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翌週の週末、私は掃除機をかけながら、少しずつ片付いていく部屋を眺めていたが、その静けさを破るように、寝室のドアが開いた。


「今日、母さんが来るから、昼食用意して」

まだ眠気が残る表情の夫が、挨拶もすることなく、重い足取りでリビングに入ってきた。顔には昨夜のアルコールが残っているようで、顔が少しむくんだ様子だ。昨日もどこかで飲んでいたのだろう。


私は掃除機の音を止め、思わず「また?」と声が漏れた。最近、智也は仕事で家を空けることが多いうえに、帰りも遅い。そして、たまに昼間に顔を出すかと思えば、決まって義母を呼ぶことが増えていた。


「何だよ、その言い方」

智也は少し苛立った声で言い返してきたが、私はそのまま掃除機のコードを片付けながら、ため息をついた。


「だって、毎回急に言うじゃない。準備だってあるし、せめて前もって教えてほしいって言ったよね」

私はそう言いながら、彼の顔を見た。

智也は軽く肩をすくめて、ソファに倒れ込んだ。


「別にいつも大したもの作ってないだろう。簡単なやつでいいよ。母さんだってそんなの気にしてないからさ」

「簡単なやつって言っても……」

私の言葉など聞く気はないようで、智也は無造作にリモコンを手に取るとテレビをつけた。


「とにかく、母さんが来るのは決まってるから。昼には間に合わせてくれよ」

昼までと言っても、もう一時間もない。今頃起きてきて、なにを言っているのだ。

そう思った私だったが、智也は私の顔を見ることなくテレビを見ていた。


私は家政婦じゃないーーー。

そう思いつつも、台所へと歩き、冷蔵庫を開けた。中には、昨夜の残り物と、ほんの少しの野菜しか入っていない。これで義母のために昼食を用意しなければならない。どうして毎回こうなんだろう、と思いながらも、仕方なく私は料理を始めた。


なんとか、もうすぐ出来上がる、そう思った時、玄関のチャイムがなる。

「まだ料理ならんでないじゃないか?」

ようやくソファから立ち上がったと思うと、ダイニングテーブルに視線を向け智也は投げ捨てるように言うと、玄関へと小走りに箸って言った。

マザコン。そんな言葉が最近は頭を過る。私も仕方なくついて行くと、昌子さんは派手なワンピースと完璧なメイクで玄関に立っていた。その目は私を上から下まで一瞬で見定め、何も言わないが、その視線だけで十分に私を見下しているのがわかる。

智也の会社が軌道にのり、社長の母というポジションを手に入れてから、昌子さんも変わった一人だ。ステイタスや、身分で人を判断するようになった。

「お邪魔します」

昌子さんの声は冷たく響き、まるで私がその家にいることが不自然だと言わんばかりだった。リビングに入ると、彼女は何気なく周囲を見回し、少しの埃や整頓の行き届いていない箇所を探すかのように、目を細める。

「智也、元気にしてるの?」

なんとなく、私に不満があるような言い方は、最近いつものことで私は料理を運んでいた。

「仕事は順調すぎるほど、順調。もうすぐ大きい商談もあるし」

「そう」

「まあ、プライベートはコイツがきちんとやってくれないから、多少こまってるけど」

聞かすつもりなのか、声のボリュームを気にすることなく話す智也に、苛立ちが募る。

「食事ができました」

ありあわせで作ったものは、豪華なものではないが、昼食としては十分だと思う。生姜焼きにサラダ、野菜たっぷりの味噌汁に、もずくにひじきの煮物。

社長として多忙を極める夫のためと、食品の栄養についての勉強もしたし、素材や出汁にもこだわって作っている。無添加や産地もこだわっているつもりだ。

「質素だな。お前みたい」

最期は小声だったが、智也の言葉にお義母さんも笑った気がした。

「そういえば、最近美咲ちゃんに会ったのよ。覚えてるでしょ? あなたの幼馴染で、初恋の子だったわよね」

妻がいる前で、息子の初恋や他の女の話をするなんて。

信じられない気持ちのまま、私は玄米ご飯に手を伸ばす。

でも、お義母さんに何を言っても倍返しされることは、もう数年の経験でわかっていた。

「ああ……美咲、元気だった?」

その少しの間に、私は香水の相手が分かった気がした。

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