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「おはようございます、昨日はありがとうございました。お義父さんはなんとかやっててよかったです」
「ホント?困ってなかったんだ、やるねー。俺の親父なんかおふくろがいなきゃ何もできないよ、すぐにゴミ屋敷だろうな」
車検が終わった車を洗車しながらのおしゃべり。
税金も払ったし、お義父さんのことも大丈夫みたいだし、ここまでの役目は終わった。
「うちの旦那も、ほっとくと何もしませんよ。脱いだら脱ぎっぱなし、飲んだら飲みっぱなし。言えばやるけど、今やろうと思ってたのに!とか言われるから、もう私がやっちゃいますけどね」
「へぇ!えらいね、未希さん、ちゃんと奥さんやってるんだね」
「ん?やってないように見えた?もしかして」
たしかに私の見た目は、ちゃんと奥さんやってるように見えないかな?
昔ヤンチャしてた女の子が、そのまま年取った感じだからなあと自分でも思う。
「これでも意外と女子力高いんですよ、料理も好きですし、裁縫も得意だから孫にハロウィンの衣装を縫ったりしてるんで」
「え?マジで?人は見かけによらないなぁ…あ、ごめん、そんなつもりじゃなくて」
何故か慌てる貴君。
「いいです、よく言われるんで」
「ふーん、いい奥さんだね、未希さんて」
「そうかな?てか、一つ聞いてもいい?」
「なに?」
「家事をきちんとやれば、それだけでいい奥さんなの?」
貴君の手が止まった。
水道から水は流れたままで。
うーんと考え込んでいる。
「違う…かな?それだけじゃ、足りない。家事だけなら家政婦さんでもいいもんね。結婚する時は家事より愛情だよね?」
はぁ、とため息が出てしまった。
「ん?俺、間違ってる?」
「間違ってはいませんよ、ただ結婚したことがないから、ある一面しか見えてないなぁと思ったまで」
「ある一面だけ?」
「そう!結婚は愛情と勢いでできるけど、結婚生活はそれだけじゃ続かないよ、残念なことに。だいたい、愛情なんて結婚する時がピークで、あとは砂時計の砂みたいにどんどん減ってくと思う」
「あちゃー、まだ独身の俺から結婚の夢を奪うようなことを!」
「だって、ホントのことだもん」
さてと、これでいいと水道を止めた。
「ますます結婚したい気持ちがなくなったよ、どうしてくれる?これ未希さんのせいだからね」
「おやまぁ!私は経験者としてアドバイスしたまでだけどな」
結婚したい気持ちがなくなったと聞いて、何故かうれしくなった。
どんどん貴君との距離が近付いていった。
少なくとも私はそう思っている。
でも、それはあくまでも友達としての距離だった。
貴君は真面目だと聞いていたけど、本当に真面目で、私とのこともキッチリと友達として分けているように見えた。
もしも、何か噂がたってしまったらそれは不倫になるから、とても気をつけているんだろなと予想がついた。
私は、貴君のことが気になっていたけど、それは言ってはいけないことだと理解していた。
言ってしまったら、この友達関係が崩れてしまうのがわかっているから。
異性の友達は、時にこの微妙な土台の上に乗っているんだと思う。
劇団の公演を見に行く約束の、1週間前。
休憩時間にみんなで集まって、いただきもののお菓子を食べていた。
「で、どうよ、小平さんとの仕事は?」
私と同じくらいの年齢の田口さんが話を振ってきた。
訊かれた貴君を見ると、なんだかドギマギしてるように見えた。
「え、あ、その。うまくいってます」
「なんだそれ!お見合い後の感想みたいだな」
「うまくいってるって…てか、お前、なに赤くなってるんだよ、もしかして小平さんのことを?」
ん?赤くなってる?
私は対角線に座っていたから、貴君の顔がよく見えなかった。
「やめてくださいよ、私、一応人妻なんですから」
貴君をかばうつもりで、私が言った。
「そうですよ、人妻は、それだけで論外ですよ」
強めの否定、わかってるけど、がっかりする。
「ま、そうだな、職場で不倫されちゃ、周りも迷惑だからな」
わははと笑い飛ばす田口さん。
職場不倫は迷惑…だよね。
洋子さんから聞いた店長の不倫話を思い出した。
気をつけよう、バレないように。
違う、不倫なんかしてないって。
自分で自分にツッコミを入れた。
あ、劇団のチケット、渡そうと思って持ってきたけど、この雰囲気だと職場では渡せない。
当日でもいいけど…。
休憩が終わってみんなが仕事に戻った。
私は慌てて貴君にLINEした。
チケットを渡したいから帰りに少し離れたコンビニで待ってますと。
ぴこん🎶
『了解しました。ありがとう』
すぐに返事が届いた。
職場から10分ほど走って、大通りから一本入った所にコンビニがある。
ここなら会社の人は来ないだろうと思って、待ち合わせの場所にした。
先に着いたから、飲み物でも買って待つことにした。
車は店頭から離れた少し暗いところにとめる。