テラーノベル
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天気が良い穏やかな日だった。
シャルは午前から元気にはしゃいで疲れて昼寝をして、ヒナオさんもシャルに付き添っていたために、一緒に寝てしまったみたいだ。ハクリはどのくらい力が戻っているか柴さんと確認している。
俺は、なまった体を少しでも動かそうと、ヒナオさんに頼まれた買い物を済ませ、街を散歩していた。
街は心賑やかで栄えている。人々の笑い声や楽し気な声であふれている。
怒涛だった楽座市を終えたばかりだ。少しは息抜きもいいかもしれない。穏やかな風を感じながら歩いていた。
「傷は癒えたか、六平千鉱」
突然背後に現れた低い声。怒りと増悪が駆け巡る。怨敵の声を聴いたチヒロは、いつでも淵天を抜けるように姿を確認しながら振り向いた。
「…何しに来た」
「麗しい金魚が見えたからな。なに、少し話さないか」
「あんたと話すことはなにもない」
「そうか…それならここを戦場にしようか。連絡もしてもいいが、同じことになるがな」
初めから拒否権なんてないものじゃなか。ここにいる何も知らない一般人を巻き込みたくはない。柴さんなら一瞬で来てくれるだろうが、その前に血の海になる。未知数相手に病み上がりの体で闘うには実力が伴ってない。怒りと増悪に支配されても遊ばれるだけだろう。悔しいが、睨みながら淵天から手を離すしかない。
「やはり、頼もしい理性だな」
俺の行動をわかっていたようなに満足そうな笑みを浮かべ
「六平千鉱。俺とデートをしよう」
「……は?」
思いもよらない言葉に俺の脳内に宇宙がまったのは仕方がないと思う
どうしてこうなった。
確かに今日は息抜きにちょうどいい穏やか日だ。
だが、目の前には憎き相手。それもデートをしようと言う。正気なのかと斜め前を歩く男に目で訴えながらも千鉱は困惑していた。本当にどうしてこうなった…?
自分では行かない、いかにも御用達な店構えの老舗甘味屋に連れていかれる。思わず繋がりがある店かと疑ったが、一般人もいて見たところ目ぼしいところはない。品のある店内に、これまた縁がなさそうな黒い2人。しかも、個人的な復讐相手。
質の良い器に入った抹茶と羊羹が添えられる。奴が先に口につける。因縁相手故に人間じみてないからか、こいつも食べるんだなとどこか頭の隅にふと思う。
「どうした千鉱。食べないのか」
「…あんたと食べるつもりはない」
「つれないな。ここを真っ赤に染め上げても良いが…」
「ワザと言っているだろう」
「ワザとかどうかはお前次第だが?」
「………」
しぶしぶ、本当にしぶしぶ菓子切を羊羹にさす。
口に入れた瞬間、上品な風味と甘さが口に広がる。程よい苦味のある抹茶も羊羹をひきたて、風味が良い。
(美味しい…)
思わず緩みそうな頬を引き締めながら食べる。
「口にあったか」
「…悪くない」
「そうか」
笑みを携えた視線を無視しながら、味わう。
奴の視線がなければ、より美味しかったのにと独り言ちる。そもそもコイツがいなければもっと美味しかったとも独り言ちる。
「楽座市は見事だった」
「…」
「命滅契約がどう転ぶか知れたしな」
「…だから楽座市に出したのか」
「そうだ。楽座市はそのための実験台だ」
「卑劣だな」
「殺したくなったか」
「ああ。憎たらしい程とても」
「その日を楽しみにしてよう」
「次はどこに行きたい」
「勝手に決めろ。拒否権はないんだろ」
「まぁ、そうだな」
わかりきった言葉を投げかけられ、来たのはプラネタリウムだった。明るい時間に見る星も乙なものだといって連れられた。
偽物とはいえ、星を見るのなんていつぶりだろう。
失われた思い出の家は、人里少ない場所に隠されていたからよく星が見えた。時折、星々を眺めながら父さんと話していたのを思い出す。それを壊した男と来ているのは皮肉だろうか…
「楽しかったか」
「お前と一緒じゃなければ楽しめた」
「そうか。俺は楽しかったけどな」
気色悪いことを言うなと思った瞬間、距離を詰められた。奴の表情の読めない顔が目の前にある。反応に追いつけず、後ずさりをしたが
「…!!」
耳に手をあてられ痛みがはしる。と同時に、重い?
何かをつけられた?ピアス?
「うむ。やはりお前には赫が似合うな」
取ろうとしたが、耳に添えられている手が動かない。抵抗しようにも楽しそうに歪めるだけだ。
「お前…!」
「今日は楽しかった。またデートしよう六平千鉱」
そう言って抵抗していた手を逆手に取られ、手にやわらかい感触が乗る。その感触に痛みを忘れて呆然としている合間に焔があがり消えていった。
残された千鉱の耳には血の着いた真紅な宝石がついていた。
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