『こうなることを予測していたのですか?』
何の感情も読み取れないAIの声。
しかし、それは動揺を抑え、努めて平静を装っているかのように感じた。
先程すでに感情を露わにしたのだから、無理をする必要は無いと思うんだが。
「予測、じゃないな。あいつらが簡単にくたばるとは思ってないし、素直に逃げ出す様なタマじゃないのも分かってたからな。強いて言えば――願い。そうであって欲しいという俺の希望だ」
本来、あいつらを戦いに巻き込むつもりなんて毛頭なかった。出来れば無事に逃げ出していて欲しいと願っていた。しかしその反面、俺が来ようが来まいが戦おうとする大馬鹿がいるだろうとも思っていた。
だからこその短期決戦。
《魔ギア》と一体化した今ならはっきりと解る。あの天使たちは人類が抵抗出来得るような相手ではない、と。
それでもカインたちは戦おうとしただろう。例えその刃が天使に届かないことを理解していたとしても。
「高性能AIでも予測出来なかったのか?」
俺が茶化す様に言うと――
『私は彼らの様な不確定因子を計算に含めませんので』
――と、少し不機嫌そうに返してきた。
「なら、今の状況の説明を頼む」
目の前で起こっていることは、俺の想像を超えたものだったから。
カインによって左足を斬り落とされた【力天使】は地面に倒れ込んだ。
その背中目掛けて降り注ぐ炎の流星雨。激しい爆発音に沸き上がる火柱。強い熱風が周囲に巻き起こる。
術者の姿は見えないが、これほどの攻撃魔法を使える者となれば限られてくるだろう。
そんな激しく燃え上がる炎の中でも再生を果たした【力天使】が、身体を燃やしていた炎を吹き消すかのように立ち上がる。そして、それを待っていたかのように、正面からその肩口を巨大な戦闘斧《バトルアックス》が抉った。顎髭を蓄えた中年の男――ムルティだ。
その刃先は【力天使】を両断する勢いで袈裟斬りに抜け、その巨躯は再び支えを失ったかのように倒れていく。
そして切断された上半身の頭部へ向けて、カインの斬撃が凄まじい威力と速度をもって連続で叩きこまれていく。
奴らの天使の姿は仮初のものであり、特に心臓や脳といった急所たり得る器官を持たないため、どこを攻撃しようがそれ程の違いは無いのだが、それを知らないカインの攻撃は容赦なく頭部を破壊していく。
そんなカインの上空に現れる小さな光源。【力天使】が攻撃を受けながらもエネルギー弾をカインへと狙いを定めていたのだが……。
「空間支配!」
少女の声が聞こえたかと思うと、カインを中心として緑色の光が広がっていき、【力天使】が発動しようと準備していた光の砲台を飲み込み消滅させた。
『説明とは?見ての通りだと思いますが?』
「いや、あいつら強すぎないか?最初に倒した天使と比較しても、アレを圧倒するレベルに思えるんだが……。普通の天使一匹でも王国の正規軍が二個師団全滅させられたって聞いたことがあるんだが……」
いくらムルティが歴戦の勇者で、カインが若手の有望株だとはいえ、人一人の攻撃が天使に通用することが理解出来ないし、そもそもこれほどまでに強かったという記憶はない。
『ああ、そういうことですか。最後に天使がこの地上に現れたのは十二年程前になります。その時点では《魔ギア》は未完成でした。そしてその後、いくつかの試作段階を経て完成したのです。ちょうどその時に作られた試作品というのが、彼らの所持している剣であり、斧であり、杖なのです。あれらは通常の武器としてはそれまでの物と大差はありませんが、あれも一応は「《対天使用兵器》」であり、その最終段階で生み出された物。本来であれば【力天使】と戦うには力不足ではありますが、今の弱体化しきった状態であれば、十分に通用するのでしょうね。それに【力天使】は帰還の為のエネルギーを残さねばなりませんので、大規模な攻撃を行うことが出来ないというのもありますし、あと一つ――』
「おい、いつまで寝てやがるんだ欠陥品」
寝転がったままの俺の頭の方から聞き覚えのあるぶっきらぼうな声が聞こえてきた。
「……ギュースか」
視線だけを動かして見上げるように声の主を見る。
そこには、服はあちこちが破けぼろぼろ、顔や体には大量の血の跡が残る姿でギュースが立っていた。
『その男の使っている《補助魔法》の効果も大きいと思われます』
ギュース。
かつて若手の有望株と呼ばれていた天才補助魔法師。
「そのまま何もせずに死ぬつもりなら俺がトドメを刺してやろうか?」
「……俺にはお前の方が死にかけに見えるけどな」
「ハッ!やっぱり寝てるだけじゃねーか」
ちょっとは怪我人を労われよ。