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朝。
「……ん」
キヨが目を覚ます。
見慣れてきた天井。
隣じゃなくて——ソファ。
(……あれ)
ぼんやりした頭で状況を思い出す。
昨日、そのままソファで寝て——
「……うっしー?」
少しだけ体を起こす。
「起きた?」
キッチンから声が返ってくる。
「……なにしてんの」
「飯」
「……えら」
「だろ」
軽い返し。
それだけで、なんか安心する。
⸻
「はい」
テーブルに置かれた簡単な朝ごはん。
「食えそう?」
「……ちょっとなら」
座って、ゆっくり口に運ぶ。
昨日より、体は楽だった。
「……普通にうまい」
「普通で悪かったな」
「褒めてんの」
小さく笑う。
こういうやり取りが、もう当たり前みたいになってる。
⸻
「……今日どうする」
うっしーが聞く。
「んー……」
キヨは少し考えて、
「特にない」
「じゃあ休めば」
「……ここで?」
「どこ行く気なんだよ」
「……ないけど」
そのまま、少し黙る。
「……いていいの」
また聞く。
でも今回は、昨日より軽いトーン。
「だからいいって」
即答。
「てかもう前提でいいだろ」
「……前提ってなに」
「キヨがここいるの」
「……」
当たり前みたいに言われて、言葉が詰まる。
「……ほんとにいいの」
「しつこい」
「だって」
「いいって言ってんだろ」
少しだけ強め。
でも、怒ってるわけじゃない。
「……」
キヨは少しだけ俯いて、
「……ありがと」
小さく言う。
⸻
午前中。
特に何をするでもなく、部屋で過ごす。
テレビつけて、ぼーっとして。
時々、他愛もない会話して。
それだけなのに。
(……楽)
信じられないくらい、心が軽い。
⸻
「……うっしー」
「ん?」
「仕事とかないの」
「今日は休み」
「……タイミングよすぎ」
「ほんとそれ」
少し笑う。
「でもまあ、今はそっち優先でいいかなって」
「……は?」
思わず見る。
「何それ」
「何って」
「俺優先ってこと?」
「そうなるな」
さらっと言う。
「……バカじゃん」
「知ってる」
軽く返される。
でも、その言葉は軽くなかった。
⸻
「……ねえ」
「なに」
「なんでそこまでしてくれんの」
少し真面目な声。
さすがに気になる。
「……んー」
うっしーが少しだけ考える。
「なんでだろ」
「は?」
「最初はほんとに放っとけなかっただけだけど」
「……うん」
「今は」
少しだけ、言葉を選ぶ。
「……一人にしたくないから」
「……」
心臓が、どくんって鳴る。
「それだけ」
それだけ、なのに。
やけに重い。
⸻
「……それさ」
キヨが、少しだけ視線をそらす。
「ん?」
「誰にでもやってんの」
「やらねえよ」
即答だった。
「こんなんキヨだけ」
「……」
一瞬、息が止まる。
「……なにそれ」
「そのまんま」
「……」
言葉が出てこない。
(……やば)
これ以上踏み込んだら、戻れない気がする。
⸻
「……ねえ」
「ん?」
キヨが、少しだけ近づく。
ソファの距離が、自然に縮まる。
「……ほんとにさ」
「うん」
「俺、ここにいていいの」
また同じ質問。
でも今度は、少しだけ違う意味。
「いいよ」
変わらない答え。
「……ずっとでも?」
少しだけ、踏み込む。
一瞬、空気が止まる。
でも。
「……いいけど」
うっしーは、普通に言った。
「え」
「別に困んないし」
「……」
「むしろ、その方が安心」
ぽつりと付け足す。
「……は?」
「いや、キヨ放っとくと無理するだろ」
「……」
図星すぎる。
「だから目届くとこの方がいい」
「……なにそれ」
「俺が安心する」
さらっと言う。
⸻
その一言で。
キヨの中の何かが、完全に変わる。
(……ああ)
これ、もう。
「……逃げらんないじゃん」
小さく呟く。
「逃げる気あんの?」
「……ない」
即答だった。
自分でもびっくりするくらい。
⸻
「……じゃあいいじゃん」
うっしーが軽く言う。
「……うん」
そのまま、少しだけ距離が近づく。
肩が触れる。
でも、もう離れない。
⸻
「……うっしー」
「ん?」
「俺さ」
少しだけ声が小さくなる。
「たぶん、もう一人無理」
「うん」
「……離れたくない」
正直すぎる言葉。
でも、もう隠せなかった。
「……」
少しだけ沈黙。
でも。
「知ってる」
うっしーは、静かに言った。
「……は?」
「最初からそんな顔してた」
「……うるさい」
少しだけムキになる。
でも、否定できない。
⸻
「……俺もさ」
うっしーが、ぽつりと続ける。
「ん?」
「もう今さら一人に戻るの無理かも」
「……」
一瞬、思考が止まる。
「なにそれ」
「そのまんま」
少しだけ笑う。
でも。
その目は、ちゃんと本気だった。
⸻
気づけば。
キヨの手が、うっしーの服を掴んでいた。
無意識に。
「……ほんとだめだな、俺」
小さく呟く。
「いいじゃん別に」
「よくない」
「なんで」
「……依存じゃん」
はっきり言う。
でも。
「そうだね」
うっしーは否定しなかった。
「でも」
少しだけ間を置いて、
「それでキヨが楽なら、今はそれでよくない?」
「……」
また、それ。
優しすぎる答え。
「……ずる」
「なにが」
「そういうとこ」
小さく笑う。
でも、目は少しだけ潤んでた。
⸻
その日から。
キヨは、完全にこの部屋に居つくようになった。
そして。
“二人でいるのが当たり前”になり始めていた。
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