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・カプ表現
・自己解釈
・浮気表現
ーーーーーーーーキリトリーーーーーーーーー
某日、澄んだ海を望む事の出来る、とあるホテルに入った、レストランにて。メキシコ湾、又の名をアメリカ湾とも呼ばれる、アメリカ南東部とメキシコ北東部に挟まれた位置にある大きな湾は、深い水の色が美しい。と、そんな絶景を望める此の場所の窓辺の席に向かい合う様にして座る二人の人影。此処は一応、豪華絢爛なレストランなのだが、どうにも店に人の気配が少ない。彼等がその理由であり元凶であるのは言う迄も無いだろう。なにせ、たった二人だと言うのに、店を〝貸し切っている〟から、である。貸し切り、と言えば、団体客のイメージが大きい。其の為、店側も当初、此の話を断った。が、話を持ち出した、男の〝NOとは言わせない〟と云う様な圧力と、積まれた大金に、渋々承諾した為に、此の様な状況になったのだ。そんな、店側の苦労等、露知らず、当の本人は嬉々とした表情で愛するヒトと談笑しているのだ。其の者の名前は、〝アメリカ合衆国〟である。其の彼に対面しているのは、〝メキシコ合衆国〟だ。彼女は、彼よりも、一回り程小さい。面積の規模が圧倒的に差があるのも勿論だが、彼女が女性である事も、其の差の原因なのだろうか。身長差がかなりある為、必然的に墨西哥が見上げる様な形になっている事だろう。二人がしていた話は、日常での出来事について、であったのだが、不意に、墨西哥が問いかけた。
「…ねェ、あの時の事、アンタ、まだ覚えてる??」
と。亜米利加は、何の事かサッパリ、結びつかず、2,3秒困惑した様な顔を見せていたが、軈てピンときたのか、
「…ェ、まだ其の話すんノ??」
と、若干表情を歪めて、返した。すると、墨西哥はツンとした声色で
「唯の確認ョ、カ・ク・ニ・ン。」
と、一文字ずつ、切る様にして言っては、丁度手に持っていたスプーンで亜米利加を指し示す。亜米利加が、「下品だゼ??」と煽り気味に言うと、彼女はコレと言って返事はせず、唯、顔を顰め乍フォークを下ろした。恐らく、〝アンタには言われたく無いンだケド〟の意だろう。御喋り好きの墨西哥が黙った為に、其処に沈黙が生まれた。一方の亜米利加は、丁寧に皿に盛られたステーキを、やけにきちんとした仕草で切り分け、口へ運んでいる。鳴っているのは、ナイフと皿の擦れる音くらいなのだが、無音の広いレストラン会場には、異常な程に其れは響いた。何処か気不味い空間を先に壊したのは、墨西哥であった。
「………アレ、正直、まだ、根に持ってるンだけどネ。」
開口一番に評したのは不満の意。唇を尖らせ、亜米利加から、目を逸らしている。対する亜米利加は、やや食い気味に、
「悪いとは思ってるサ。」
「ンなもん、知ってるワョ。」
亜米利加が言い切る前に、被せる様に墨西哥は言い返す。
「アレも含めて、アタシにはいい思い出なァ~ノ。」
「…ヘェ、其れ楢、良かったワ。」
言葉こそ冷たいものの、そう返す彼の顔は〝安心した〟とでも言いたげな表情で。否、彼は遮光性のサングラスを、室内だと言うのに、掛けているのだから、実際の表情は分かりにくいのだが。
「……」
〝カラン〟
二度目の沈黙の間に氷の溶ける音が響いた。
〝では、アノ話をしようか〟
アレはまだ〃、残暑厳しい頃だっただろうか。まァ、兎に角、数ヶ月程前の事だ。
其の頃、国々の間では、噂が出回っていた。其れは、〝亜米利加と女性が歩いている所を見た〟というもの。皆、〝単に、あの男は人誑しで、女好きなのだから、遊び呆けていたのだろう〟と、考え、そんなに興味を持っていなかった。だが、其の時、既にアイツとは恋仲であったのもあるが、ワタシは何を血迷ったのか、将亦、ワタシが脳天気を極めすぎたのか、或いは何方もか。分からないが、〝多分、ワタシと一緒に居たのを見たのでは??〟と思っていたのである。まァ、答えから言うと、前者が事実であった。己の此の目で、見てしまったからである。其れは其れは悶えた。愛しい恋人が堂々と、何処の馬の骨か分からない様なオンナと遊んでいたのである。しかも、白昼に。其れは其れはキレた。ブチギレた。が、ワタシに、直接、アイツに尋ねる勇気なんてものはなかった。なにせ、現場を見た時、息を殺して逃げた己にそんな事は出来る訳が無い。怖い。嫌われるのが怖かった。離れられるのが怖かった。ようやく、恋焦がれたヒトの隣に座っていられたのに。其の椅子を取られるのが怖かった。〝きっと見間違い〟そうやって何度も言い聞かせて忘れようとしていたのに。現場を目撃した数日後である。再び、現場を見たのは。アイツの隣にいたのは、やけにケバいオンナだった。余り、良い記憶では無いから、極力忘れようとした為、具体的には覚えていないが、少なくとも、ワタシとは良くにた顔立ちであったのは覚えている。
