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蘭春〖輝く希望の指輪〗

第1話 - 思い出

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2022年07月15日

#東リべ

#蘭春

#BL

#ドラマ

#大人ロマンス

小夜

さっき作ったばかりの苺ジャムを、袋から取り出したパンにナイフでたっぷりとつける。

光が反射し、まるで苺ジャムが真っ暗な世界の最後の希望のようにキラキラと眩しく光る。ああ、宝石のようだ。

ルビーと言ったっけな、彼奴にあげた指輪にはまっていた宝石は。

左手の薬指にソレを通してあげると、エメラルドグリーンの美しい瞳に涙を浮かばせ顔を赤く染め抱きつき泣いていた。

嬉しかったのだろう、きっと。

彼奴の嬉しいというその感情がわかれば、次の日のあの表情の意味も理解できたはずなのに。

「はは、バカだなあ…本当」

最悪、という感情が頭を埋め尽くす。どうして、とあの時の自分に問いたい。

そしてついでと言ったらなんだが思いっきりビンタしてやりたい。そのくらい後悔が酷いのだ。

ブロックされてもう見ることができないメッセージを思いだす。でもそれは少しの気休めにもならなかった。

頭を右左に振って頭の中のメッセージの履歴を完全に消す。

サクッ、と苺ジャムをぬったトーストにかぶりつく。

苺の甘さと絶妙な酸っぱさが口内に広がり、心をふんわりと甘く優しく落ち着かせる。

「………愛してる、×××」

もう届かない言葉をポツリと呟いても返事は返ってこない。

今日もまた、一人の夜が過ぎていった。

＊＊＊

目が覚めると同時に、インターホンが部屋中に鳴り響いた。

うるさいなあ、誰だよと思いながら髪を手でとく。ガチャリと音をたて外の世界に繋がる扉を開ける。

そこには、”元”恋人がいた。

白いワンピースをまとい、俺からのプレゼント＿ルビーの指輪を身につけ立っているのは間違いなく×××だった。

相変わらず色褪せないその瞳にじっと見つめられ、思わず目をそらす。

「い、今さら何しに来たの」

俺が震えた声でたずねると、×××はこう返す。

「これ、返しに来ただけ」

言い終わったあと薬指にはめられているその指輪を、俺の手首を持ち上げ開かせた手のひらの上にポンッと置く。前とはまったく違う扱い方。

「今までありがとう、さようなら」

「ありがとう、って…この指輪、どうすればいいの」

×××はため息をつくと、俺を見つめながら言った。

「ソレを買ってきたのは貴方でしょう、自分で片付けてね。その指輪」

ついでにあの幸せだった思い出も、と付け足して。

そして瞬く間に帰っていった。彼奴はあの頃と変わらず女のような振る舞いをして、女のような服を着ている。髪もしゃべり方も全て。

そうだ、俺が彼奴…×××を叩いたのは、理由があった。×××の女のような容姿がイヤだったのだ。俺は母親が大嫌いだったためか、極度の女嫌いだった。今までは散々女を抱いてきたくせにな。

あの日、×××を叩いたあと、本音をぶつけた。それを避けることなく×××は全て受け止めた。それでも、×××は”女”に憧れていた。実際、×××と初めて会ったとき、ビックリした。無数の宝石や星を閉じ込めたような瞳。傷ひとつない雪のような肌。綺麗でいて長い桃色の髪。女嫌いの俺でもすごく引かれてしまい、声をかけたことで男と判明した。

その後は本当に幸せな日々が続いた。笑って、泣いて、喜んで。×××との出会いが俺の運命を変えたのだ。

×××は俺の運命の人だと、信じて疑わなかったせいで。

こんなことになってしまった。

しかたがない、なんていう言葉で終わらせることはできない。

「指輪、どうしよう…」

そう呟いたあと、真っ先に出てきた場所へ向かうことにした。

＊＊＊

歩くたび砂がすれザリザリと不快な音がする。

夜の海は驚くほど静かで、先日の突然起こった荒波事件現場だなんて見たただけではわからないほどだった。

ポケットに突っ込んでおいた指輪を取り出す。月光に照らされ眩しいくらいの光を放っている。

指輪にはめられた真っ赤なルビーが海に反射し、ゆらゆらと海のなかで揺れ動いている。

ぎゅっと指輪を握りしめたせいで手のひらが少し痛い。