:(リンドウ目線)
今は夜、廊下の窓から見える夜空はいつもより透き通っており星々が小さくきらめいている。外からかすかに木々が揺らめく音が耳に入って来る。何故かとても落ち着く…
ここは[仮世界]、私とイヤホン、ガーベラの3人しか住んでいない。そのため外はとても静かだ。
リンドウ:[今頃2人は深い眠りに付いているのだろう…私には無理な話だな。]
これはきっと体が覚えているせいだ。昔の私はこの時間帯にいつも夜の見張りをしていたのだろう。
……私にはこの世界に来る前の記憶がない…だが体はそうではないようだ。
日々見回りや鍛錬をしているのは命令されているからではなく、それをしないと体がムズつくからだ。そのため…私は決まった時間帯に目が覚めてしまう。
リンドウ:[結局…今日もこれを渡せなかったな]
私の手には濃いピンク色のネックレスが握られていた。
ガーベラに渡そうとしていた物だ。彼女は最近任務から帰って来た後顔がやつれている事が多く、とても暗い…
だからせめて励ましとして…と外の世界に行って
買ってきたのだ。だが、あまりタイミングが掴めず気づいたらもう彼女が眠る夜になっていた。…のを5回も続けている。
リンドウ:[そろそろ渡さないといけないな……?]
廊下の奥から光が漏れていることに気がついた。キッチンの方からだ。
ソッとその扉の隙間から顔を覗かすと…
リンドウ:[…ガーベラ?]
ガーベラがポツンとキッチンの食卓の机にいた。
ガーベラは私の存在に気づくと驚いた顔でこちらに目をやった。あの反応的に何か考え事をしていたのだろう…
ガーベラ:[キャ!えぁ、スゥ…リンドウいたんだ…]
リンドウ:[あぁ、すまない驚かせてしまったようだな、…所で何か考え事でもしていたのか?]
ガーベラ:[………………ハァ~…、いや、そうよね…貴方なら分かるわよね]
そしてまた少し沈黙した後彼女はもう一度息を吐いた
ガーベラ:[座って、そこで話すのは変だし]
私は食卓テーブルの椅子に座った、彼女はいつもより表情が悲しげで暗い。
リンドウ:[出来れば私に話してくれないか?無理とは言わないが…最近日に日にガーベラが元気じゃなくなっているのをただ見るだけなのは…あまり気持ちが良くないのでな。]
ガーベラ:[それ、遠回しに話せって事じゃないかしら?]
クスクスと彼女は笑いながら言う
ガーベラ:[…そうね、溜めてばかりいると返って体に毒だものね。…じゃあ、私のお話しを聞いてくれる?]
私は静かにコクリと頷いた。
ガーベラ:[…私ね、最近自分が人間じゃないんじゃないかって思うようなってきたの。そうね…任務の時に私達が破壊しているウイルス…そいつらのような化け物なんじゃないかって…。おかしい話しでしよ?……でも何故か私、ウイルスを破壊する時、何故か昔の自分を殺しているかのような…そんな恐怖を覚えたの…今の私とは違うって思ってしまうの…
醜いお前とは違うって…化け物だった頃の私じゃないって…。そこから日に日に苦しくなって…憎くなって…ついには…楽しいって思えるようになってしまったの。…昔の私を掻き消せると感じたから。]
私は静かに彼女の話しを聞いていた。…彼女は昔、親しい友や家族とも言える人から利用され化け物と呼ばれ1人孤独に生きてきた。……ウイルスはそのような感情に感知しやすい所がある。そしてその不快な感情を増幅させるような特質も持っている。だから気を抜くとすぐに取り込まれてしまう恐れがある。…それをイヤホンから聞いた事がある。…つまり今の彼女はウイルスによるストレスが
原因で元気がなかったのだろう。
ガーベラ:[…おかしな話しでしょう?……ねぇ…貴方から見た私は…醜い?私は醜くくてしょうがないの…鏡を見るのも怖い……何で…どうして私は醜いの?]
