ある夜、彼女は遅くなったなと走って駅に向かっていた。
が、手前の店から数人出て来た。
みんなマスクして顔がわからなかったけれど、美咲には分かった。
その中に「渡辺翔太」がいた。
渡辺がタクシーを拾う。
美咲も後ろから来たタクシーに乗る。
あるマンション前でタクシーは停まる。
美咲は、少し離れてタクシーを止めて中で携帯を取り出しマンションの入り口に入って行く渡辺を撮った。
嬉しい!
住んでるところが分かった。
それから美咲は、時間を作っては渡辺のマンションに向かう。
出会うことなどないが、ここに住んでるってだけで嬉しい。
もう彼氏どころではない。
慎一が冗談で「別れるか」と言えば「いいよ」と言う。
彼氏のことなど、どうでもいい。
自分には「渡辺翔太」がいるのだから。
最近ますます綺麗になった。
Blu-rayでコンサートの様子を観る。
格好良さにクラクラする。
ラジオも聴き逃さない。
笑い声が好き。
何でも好き。
会社への出勤ルートを変更した。
バイクの免許は持っていたのでブルーのバイクを買った。
それで、マンションの前を通りながら出勤する。
バイクで出勤しているが、一旦マンションの近くで止まり、様子を伺う。
出て来そうじゃなければ、そうそうに立ち去る。
2度ほど、移動車と思われる車が入って行った。
後を追いかけるが、排気量の関係で見失う。
慎一ーまだ、追っかけしてるのか?
美咲ーあんたに関係ないでしょ!
慎一ー芸能人なんか、やめとけ。
美咲ーもう、貴方とは別れたんだから口出ししないで。
優しかった彼女がピシャリと言う。みんな、あの男のせいだ。
慎一は「渡辺翔太」を恨むようになった。