ハンスは恐る恐るといった様子で私の手を取った
「………スミレなのか?」
「…うん」
私は軽く手を握り返す
「あ……ああ………」
目と目が合った瞬間、ハンスは私を抱き締めてきた
同じように私も抱き締め返す
「良かった……本当に良かった……!!……」
…暖かい
…大丈夫、 生きてる
絶対に守るから…
私達は互いに起きたことを説明し合った
ただ、言った所でハンスを無駄に心配させるだけだと思い、一度助けられなかったことは隠しておいた
「そうか…本当に生きていてくれてよかった…
俺はあの時もう…」
そこまで言ったところでハンスは口元を抑え、その場でしゃがみ込んだ
私は出来るだけ優しく背中をさすって
「大丈夫。大丈夫だから…
私はここで生きてるから……」
ハンスの耳を心臓部へ押し当てる
…そうすれば少し落ち着いたようで、身体を預けてくれた
「………ありがとう」
ハンスに作業指示が入り、私がついて行ってる最中
『管理人!F-01-87《知恵を欲する案山子》が脱走しました!』
「!!」
(F-01-87は福祉チームのはず…
ここから大分距離があるから大丈夫)
2回目ということもあり、このL社の仕組みは殆ど理解した
これがハンスの助けとなるならば良いだろう…その考えのみでアブノーマリティの収容室の位置、性質、危険性、その全てを出来るだけ記憶してきた
ハンスが向かう収容室は『O-02-56《罰鳥》』
先に何をされても攻撃はするなと説明だけしておいた為、事故は起こらな…
『管理人!O-02-40《大鳥》が脱走しました!』
廊下の電気が消える
「「!!!」」
(O-02-40…
コントロールチーム!!)
目の前の収容室から巨大な黒い鳥がのそのそと出てきた
その手にはランタンが握られており、幾つもの山吹色の目は暗闇の中で異彩を放っている
「っスミ…」
私は即座に『ジャスティティア』でO-02-40に斬りかかった
「逃げて!!」
「…!!!」
すでにO-02-40の情報もよく目を通したため、『魅了』についてはよく分かっている
もし仮にハンスが魅了されていたとすれば首を噛み千切られてしまう
部門外まで逃げれば魅了は解除されるはず…
暗くてハンスの顔は見えないが、この言葉が届いているなら…
タッタッタッ
(足音が離…近づいてくる?)
彼が離れてくれることを祈り、ジャスティティアでO-02-40を斬りつけていると、私の横を誰かが走り抜けてきた
その誰かはO-02-40に飛びつき、その目へ警棒を突き刺した
その人は…
「……ハンス?!…なんで……」
紛れもなくハンスだった
まずい、O-02-40が脱走してから何秒経った…?
もしハンスが魅了されていたら…
(……いやだ)
どうする
どうしよう
どうすれば
「…っ#“@+※───!!!」
言葉を、言葉にも成らないような叫びを出した
それでも…それでもハンスは止まらず、O-02-40に警棒を突き刺し続けている
…ハンスがO-02-40に食い千切られる前に私が鎮圧する
これしかないと直感で判断した
全力で切り裂き続けた
「倒れろ……!!もう、動かないで…!!!」
そう言葉にしながら一撃一撃に力を込め、切り裂き続けた
(あと何秒…?
30秒…?20秒…?10秒…?
それとも………
………っ!!!)
次の瞬間、彼が殺されるかもしれない
私はそれに耐えきれず、彼の首根っこを摑み、後ろへ投げ飛ばした
ドゴンと鈍い音が鳴った
それでも致命傷にはならないだろう
現に彼はすぐ叫び始めた
「っスミレ!!!」
「早く!!!」
今からでも全力で逃げれば間に合うかもしれない
少なくとも、今の状況よりよっぽどマシだろう
「早く……早く逃げて………」
そう言った直後、ドクンと心臓が跳ねる
直ぐに思考が塗り潰される
「……ぁ」
そうか、魅了されたのは……ハンスじゃなくて………
私か
目の前の巨大な黒い鳥が、まるで救世主のように見えてしまう
目の前で大きな口が開かれる
後ろでハンスが何かを叫んでいる
あぁ…
「………ごめんね 」
私は、守れたのかな
───グチャ
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