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謁見も無事に終わり、私たちは宿屋の食堂で疲れていた。
……もとい、夕食を食べて、ぼーっとしていた。
そんな中、ジェラードが意気揚々と現れた。
「こんばんは♪
……みんな、疲れてるねぇ」
「「「……こんばんは」」」
「こりゃ重症だ。今日は謁見、お疲れ様!」
「甘く見てました。まさか、あんなに人がたくさんいるなんて……」
「今回は、いつになく人が多かったそうだよ?
アイナちゃんが出て行ったあとは、みんなすぐにいなくなったけど」
「へぇ、そうなんですか――
……って、何でそんなことを知ってるんですか!?」
私たちが出て行ったあとのことなんて、その場にいた人しか分からないよね?
テレビ中継があるわけでもあるまいし……。
「実は、僕も後ろの方にいたんだ♪」
「え、本当ですか? よく入れましたね……」
「ふふふ♪ 今回は兵士として紛れ込んでいたんだよ。
人手が足りていなかったから、お手伝いをしたのさ」
「いやいや……。
あんなところの兵士だなんて、普通は紛れ込めないでしょう……」
「そこはほら、責任者と酒場で仲良くなってね。
そのあと僕の剣の腕を見せたら、即採用だよ」
確かにジェラードのコミュニケーション能力と剣術があれば、それも出来るかもしれないけど――
「……いつもながら、凄いことをさらっとしますよね」
「1週間で、王様に謁見するアイナちゃんほどではないよ?」
「それは、ガルーナ村での活躍がありましたから……」
「それでも凄いことさ。
ところでルーク君とエミリアちゃんは、何でこんなに疲れてるの?」
「王族の中に顔見知りを見つけて、精神的にダメージを受けたようです。
……特にルークが」
「へぇ? ルーク君にも王族の顔見知りがいたんだ?」
「先日お話しした、武器屋の前で体当たりをして来た女性がいたんですよ……」
ルークは振り絞るように声を出した。
「ああ……。僕と一緒に出掛けたときは、残念ながら現れなかったんだよね。
それにしても、その女性って王族だったんだ?」
「はい……。
オティーリエ、という方だそうです」
「あー……、はいはい……」
名前を聞くと、ジェラードは何か納得したような感じで頷いた。
「ジェラードさんは、オティーリエさんを知っているんですか?」
「うん……。王族のことを広く調べているんだけどね、オティーリエさんはなかなか個性的な人だよ。
お転婆というか……いや、違うな。思い込みが激しいというか、価値観が普通と違うというか」
「それを聞くだけでも、厄介な感じがぷんぷんしてるんですけど」
「暇を見つけては街に出向いているらしいんだよね。
ルーク君も、そんなときに見初められたのかな?」
「見初めると、体当たりをしてくるんですか……?」
「それはまぁ、偶然を装って声を掛けたかったんじゃない?」
うーん……。
少女漫画でありそうなパターンだけど、どこの世界でもそんなものなのかなぁ……。
「……意外と乙女ですね」
「実際に、年頃の女の子だしね。
大聖堂に入って数年経つらしいけど、いつまで経っても性格は何も変わらない……っていう話もあったかな?」
「それは、エミリアさんの悩みの種にもなっていますね」
「え? あ、エミリアちゃんも大聖堂所属だもんね。
なるほど、それで振り回されてるって感じか……」
「……はっ!? アイナさん、閃きました。
ここはあれです、『性格変更ポーション』の出番ですよ!」
エミリアさんはがばっと起き上がり、必死な面持ちでそんなことを言った。
ミラエルツで作った『性格変更ポーション』。確かに性格を、ランダムながらに変えられることは出来るけど――
「いやぁ……。さすがに性格をこっちの都合で変えるのは抵抗が……。
悪人なら仕方ないかもしれませんが、そういうことには責任を持ちたくないので……」
「む、むぅ……。
