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◻︎ストーカーのように
仕事中はスマホを見ないだろうから、一方的なLINEを送りつける。
〈今日は何時に帰るの？久しぶりに2人でご飯でも食べない？〉
返事はない。続けて次を打つ。
〈ずっと家を片付けていて、やっぱり私、離婚したくないなって思ってるの。ね、やり直せないかな？〉
送信。
〈あなたも仕事が大変ならやっぱり私の支えが必要だよ、ね？そうでしょ？1人じゃ潰れてしまうわよ〉
送信。
〈今日も忙しいのね。返事はいつになりそう？〉
送信。
〈ふと、思うのよ。もしかしてあなたも離婚したくなくなったんじゃないかな？って。だから、ね？もう一度話し合いましょう〉
送信。
〈私ね、反省したの。今まで子どもばかりを一番にしてたことを。これからはあなたのためにもう一度女になるから。ちょっと恥ずかしかったけど、こんなものも買ってしまったのよ。あなた、こういうの好きでしょ？〉
私はネットで見つけた、下着とはとても言えない細い紐の、ソコには穴が空いているショーツの写真を添えた。こんなの誰が履くかよって、自分にツッコミながら見つけたやつだ。実際に買ってはいないんだけど。
「あっ！読んだ！」
既読がついた。なんて返事をしてくるだろうか？そのままで待つ。
5分…10分……
返事はない。
＿＿＿今頃、どんな気持ちなんだろう？
離婚するはずなのに、面倒くさいとか、邪魔だとか思っているのだろうか？もっともっと邪魔なLINEを送ってやる。
〈晩ご飯は、炊き込みご飯がいいかな？はりきって作って待ってるね。2人で食事して、なんなら2人でお風呂に入って、それから…〉
結婚してからはほとんど使ったことがないハートの絵文字をたくさん入れる。
送信。やはり返事はない。
今度は電話をかける。
留守番電話に変わると、メッセージを録音する。
“和樹さん、今日は早く帰ってきてね。ずっと待ってます。久しぶりだから少し緊張しています”
まだまだ、メッセージを残す。何回でも繰り返して同じことを。
“離婚はしたくないの。これからはあなたの奥さんとしてしっかり支えるから、お願い！”
“どう言えば、私のこの気持ちが伝わるのかな？私はあなたを愛しています。あなたは仕事が忙しすぎて、疲れてるだけなのよ、きっと。まだ私たち、やり直せるわ”
＿＿＿そんなこと、万に一つも思ってないけどね
心の中で、アッカンベーをしながら、和樹に縋り付くようなメッセージを残す。自分で芝居をしてるのに、あまりの気持ち悪さに吐き気をおぼえた。
しばらくして、LINEにはまた既読がついた。留守電のメッセージは聞いたのだろうか？
《頼むから、仕事中に何度も連絡してこないでくれ》
＿＿＿するわよ、誰がやめるもんですか
〈ごめんなさい。私、あなたに嫌われたくない。ただ私の気持ちをわかってほしくて〉
送信。
〈離婚届は、私のところにあるから、私が出さなければいいだけよね？〉
送信。
〈愛してるわ、和樹さん〉
送信。
〈本当は、あなたもやり直したいのよね？〉
送信。
〈あなたも1人じゃ寂しいでしょ？私がそばにいるわ。娘たちが邪魔なら実家に預かってもらうし〉
送信。
＿＿＿そんなこと、絶対しないけどね
それから後も、私は同じような内容のコメントを送り続けた。ただひたすら、ストーカーのように。
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