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目の前には誘拐犯こと黒川イザナさん。
『…なにこれ』
そして今さっき作られたであろうホカホカのご飯
「飯」
『それは分かるけど………』
まっすぐに天井へと立ちのぼる湯気が、イザナさんの表情を霞ませている。
「食わねぇの?腹減ってない?」
湯気のすき間から覗く困惑したような目つきでこちらを見つめながら私に問いかけるイザナさんの発言に破れるように大きく眼を瞠った。
『…私が食べていいの?』
「食っていいも何も○○の為に作ったし。」
腹減ってねぇなら下げるけど。とご飯に手を伸ばすイザナさんに急いで食べると返事をする。
『…いただきます』
「ン、どーぞ。」
イザナさんの顔色を伺いながら恐る恐るご飯とお皿の間にスプーンを滑らせ口に入れる。
控えめに口に入れたご飯は舌を転がり、歯の間で崩れるように噛みくだかれて喉を通った。
『…美味しい 』
優しい味が口いっぱいに広がっていく。
初めてだった。こうやって誰かが作った暖かいご飯を食べるのは。
幸せに似た出会ったことの無い甘酸っぱい感情が胸を満たしていく。
「…まずかったか?」
慌てたようなイザナさんの声にハッと意識が再編成される。
『へ?美味しいですよ』
なんでだ?ちゃんと美味しいって伝えたのに。
困惑で首を傾げる私に言いにくそうにイザナさんは告げた。
「だってオマエ…泣いてるから」
えっ、と乾いた声を上げながら目元に手を添える。あ本当だ、と頬と手が濡れる感触で思う。
意識した瞬間、さっきよりもずっと目の奥が熱くなって拭いても 拭いても涙が止まらない。
「…ごめん、やっぱりオレ食うわ。出前でもたの…」
『ち、違う!美味しいです、本当に。』
イザナさんの言葉を途中から奪うように遮って必死に次の言葉を続ける。
『私、誰かが作ったご飯を食べるの初めてで……それで嬉しくて……本当に美味しいです。』
嗚咽まみれの聞き取りづらい声で話す。我ながら語彙の無い文章だなと心の中で反省する。
「…よかった」
それでもイザナさんにはちゃんと伝わったようで、愛しいものを見る様な、それで居て憐れむような目つきで笑った。