テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
──そして、季節がまたひとつ巡り──6ヶ月目。
夜。
リビングの灯りは静かに揺れていて、すかーはソファで丸くなって寝息を立てていた。
その隣。
夢魔はひとり、寝室のドアの前に座ったまま、かすれた声で、また他愛もない話を続けていた。
「……でさ、ネグ。
あいつ、前はカップ麺ばっか食ってたのにさ。最近見ねぇなって思ったら……。
……ふ……くだらねぇな……」
ぼそぼそと話しながら、目を伏せる。
その瞬間だった。
──カチャ。
静かな、でも間違いなく鍵の外れる音。
夢魔は、ハッとして顔を上げた。
ドアが少しだけ開いて。
その隙間から――
ネグリュシカが、ゆっくりと顔を出した。
寝癖がついたままの髪。
目元には少しだけ影があるけれど、そこにははっきりと、ちゃんとした表情があった。
それは、申し訳なさそうな顔。
少しだけ笑って、困ったように眉を下げて。
「……夢魔」
その声が、小さく。
それだけで、夢魔の肩はほんの少し震えた。
「……ネグ」
気づいたら、夢魔はネグを強く抱きしめていた。
何も言わずに。
ただ、ただ。
「……ごめんね……無理させたね……」
ネグが、かすれた声でそう呟いた。
夢魔はその時、何も返せなかった。
声が詰まって、言葉にならなくて。
ただ、ネグの背中を何度も何度も撫でた。
•
その夜。
ネグは夢魔のそばから、ずっと離れなかった。
夢魔が眠るまで、静かに手を繋いだまま。
指を絡めて、あたたかさを確かめるように。
「……おやすみ、夢魔……」
小さな声でそう言って。
•
そして次の日の朝。
夢魔とすかーは、いつものように、寝室の前で座り込んでいた。
「それでな、夢魔。こないだ……」
すかーが何でもない話をしていた、その時。
──バンッ!
「いった!!」
寝室の中から、ネグの声が聞こえた。
すかーも夢魔も、同時にピクリと顔を上げる。
中で何かぶつかったのか、ネグの声が続く。
「いった……え、なんでここに?バカバカ……痛すぎ……!
久しぶりにぶつけた、ほんとに痛い……笑」
その声は、何よりも確かで。
ちゃんと生きている。
ちゃんと、今ここにいる。
すかーは苦笑しながら、夢魔に目を向けた。
「……ネグ、やっぱりアホやな。」
夢魔も、目元を緩める。
「……ああ。」
しばらくそのまま待っていると、寝室のドアがゆっくりと開いた。
ネグが、額に手を当てたまま、少しだけ顔を出す。
「……あー、おはよ?」
その一言で、2人はもう我慢できなかった。
すぐに立ち上がって、同時にネグを抱きしめる。
「うわ、ちょ……苦しいって……!」
ネグはそう言いながらも、振りほどこうとはしなかった。
「……もう、ほんま……!アホや……!」
すかーがぼそりと呟く。
夢魔も何も言わずに、ただ抱きしめたまま、肩を震わせた。
しばらくそんな状態が続いたあと、ネグは小さく息を吐いて。
「……落ち着いた?」
そう言って、2人の背中をぽんぽんと軽く叩いた。
最初は少しだけ会話をしていたけれど。
そのうち――
すかーと夢魔は、ネグの膝に頭を預けるようにして、そのまま力尽きたみたいに眠ってしまった。
「……あぁ……」
ネグは困ったように微笑んで。
「……ほんと、しょうがないな……」
そう言いながらも、2人の髪を優しく撫でた。
そして。
また2人が目を覚ますまで。
今度は、ネグが離れないように。
ずっと、そばにいた。