたから」
「だって、こんなに身体が軽いのは初めてなんです。助けて下さったあなたが私たちに害を及ぼすような事をなさるは思えませんもの」
「そして、その……これから私のことはナツとお呼びください」
少しはにかみながら笑い、楽しそうに答えるてくるのだ。
その姿に ドキッ! とさせられたが今はスルーしておく。
準備も整ったようなので、ディレクに頼み温泉施設にみんなで転移した。
「…………」
「なになに、スゴ―――い!」
一瞬で景色が変わり先程いたダンジョン前だと気づくと、子クマ姉弟は途端に騒ぎだした。
そんな子供たちを目の前に、俺は人差し指を立て「これはないしょだよ」と言っておいた。
そして、クマ親子に施設を案内したのち再び温泉に入った。
脱衣場で服を脱ぎみんなで湯舟に……、 とその前に子クマ姉弟をつかまえて石鹸でアワアワにしてやった。
すると、それを見ていたメアリーも何故か横に並んでいる。おまけにシロまでいるし。
やれやれ、そうだよなぁ~。
みんな仲良くアワアワにしてやった。(汗)
そしてナツは……。
自分でアワアワしていた。
「――――!」
すこし残念に思ったが…………問題ない。
――ないったらない!
気を取りなおして、屋外にある露店風呂へと向かった。
シロと子供たちが湯舟に突撃していく。
ドボン! ドボン! キャッキャと楽しそうだ。
まぁ子供たちに静かに入れと言ったところで聞く訳ないし、ここは放置でいいだろう。
俺は子供たちから少し離れ、ゆっくり露天風呂を楽しむことにした。
タオルを畳んで頭の上にのせ、う――――――ん! と大きく伸びをする。
いやー、これこれ、これですよぉ。
………………
「ふふっ。ちょっとごめんなさいねぇ」
後ろから声がしたかと思うと、――トプン!
すぐ横に裸体をさらしてナツが入ってきた。
えっ! 混浴。まぁ露天風呂はひとつしかないのだが。
「もう、寂しいじゃありませんか、ひとりで入るなんて。それにしても良いものですねぇ温泉って。お肌もツルツルですよ。ほらぁ」
そう言って腕を見せてくるのだが、その向こうにはたわわな真実が……。
――良いものはその眺めです――
病気だったせいで少し痩せてはいるがナツはなかなかの美人さんである。
透き通るような白い肌に艶のある黒い髪。
鳶色の瞳を持つ切れ長の目は妖艶さを漂わせている。
どこかアジア系を思わせる容姿には自然と親しみが湧く。
それから頭の上についてる熊さんの丸い耳。
お尻についてるまん丸尻尾も可愛いくマッチしてるんだよなぁ。
そして、たわわな部分は十分たわわな訳でして……。
まさに眼福でありんす!
あとは雑談混じりに温泉の効能などを説明していく。
すると俺とナツに気づいた子供たちがこちらになだれ込んできた。
それはもうワチャワチャで賑やかなことか。
そうやって仲よく温泉に浸かる親子を見て、
『助けることができて本当に良かった』と心の底から思うのだった。
………………
(子供たちにはそろそろ水分補給が必要かな)
俺たちは一旦湯舟からあがった。
露天風呂サイドにベンチを用意するとみんなでそこに腰掛ける。
子供たちに果実水を配っていくと共にクレープを出して夕食までのつなぎとした。
というのも、ナツは何も食べてないような気がしたからだ。
ほっぺにクリームを付けて夢中で食べているナツ。
まだまだ入りそうなので、こっそりもう一つ出してあげた。
(うん、食も進んでいるな)
さすがに甘味はどの種族でも通用するようだ。
温泉からあがった俺たちは休憩室にて涼みながらアイスティーを飲んでいる。
俺はみんなが休んでいる間、この温泉施設の隣りに管理者用のログハウスを急ピッチで建てていた。
部屋は3つ作り、リビング・キッチン・トイレの3LDKだ。
さっそく出来上がった家に移動すると、お家が大きくなったと子供たちは大はしゃぎだ。
部屋割りを決め、ベッド・クローゼット・テーブルとイスなどの家具類を作り配置していった。
各部屋がある程度整ったところで、元の家に戻り引っ越し作業を進めていく。
………………
…………
……
熊人族の集落からダンジョンまでの道は、勾配を考えたつづら折りにし馬車が通れるように5m幅で通した。
シロが切り開いてくれた道もそのまま残し、急なところは階段を設置していった。
これで集落からこのダンジョンまでは一刻 (2時間) かからず歩いて来れるはずだ。
そして引っ越し作業や道の整備が終わった俺たちは真新しいログハウスへと入った。
俺は夕食の準備のため、キッチンにナツと並んで立っている。
キッチンテーブルに肉や野菜、調味料を出してメインはナツに作ってもらう。
俺は鍋に植物油を入れ火にかける。
油を熱している間に卵・植物油・砂糖・牛乳・メイプルシロップをボウルに入れ混ぜる。
続いて小麦粉と少量の重曹を加えてへらで混ぜ合わせていく。
パン生地のように仕上げたものを30分ほど寝かせるのだが、例の方法を使えば一瞬。
あとは生地を1㎝厚さに伸ばして、デレクに作ってもらった丸い型で抜いていく。
さらに形がくずれないように片面の真ん中あたりに木串で一周すじを書く。
それを熱しておいた油できつね色になるまで揚げたらできあがり。
さらに揚げてすぐグラニュー糖にくぐらせておいた。
もうお分かりだろう。
作っていたのはシュガードーナツ (リングドーナツ) なのだ。
俺ができたばかりのドーナツを試食しようと二つに割っていると横からナツがアーンと口をあけている。
(まったく、しょうがないヤツだ)
そう思いながらもドーナツを半分に割ってナツの口へ入れてあげるのだった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!