テラーノベル
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「よし、これで初期解析は完了だ」
塾の自習室のデスクで、忍がノートパソコンの画面をパチンと叩いた。長い髪が後ろにきゅっと結ばれた頭を小さく揺らしながら、瞳を輝かせている。
「若武。お前が浜田川の上流で見つけたっていう不審な通信のデータ、やっぱりただの電波障害じゃない。さっきも言ったけど、古い神道の祝詞をベースにした高度な暗号プログラムだよ。俺の実家がある鳥羽の古い神社でも、昔、似たような隠密用の記録が残ってたんだ」
「なんだと……!? 暗号プログラム…」
若武がデスクに両手を突き、髪を激しく揺らして声を張り上げる。
「どっかのスパイが情報交換をしているとかか…?! 」
「若武、まだ犯罪だと決まったわけじゃないだろ。そもそも外国のスパイがなぜわざわざ祝詞なんてめんどくさいもん使うんだ」
上杉くんが冷淡に、だけどどこか苛立った様子でレンズのない伊達眼鏡を押し上げた。彼の視線は、若武の資料を通り越して、時折部屋の隅にいる黒木くんに向けられている。
「でも忍、すごいね……。その暗号、解けそうなの?」
私が尋ねると、忍はニカッと男の子らしくガッツのある笑顔を見せた。
「任せろ!俺をナメるなよ。この手の古い伝承とネットが絡んだ事件なら、俺の得意分野だ。今夜中に完全に解決してやるからさ」
学校の女子たちが見たら気絶しそうなほどの、このカッコよさと天然なおっとりさのギャップ。私は感動しながら、ノートに忍の言葉を素早く書き留めていく。
「――ねえ、アーヤ」
ふいに、私の耳元で柔らかな風がそよいだ。
驚いて振り向くと、すぐ近くに翼の端正な顔があった。祖父がアメリカ人で祖母がフランス人という、グローバルな血筋を引く、息を呑むほど綺麗な私の「心の友」。
「翼、びっくりした……」
「ふふ、ごめんね。でも、アーヤ。さっきからノートを取る手が、ほんの少し震えてる」
私の心の中を完全に見透かすような瞳で私を見つめた。
「そんなこと、ないよ…?」
私が言い淀むと、翼はそっと私の手元に自分の手を重ねた。彼の指先は、少し硬くて、男の子らしい体温がある。
「俺に隠し事はなしだよ、心の友なんだから。……やっぱりさっきの黒木とのことが関係してる?」
翼の言葉に、私は胸が詰まりそうになった。
黒木くんが私にだけ明かした、自分の秘密。『俺はシャーレの中で生まれたんだ』という、あの冷たい告白。黒木くんが今も一人で抱え込んでいる、心の裏側にある歪み。
「違うの、翼。私はただ、若武の作戦が心配なだけで……」
私が必死に嘘をつくと、翼は少しだけ悲しそうな目で私を見つめ返した。
「そっか。……でも、俺はいつでもアーヤの隣にいるからね。誰にも、アーヤの心を傷つけさせたりしない」
「……やれやれ。みんな、ずいぶんと熱くなっているね」
少し離れた壁に背を預け、コーヒー缶を持った黒木くんが、いつもの優雅な笑みを浮かべて呟いた。
「浜田川の上流の土地を所有している地元の有力者に、俺の伝手がいくつかあるんだがお前たちに、そいつを共有しようか。」
一瞬だけ、目が合う。
黒木くんの瞳が、闇のように深く、どこか切なく揺れたのが分かった。
(黒木くん……。みんなには、あの孤独を隠して、そうやって笑っているのね……)
私は、ポケットの中で手をぎゅっと握りしめた。
上杉くんも、若武も、小塚くんも、翼も、忍も、みんな黒木くんを信頼している。けど、誰も黒木君のすべてを知らない。
その「秘密」のかたはしを二人だけで共有しているという事実が、私の心を締め付けると同時に、私の日常を、少しずつ彼の色へと染め上げていく。
「よし! 明日の土曜日の朝、浜田川の上流へ現地調査に向かうぞ! 集合は午前6時だ!」
若武の元気な号令が、談話室に響き渡った。
コメント
1件
ああっ第5話も最高だったよ〜!!😭💕 忍くんの「俺をナメるなよ!」ってガッツある笑顔、ギャップ萌えがすごい!そして翼くんの「心の友」発言と手を重ねるシーン…あれは反則級のエモさだよ…!!キュンが止まらん! でもやっぱり黒木くんの秘密、気になりすぎる〜!!みんなは知らないけど主人公だけが知ってるっていう二人だけの関係性、めっちゃ胸が苦しい🥺💔 若武の午前6時集合も相変わらずぶっ飛んでて笑ったw 続きが待ちきれないよ!!🌸
餡蜜
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