深夜のビルのエントランスは静まり返っていて、2人の足音だけが小さく響いていた。
無言のままエレベーターに乗り込むと、涼ちゃんがボタンに手を伸ばしかける。
その手を、元貴がそっと、でも確かな力で止めた。
「押さなくていい。俺がやるから」
そう言って、元貴は階数ボタンではなく――「停止」ボタンを、迷いなく押した。
ピッ。
無機質な音とともに、エレベーターは途中階で止まり、静寂が満ちる。
「……え、なんで止めたの?」
涼ちゃんが問いかけるその言葉の途中、元貴が一歩詰め寄ってきた。
「今、ここでしかできないから」
言葉よりも早く、唇が重なる。
「ん……っ」
唇を噛む、舌を絡める、奥へ奥へと欲を注ぎ込むようなキス。
涼ちゃんは思わず身をよじるが、元貴の腕にがっちりと捉えられて動けない。
「……もう我慢できないんだよ。涼ちゃんの全部が、欲しい」
「ちょっと……ここ、誰か来たら……っ」
「じゃあ急ごう」
そう囁いて、元貴はその場に膝をついた。
迷いなく涼ちゃんのズボンと下着を引き下ろす。
「や、ちょ、待って……っ」
「もう待てない。舐めたい。……ずっと喉がうずいてた」
そして――
そのまま、元貴は涼ちゃんを咥えた。
「っ……あ、ぁあっ……!」
くちゅ、じゅる…と淫らな音が静かな密室に響く。
舌が先端をなぞり、唇で根元をしごくように動く。
「やば……っ、声、出ちゃう……っ」
「ダメ。声、我慢して……もっと、奥まで入れて」
激しさを増していく動き。
舌先は裏筋をこすり、唇が敏感な場所を締めつける。
涼ちゃんの膝がガクガクと震え、指先で元貴の髪を掴む。
そして――
ウィィィン…
「……っうそ、動き出してる……!」
エレベーターが突然、上昇を始める。
誰かが呼び出したのだ。
「やばい、誰か来る……っ!」
「だったら、早くイって」
焦りと興奮が重なる。
元貴はさらに深く咥え込み、喉の奥まで涼ちゃんを受け入れながら、
指も添えて、追い込むように責め続ける。
「も、もうっ、だめ……来る、来る……っ!」
「いいよ。俺の口の中に、全部…出して」
そして――
「……っあああああ……っ!」
涼ちゃんは小さく悲鳴をあげ、
全身をびくんと震わせながら、元貴の喉奥へと達した。
口の中に溢れる温もりを、元貴は残さず飲み干す。
――その直後。
チンッ。
扉がスッと横に開いた、その瞬間。
「あっ……」
目の前に立っていたのは、ライブ現場でもよく顔を合わせる制作スタッフだった。
イヤモニが首から垂れ下がっていて、手には書類。
「あれ?大森さんと藤澤さん……? こんばんは。お疲れ様です」
涼ちゃんの顔から血の気が引く。
脚を震わせながら必死に体勢を整え、壁にもたれかかって視線をそらす。
元貴は、一瞬だけ唇をなめ、髪を整えると、何事もなかったように微笑んだ。
「こんばんは。遅くまでご苦労さまです。今、ちょうど帰るところで」
「ですよね、さっきスタジオの明かりついてたんで。…あれ? なんか、2人とも顔赤い?」
「……暑くて」
咄嗟に答えた涼ちゃんの声はかすれていたが、スタッフは特に気にする様子もなく、エレベーターに乗り込んできた。
「いやあ、確かに。今日湿気すごいですね〜。あ、上行きます? どの階ですか?」
「……あ、8階で」
元貴が即答し、扉が再び閉まる。
涼ちゃんは、俯いたまま声を出せずにいた。
ほんの数秒前まで、元貴の口の中にいた自分――
その記憶と余韻が、体温をまだじんじんと刺激している。
そして、そんな涼ちゃんの背中にそっと手を添えながら、
元貴は、涼しい顔でスタッフと軽い世間話を始める。
「また、打ち合わせの資料ですか?」
「そうなんですよ。明日早いんで、コピーだけしに来たんです。じゃ、お先に」
7階でスタッフが降り、扉が閉まる。
その途端――
元貴は涼ちゃんの耳元に、低く囁いた。
「……おいしかったぁ、涼ちゃん。ねぇ、気持ち良かった?」
「っ……!」
涼ちゃんの耳が、一気に赤く染まった。
「部屋、着いたら……もっと、してあげるから」
涼ちゃんは俯いたまま、返事の代わりに、
元貴のシャツの裾をそっと握りしめていた。
END
コメント
2件
癖にぶっ刺さりました(*^q^)