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──その朝は、どこか柔らかい空気が流れていた。6ヶ月ぶりの日常の気配。
ネグ――佐藤は、眠る二人の頭を軽く撫でたあと、静かに立ち上がった。
まだ、外は薄暗い。
けれど、その薄暗さすら心地よく思えるくらいの静けさだった。
「……食べれそうなもの、か……」
キッチンへ向かう足取りは、ゆっくりと。
冷蔵庫を開けると、長い間手つかずだった食材がいくつか眠っていた。
それでも、使えそうなものを選んで――
ほんの少しの味噌汁と、温かいお粥。
ふわっとした卵焼き。
何も特別じゃない、けれど体に優しいものばかり。
「……これでいいかな」
小さく呟いて、準備を終える。
そしてリビングに戻り、ソファに座ったまま。
目を閉じて、静かに呼吸を整えた。
•
それから、少し経って。
夢魔とすかーが、ゆっくりと目を覚ました。
最初はまだぼんやりとした顔だったけれど、
ネグの姿を見つけた瞬間、すぐに目の色が変わった。
「……ネグ……」
「ん、おはよ」
ネグは眠たげな声で、それでも柔らかく笑って、二人を抱きしめた。
その温かさに、夢魔とすかーも自然と力が抜けて、ふにゃっと笑った。
「おはよ……」
「おはよ、ネグ……」
二人の声が重なる。
ネグは、優しく頭を撫でながら囁いた。
「……ご飯食べたら、起こして……」
それだけを残して、また静かに目を閉じた。
•
「……行こか」
すかーがぼそりと言い、夢魔と二人でキッチンへ向かう。
そこには、ちゃんと準備された温かいご飯があった。
お粥、卵焼き、味噌汁。
「……ほんま……ネグ……」
すかーは目を伏せ、
夢魔も何も言わずに箸を手に取る。
一口、食べた瞬間――
「……あ……」
じわり、と。
自然と、涙がこぼれていた。
しみるような、優しい味。
ちゃんとした、ご飯の味。
「……美味い……」
夢魔が、かすれた声でそう呟いた。
それから二人は、黙って最後までゆっくりと食べた。
•
食べ終わって。
「……起こそか」
すかーが言い、二人でそっとネグのそばへ戻る。
けれど。
「……少しだけ……」
夢魔が、小さな声で。
「触りてぇ……」
そっとネグの頭に手を乗せた。
優しく、ゆっくりと撫でる。
その柔らかさ、あたたかさ。
生きている。
ちゃんと、ここにいる。
「……ほんま……良かった……」
すかーも、ネグの頬に手を添えて、軽く撫でた。
「ネグ……あったかいな……」
そのまま、少しだけ。
二人は無言で、ネグのぬくもりを確かめるように触れていた。
•
やがて、ネグが静かに目を開けた。
「……ふふ……おはよぉ……」
かすれた声で、けれど笑ってそう言う。
そして、夢魔とすかーの頬に、それぞれそっとキスを落とした。
「おはよぉ……」
その声だけで、二人は自然と微笑んだ。
ネグはゆっくりと手を伸ばし、二人の頭を優しく撫でる。
「可愛いね……」
「……ネグ」
「偉いね……優しいね……」
ネグは何度も、ゆっくりと言葉を重ねた。
夢魔もすかーも、何も言わずにただその言葉を受け止めていた。
それが、どれほど欲しかったか。
どれほど求めていたか。
胸の奥まで、響くように。
•
「……少しだけ、寝よ?」
ネグが、二人を見つめて優しくそう言った。
そのまま、寝室へ。
二人をベッドに寝かせ、ネグはそばから離れないようにして。
二人が完全に眠るまで、静かに頭を撫で続けた。
「……おやすみ……」
•
そして。
二人が眠ったあと。
ネグは静かに立ち上がり、リビングへ。
ゴミをまとめて、掃除機をかけて。
キッチンも片づけ、テーブルも綺麗に拭き上げた。
誰も見ていないその静かな時間。
けれど、それでも。
「……ふぅ……」
全部終わったあと。
ネグは、また寝室へ戻り。
眠る二人のそばに座り込む。
そして。
夢魔の頭を、すかーの頭を、順番に優しく撫でた。
「……偉いね……」
もう一度だけ、そう囁いた。