冷静に考えるとそうですね……」
「何か罪を犯して、その贖罪に……ということであれば喜んで提供しますけどね。
個人的な好き嫌いで使うものでは無いかな、と……」
「アイナちゃんのその良心? は大切だと思うよ、うん。
お金儲けに走ってそんなものが量産されると、色々と混乱が起きるだろうしね」
「あはは、確かにそうですね」
私は基本的に、人畜無害なものしか作らないからね。
やろうと思えば、悪い薬やら強い毒やらも作れるはずなんだけど……そういうのには興味が無いし。
「でもさ、アイナちゃんも覚悟しておいた方が良いよ?」
「え?」
「王族や貴族の女性の間でさ、アイナちゃんの美容関係のアイテムが噂になっているんだ。
王様から工房をもらうことになったでしょ? 当然、オティーリエさんも来ると思うよ?」
「……げっ」
「分かります、その気持ち」
私の反応に、ルークが共感を込めて言ってきた。
まだ会ったことは無いけど、実際に会ってしまったら……ああ、嫌だなぁ。
「……王都、出ようか」
「ちょっ! いやいやアイナさん、さすがに早すぎますよ!?」
私のつぶやきに、エミリアさんが思い切り反応した。
「じょ、冗談ですよ……。
それに王都ではやることがたくさんあるんです。えぇっと、『循環の迷宮』に行くのと、あとは――」
私は頭の中で、やるべきことのリストから、今までに終わった項目を消していく。
「……あれ? あとはそれくらい?」
オリハルコンや神器関係を除くと、残っているのはそれくらいだ。
それ以外には水魔法の勉強や『安寧の魔石』集めとかもあるけど、王都である必要は特には無いし……。
「いつの間にか、結構終わっているものですね」
ルークがしみじみと言う。
今日で王都は9日目だけど、なかなか早くこなせるものだ。
「アイナさんはこれから、王都で『アイナのアトリエ』を開くという使命があるじゃないですか!
まだまだ残ってもらわないと!」
え? 何、そのゲームみたいな工房の名前。
「うーん……。クレントスで経験済みですけど、困ったちゃんが1人いると、色々とやりにくいんですよね……。
エミリアさんにも経験があると思いますが」
「まさに、現在進行中ですよ!」
「でも私たちと会う前は、普通に大聖堂で話したりしていたんですよね?」
「そうなんですけど、当時は我を殺して、明鏡止水の境地で接していましたから!
旅先でアイナさんたちと出会って、今は素の性格を出しすぎるのに慣れてしまいましたから!」
あぁー……。
確かにエミリアさん、最初に会ったときよりもお茶目な性格になったけど……。
そうか、ここまでオティーリエさんを拒絶するようになったのは、私たちの責任もあるのか……。
「それならもう、王都を出て私たちと旅をしましょうよ」
「ぐふっ。
それは大変に魅力的なご提案なのですが……!」
エミリアさんは、つらい表情を浮かべた。
……以前から信仰に人生を捧げたいって言ってたからね。
答えは分かりきっていたけど、悪いことを聞いてしまった。
「でもオティーリエさんをどうにかすれば――
……エミリアさんの心の平穏が訪れるというのであれば、解決しておきたいですね」
「ありがとうございます!
オティーリエ様に良い旦那様ができれば、もしかしたら落ち着いてくれるかもしれないのですが!」
「………………私は嫌ですからね」
ルークが小さく、しかし強い言葉で言った。
「ちが、違いますよルークさん!
別にルークさんとくっつけちゃえとかいう意味では……!」
「そういえば、オティーリエさんには婚約者はいないんですか?
レオノーラさんにはいましたよね?」
「元々はいらしゃったんですけど、3回ほど破談になってから、それっきりですね……」
……王族で、3件も破談になるなんてどれだけなんだ。
オティーリエさんとはいずれ私も会うことになってしまうんだろうけど、何だか今の時点で……絶対に会いたくないなぁ。