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いつも通りの朝を迎える。
いつも通り学校に向かう。
いつも通りの道、いつも通りの時間。
いつも通りのはずなのに、僕の胸は何か大切なことを忘れているような感覚に胸が締め付けられていた。
「おはよー」
僕が教室の扉を開けると、ニタニタした顔で僕を迎えてきたのは、木下だった。
この顔は分かってる。
「はぁ……また宿題やってこなかったのか?」
「正解! 昨日はゲームし過ぎちゃって……」
まあ、いつものことで、木下は英語が苦手で現実逃避にゲームを始めると止められない性格だった。
もう慣れたものだった。
「これ、授業までに書き写しなよ」
そう言って、僕は自分のノートを手渡した。
「おい! 新田! こっち来い!!」
大きな声で新田を呼ぶのは、このクラスで唯一ヤンキーポジションにいる荒井だった。
「な、なんだい……?」
「テメェ、俺との約束忘れてねぇよな?」
「わ、忘れてないよ……!」
しかし、おかしい……。
確かに新田はよくイジられてはいたが、僕と鶴見の仲介で過度な虐めはなくなっていたはずだ。
何やら約束をしているようだが、僕たちとの約束も荒井は忘れてないだろうな……?
僕は、「着いてこい!」と、荒井に着いていく新田の後を着いて行った。
辿り着いた先は、王道も王道の体育館裏だった。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
必死に謝る新田。土下座をさせる荒井。
「ちょっとちょっと……!」
僕はすかさず二人の前に現れた。
「なんだ? 大和……?」
「なんだじゃないだろ……? 荒井は、僕たちとの約束で新田へのイジメは控えるって……」
「は? お前と?」
「僕と鶴見だよ……! 忘れたの……?」
しかし、荒井の表情は変わらなかった。
本当に忘れてしまったのか……?
しかし、そこに一回り大きな背が現れた。
「なんか大和が変なこと言ってるぜ、鶴見」
「鶴見……!?」
そこに現れたのは、僕と仲の良い鶴見だった。
「大和、テメェ何邪魔してんだ?」
「ちょ、ちょっと待って……。一緒に止めたじゃんか! ど、どうしたんだよ鶴見……!」
「よくわかんねえけど……気安く呼んでんじゃねえよ!」
すると、鶴見は僕に向かって拳を突き出す。
「ちょっと!! 岩魔法 ブレイク!!」
ドゴ!!
大きな音で僕の頬は鶴見の拳に殴り倒された。
「お前、本当に何言ってんだ……?」
あれ……なんで僕……何言ってるんだろう……。
それより、鶴見が本当に殴ってきた……。
その後も、鶴見たちから数十分間と、僕は不気味悪がられながらも、ボロ雑巾になるまで蹴り続けられた。
「ごめんね……大和くん……僕のせいで……」
「いつつ……。まあ、痛いけど……鶴見からあんなことされたことの方が余程心が痛いな……」
と、僕は新田に微笑んだ。
新田は、少し涙ぐみながらも帰って行った。
その後も、あんなに気さくに話し掛けてくれたギャル群たちから金銭をせびられたり、僕が丁寧に育てていた花壇が無くなっていたり、僕と記憶違いが相次いだ。
「本当にどうなってるんだ……? まさか、今まで自分の都合のいい夢を見ていただけだったのかな……」
忘れてしまっているのは僕の方……。
あれ、これって記憶障害じゃないのか……?
「ヤマト」
帰路、不意に声を掛けられ、僕は振り向いた。
後ろには、背の高い水色の綺麗な髪の女性が立っていた。
水色の髪……外国の人かな……美人だな……。
「あれ……僕の名前を知ってる……? どこかで会ったことありましたか……!?」
や、やっぱり記憶障害を起こしてるのは僕!?
「ここが、大和ヤマトの記憶の世界」
「は……?」
その女性は、表情を変えずに近寄る。
「ヤマト、早く目覚めて」
「な、何を言って……。僕は今、目を覚ましてるし……」
女性は僕の目の前に立ち尽くす。
「ちょ、ちょっと……近くないです……」
その瞬間、僕は大きな剣で胸を貫かれた。
「ゴフッ……!」
大量に血が漏れ出し、口からも大量の出血。
なんで……何が起きてるんだ……?