ェ??唯一緒に居ただけで、其処迄、怒る必要が有るのか??……そりゃァ、恋人が他のオンナの腰を抱いて歩いていたのを目撃したら誰だって怒るだろう。
閑話休題、兎に角、二度目の現場を目撃した事により、残念乍、〝見間違い〟という線は潰れたのだ。端的に言えば〝浮気〟とやらに当たる。復讐だとか、仕返しだとか、そんな陳腐な事を一瞬考えたが、そんな事をしても恐らく、意味は無いだろう。
又〃、話が脱線するが、亜米利加は、ピアスも開けているし、身体には、タトゥーも過剰に入れている。良くそんな奴に付いて行けるよな。あのオンナ達。余程肝が据わっているんだろうか…。
兎にも角にも、浮気されたと言う事実は変わらない。確かめたい、が、矢張り、勇気は出ないのである。気になる、でも……。そんな事を繰り返している間にも、日は過ぎてゆく。
嗚呼、恐れていた日が来た。俗に言う〝デート〟である。別に、初めてではないのだから、緊張していて、とかでは無い。恋人の浮気が明々白々な状態でマトモにそんな事が出来るとは、到底思えない。現に会ってみれば、アイツの首元には、赫い鬱血痕が残っている。抑、鬱血痕の存在に気づいていないのかと言う程に、気にする素振が無い。ポーカーフェイスにも程がある。余りにも気に掛かり、じっと見つめてしまっていた。すると、流石のアイツもワタシの視線に気づいたのか、
「どうした??」
と、問い掛けてきた。
「否、」
〝否、何でもない〟そんな言葉が喉から出かかったが、此のタイミング、逃したら、二度と聞けなくなるかもしれない、そう思うと、無意識に言葉を飲み込んでいた。〝なァ、其の跡何??〟と言え。そんな指令が脳から出たが、言葉として発される事は無かった。パク〃と、口は動くが、音を出せない。否、出さなかった。肝心な時に日和ってしまうのはワタシの悪い癖だ。
何かを言いかけて、其れを切っては、口パクしているなんて、アイツからしたら、とことん謎であろう。首を少し傾け、不思議そうにしている。
「どうした??」
なんて、声を掛けてくるが、鬱血痕が気になり、其れ処では無い。矢張り、気になる。嗚呼、アタシは言葉よりも、行動で示すタイプであった。そんな、逸脱した事が頭に浮かぶと、自然と手を伸ばしていた。ぴと、と指と肌が触れる感覚がした。紛れも無く、触れた所は、アイツの首元である。
其れで、アイツもワタシの心意を察したのか、〝ヤベェ〟と云う顔をしている。ァ、等と云う言葉に成らない声が溢れていた。そんな姿を見たからか、今迄、機能していなかった口から、
「ねェ、此れ、何??」
と、云った様な言葉が溢れた。因みに、自分でも引く程、冷めた声をしていた。
一方、アイツは、顔面蒼白、と迄はいかないものの、かなり焦った様子で、視線を、右往左往とさせていて。
「ァ、別に責めてないからネ……」
正直、憤慨していたが、No.1サマにそんな顔をされては罪悪感も湧く。何だろうか、ワタシが悪いみたいなこの状況は。
「俺だって、無欲な訳じゃないし……。」
続く言葉は、御前に負荷を与えたくない、とか、セーヨク強いって思われたくなかった、とかの予想外の言葉だった。何依、保身にしか聞こえない様な言葉だったが、ワタシだって、此れでも恋する乙女なのだ。好きな人が、自分を気にする様な言葉をかけてきたら、嫌な気はしない物だ。恐ろしい事に、アレでときめいたのである。本気の浮気じゃないだけマシだし、多少なりとも、ワタシへの気遣いがあったのは、事実だ。次はないよ、なんて、口にして。他にうつつを抜かしていた訳では無いと言うのが分かった岳、良いか、と己の中で消化した。唯、浮気は浮気、軽く頬を抓ってやった。………此の位は許されるだろう。後、序に〝上書き〟しといてやった、当たり前でしょ!?。痛かったのか、少し顔を顰めていた。煽りとして、ニヒルに笑っておいてやった。ざまあ。
言いたい事と、したい事はしたし、本題のデートに戻ろう、とした時、耳元で何やら不穏な言葉が聞こえてきた。聞き慣れた、アノヒトの声だ。『じゃぁ、もう我慢しなくて良いんだナ。』
するり、とワタシの首筋を撫でては、「ゴメンネ」と。何に対してかは分からないが、悪い気はしなかった。