◻︎見抜かれていた離婚
話し合いを終えて実家に帰った。離婚することをきちんと娘たちに伝えないといけない。2人ともわかってくれるだろうか?さすがに不安が残る。
泣いて反対されたら、私はどうすればいいのだろう?
晩ご飯を食べて、お母さんと一緒に4人でテレビを見ていた。
___さぁ、話さなくちゃ
テレビの音を小さくして、意を決して話す。
「あのね、お母さんから莉子と絵麻とそれから、おばあちゃんに話があるの」
「えー、何の話?今テレビ面白いとこなんだけど」
莉子は不機嫌そうだ。絵麻はキョトンとしている。お母さん(おばあちゃん)は、黙って聞いてくれるようだ。
「あのね、お母さんはお父さんと離婚することにしました」
「なんだ、そんなことか」
「離婚って、お父さんともう会えないの?」
莉子は反対するかと思ったのに、そんなことかって。
「莉子、そんなことって?」
「だって、お父さんもお母さんもずっとイライラしてたじゃん?理由はよくわからないけどさ。すごく仲悪くなってたよ。だから、あ、これはいつもの喧嘩と違うなって思ってた。そしておばあちゃんちに来ることになったし」
「気づいてたんだ…」
「絵麻はわからない!あ、でもお父さんこわいことあったね、だから?」
「そうだね、あの時は怖かったね」
宿題で待っていたのに怒られたことをおぼえていたようだ。
「ね、離婚の原因って、何?お父さんに愛人でもできたの?」
サラリと莉子が言う。
「ううん、そんなことじゃないんだけど。なんかね、仕事ばっかりで疲れちゃったんだって、お父さん。家族が邪魔に思えてしまうくらいにね」
「そんなこと言ったの?和樹さんは」
お母さんが驚いている。
「優しい人だと思ったのにね、案外冷たい人だったんだね。3人とももうここで暮らしなさい。おばあちゃんは賑やかになってうれしいよ」
「ありがとう、お母さん」
「うん、絵麻もいいよ。お父さんはお小遣いはたくさんくれるって言ってたし」
「私も平気。あ、でも名前はそのままにしておいて欲しいな。お母さんの旧姓になると離婚したってバレバレだからさ」
「わかった。そうしとく」
子どもたちが思ったより動揺しなくてホッとした。それにしても、和樹のイライラも私との不仲のことも見抜かれていたとは気づかなかった。
◇◇◇◇◇
次の日。
私は父の遺品の中から見つけた、輪ゴムで綴じられた(薬の束)を持って実家を出た。
家に着いて、昨日確認したサイドボードの上を見る。
「あった、思った通りだ」
それは、和樹が再検査を受けた病院から処方された飲み薬が入った袋だった。中身を確認したら、一回も服用せずほったらかしてある。もともと、病院に行くことは苦手だし薬も飲みたがらない。今回の再検査もよく行ったと思ったけど、それは家族のためではなくきっと桃子のためなのだろう。
薬の説明書も無造作に置いてあった。
___胃炎の薬二つと睡眠導入剤?
私は、家から持ってきた父の遺品の中にあった薬の束を出した。中身を確認すると、睡眠導入剤は同じものだった。残りの二つを和樹の薬と父の薬を入れ替えておく。そして薬の説明書は捨てておいた。
「これでよし、と」
夫は、めったなことでは薬なんか飲まない。たまに市販の風邪薬や胃腸薬を飲むくらいだ。薬を入れ替えておいても飲む心配はほとんどない。実際に今も飲んだ形跡はない。
カレンダーを確認する。この前の話だと明後日には病院から、検査結果についての電話があるはずだ。念のため、明日も明後日も病院からの電話があるまでここに来て待つことにする。
家の中に残したままだった私と娘の大事なものを、少しずつ段ボールに詰めていく。絵麻が生まれてから一度だけ4人で撮った家族写真は、無造作にしまいこむ。置いていくことも考えたけど、もしも桃子がここにきたら捨てられてしまいそうな気がしたから。
___私と和樹のことなんてどうでもいいけど、子どもたちのことを無碍に扱われるのは許さない
他にも、娘達との思い出になるものは全部持ち出すことにした。
次の日もまた次の日も、荷物を運び出すために家に戻る。そして今日は病院からの電話がある日だ。
時計を見るともうすぐお昼。コンビニで買ってきたサンドイッチを食べながら、テレビをつけた。
プルプルプル♪
固定電話が着信を告げる。いつも通りに焦らないでと自分に言い聞かせながら、受話器を取る。
「はい、小沢です」
『こちらは◯◯市民病院の内科です。そちらは小沢和樹さんのお宅で間違いありませんか?』
「そうです、妻の愛美ですが…」
『奥様ですね?ご主人に伝言をお願いできますでしょうか?』
「はい」
『先日の再検査の結果が出ましたので、近日中に結果を聞きに病院に来てくださいと』
「はい、わかりました。あの…主人だけでいいのでしょうか?私も行くべきですか?」
『いえ、簡単に終わると思いますので、ご主人だけで結構です』
「わかりました。伝えておきます」
電話を切って考えた。やっぱり和樹の病気はただの胃炎だろう。本人だけで簡単にと言うのなら、それくらいの病気だ。ほんの少しだけホッとする。憎む相手が重大な病気だったりすると、気持ちが削がれてしまうから。
私は奈緒にLINEを送る。
〈ね!頼んでおいたやつは、どう?〉
《いいのが撮れたよ。で、いつ実行するの?》
〈ちょっと待ってて。まずは私が、アイツに着拒やブロックされないといけないから〉
《わかった。じゃあ、準備できたら連絡して!その時が爆弾投下日だから。なんだか楽しみだよ》
〈私も楽しみ。じゃ、その時はよろしく〉
奈緒は、私の離婚がきちんとできるように、確実な証拠写真を撮ってくれたようだ。
奈緒の準備もできたし、次は私が、しつこく和樹に電話やLINEをする。うんざりするほどに。
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