「ヤマト、痛い?」
「そりゃあ痛いに……」
あれ……痛くない……。
そう言えば、あんなに殴られて蹴られても、別にそんなに痛いと感じなかったような気がする。
それに、こんな大きな剣に胸を突き刺されているのに、僕は平然と立っているし、こうして頭も回る。
「何これ……? これが夢……?」
「ちがう。現実。ヤマトは今、記憶の世界にいる」
「記憶の世界……?」
「この結界は私には解けない。ヤマト、キッカケは与えた。あとは自分で戻って来て」
「結界? キッカケ……? 何がなんだか……」
そして、大きな剣を抜かれる。
「さもないと、誰も守れない」
その言葉を聞いて、僕はまた胸が痛くなる。
そうだ……僕には守りたい人がいた……。
新田……もそうだけど、そうじゃない。
もっと……使命……。
使命……。
「僕の……使命……」
その時、一羽のカラスが僕の頭上を飛んだ。
漆黒の羽が、ヒラヒラと目の前に落ちる。
僕は、その羽を静かに捕まえる。
「あれ……この世界……何かおかしいぞ……」
漆黒の羽を見つめ、僕は念じた。
「こんな羽が僕の背から生えて飛べたら……」
ブゥン!!
「うわっ!!!」
その瞬間、僕の背からは漆黒の翼が生え、上空へと舞い上がった。
本当に夢の中……明晰夢か……!?
胸の傷は気付かぬ内に消え去っていた。
「あの雲は固い……!」
そのまま上昇し、雲目掛けて拳を突き出す。
「僕の拳はその雲を破壊する!!」
バゴン!! と、雲は物体のように壊れた。
凄い……全部が思い通りの夢だな……。
でも、胸が苦しい……やっぱり、さっきの鶴見は僕の悪夢が見せていただけなんだ……。
早く、夢から醒めないと……。
でも、いくら念じても夢から覚めはしない。
さっきの女性……守りたいもの……。
あの女性は一体……誰だったんだろう……。
そのまま、僕は様々なことを試したが、時間はドンドンと過ぎていき、翌日の朝を迎えていた。
「太陽光が……もう朝になるのか……」
その光に僕は目を細める。
「光……」
僕は、その眩しい光をその手に掴む。
「光が……掴める……」
そうだ、夢だもんな……思いのまま……。
ん……?
光は次第に、剣の形へと変わっていく。
「光剣……」
僕はその名前を知っていた。
何故だかは覚えていない……でも。
「アゲ……ル……?」
涙が勝手に溢れ、僕は一人の名前を囁いていた。
アゲル……アゲルって誰だ……。
これは……光剣だ。
その名前だけは、確かに分かるのに……。
あの憎たらしい顔が……言葉が……。
霞んで……。
「一人ででも逃げてください」
「アゲル!!」
そして、僕は長い夢から目を覚ました。
「あ、目覚めた」
「ホク……ト……?」
夢の中の女性は、ホクトだ。
どうして忘れてしまっていたんだろう……。
「やっぱり自分で解けた。封印」
「封印……?」
そうだ、僕はミカエルに会って、元の世界に戻されたのかと思ったけど、夢を見せられていたのか……。
「そうだ、早くみんなを助けないと……!」
「他の人たちはもう天使族の城に向かった」
「そ、そうか……。じゃあ急がないと……」
「その必要はないみたい」
ホクトの目を向けた先には、ニヤニヤと笑う悪魔ルインの姿があった。
「アハハ、分断してくれてて助かった〜」
「悪魔……ルイン……!」
ホクトも大剣を翻して臨戦態勢に入っていた。
「最後の核を、捕まえに来たよ〜!」
核……?
何を言っているんだ……?
でも、そんなことより……。
「ルイン! 三人を返せ!!」
「出来るわけないだろ! 全員 “核” なんだから!」
核……?
だからその “核” ってなんなんだ……!
僕は夢の中で手にした光剣を構え、ルインと相対した。