彼女から大粒の涙が溢れ落ちる。それは沢山のトラウマが詰まった涙だ。大切だった人に裏切られ侮辱され、生きる理由を壊された……その過去が詰まった涙だ。
私は何も言わずに彼女が落ち着くのを待った。
ガーベラ:[ヒック…ごめんなさい…酷い姿を見せたわね……ふぅ~…本当にごめんなさいね…こんなおかしなお話しを聞かせてしまって…。]
リンドウ:[………ガーベラ、覚えているか?私達が初めて出会ったあの日…イヤホンが貴方に対して放った言葉を…………イヤホンは貴方に対して美しい顔だと言っていた。まるで春を呼ぶ天使みたいだと……その時その場にいた私も同じ事を思っていたんだ。あの日あの場所で貴方が勇敢に自分の生存権を主張していたあの姿を見て私はとても美しく…カッコよく見えたんだ。私が貴方を助けたのは正義感ではない、生きたいとそう言い放った貴方の事を助けたいと思った私の意思による物だ。私から見た貴方はこれまでの過去から逃げなかった勇敢な貴方だ。醜い化け物ではない!貴方は立派な人間だ!]
私は自分の思った事をそのまま伝えた。しかし、何故だが喉の奥にかすかに熱帯びた感覚を覚えた…まるで昔の自分を目の前にしているかのような感じに思えた…。……、ふと目を自分の左手の方に落とす。その手には彼女のために買ったネックレスが握られている。
リンドウ:[…ガーベラ。その…何だ…いつも元気が無い様子だったからな、これを]
ガーベラ:[…ネックレス?…綺麗、私の花と同じ色、これを…私に?]
リンドウ:[…………………]
ガーベラ:[………ップ、フッフフッアッハハハ!]
リンドウ:[……面白いか?]
ガーベラ:[面白いわよ!いつも真面目な貴方が…こんな可愛らしい事をするだなんて…ッククク]
リンドウ:[……そうか]
ガーベラ:[はぁー…面白い、……でもありがとう。貴方のおかげで元気になれた、励ませられた。………このネックレス大切に着けさせてもらうわね。]
その言葉を言った後、彼女はその場でネックレスを首に付けた。その時の彼女は……誰かに似ていた。
その誰かは分からない、顔も姿も…でも…見たことがあるような…そんな気がした。付けた後彼女は私に微笑んだ。
ガーベラ:[どうかしら?似合ってる?]
リンドウ:[あぁ]
ガーベラ:[はぁ…貴方はもう少し表情筋を鍛えた方が良いかもしれないわね]
リンドウ:[そうか…]
ガーベラ:[そうよ!ほら目を細めて口をこう!ニコって!]
リンドウ:[………こうか?]
ガーベラ:[そうね!怖いわ!…睨んでるわよ、てか口をただ横に伸ばしてるだけじゃない!もう少し上にあげて!]
リンドウ:[……元気になったのならもう寝たほうが良い]
ガーベラ:[…でも貴方はまだ起きるのでしょう?]
リンドウ:[そうだな]
ガーベラ:[夜の見回り?]
リンドウ:(静かに頷く)
ガーベラ:[なら私も]
リンドウ:[ガーベラ明日も任務だ、貴方は私とは違って睡眠を取らないと体が持たない…だから寝たほうが良い]
ガーベラ:[……そうだった貴方は私と違ったわね……そうね分かった、ならもう私は寝るわね。おやすみ、一応夜の見回りは気おつけてね]
リンドウ:[あぁ]
[おやすみ]
[[終]]
おまけ
“[[…女じゃない?]]”
イヤホン:[え?ガーベラが元気ない?]
リンドウ:[顔もやつれていたので]
イヤホン:[疲れが溜まっているのかもしれないね]
リンドウ:[何か私が出来る事はありますか?]
イヤホン:[敬語はよしておくれよじれったい]
リンドウ:[ですが…貴方もそうでは?他の世界だと不通に敬語で]
イヤホン:[礼儀ですよそれは]
リンドウ:[…]
イヤホン:[…ならプレゼントでもあげれば良いんじゃないかな]
リンドウ:[プレゼント…ですか]
イヤホン:[そう!やっぱり女性はプレゼントを渡すと喜ぶ…と思うし、綺麗な物とか?]
リンドウ:[女性の貴方がそれを言うんですか?]
イヤホン:[あいにく私は女じゃないのでね]
リンドウ:[………]
イヤホン:[………信じてないでしょ]
リンドウ:[………]
イヤホン:[私は異性がないんですよリンドウ君]
リンドウ:[…………そうですか]
そしてその後外の世界でネックレスを買ったリンドウであった。
コメント
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おぉ~!すごい!メッチャいいです!