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地雷さんはご遠慮ください。
※ご本人様とは関係ありません。
-翠said-
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キーン、コーン、カーン、コーン…
チャイムが鳴る。授業の終わりを告げる音。
けれど俺にとって、それは“始まり”を知らせる合図だった。
古典の先生が教室を出たと同時に、立ち上がるひとりの生徒。
一歩一歩、俺に近づいてくる。
授業が終わっても座ったままの俺は、じりじりと近づいてくるのをただ待つことしかできない。
気配が背後に迫ったと思った瞬間、後ろ髪を乱暴に引っ張られ、体ごと机から引きずり出された。
ドスッッッ、、
乾いた笑いとともに、拳が腹にめり込む。
翠「、ッう……!」
息が詰まり、膝から床に崩れ落ちる。
ゴフッッ、ドグッッ、、、
翠「、ッグ、、ヴッ、」
すぐに蹴りが飛んでくる。脇腹、背中、足。
痛みに呻くたび、周りの視線が冷たく突き刺さった。
けれど誰も助けない。
黄「立って」
みことの声が冷たく響く。その声は重く身体に響いた。
立てるはずがない。膝が震え、床に手をついたまま動けなかった。
次の瞬間、みことは俺を床に押し倒し、そのまま馬乗りになった。
黄「なぁ、すちくん」
黄「すちくんってさ……殴られてる時が一番“人間”っぽいよ」
翠「みこ……ちゃ……っッグ、」
左手で俺の首を押さえつける。息が苦しい。
みことの顔を見上げると、冷めきった目で俺を見下ろしていた。
右手で俺のブレザーの胸ポケットを漁る。
一本のシャーペンを抜き取り、握り直した。
俺がいつも授業で使っている0.3のシャーペン。
嫌な予感がした。俺は恐怖で首を振る。
翠「ッッやめ、、、っ、」
その銀色の先端が、視界の中心に光る。
振り上げられた腕。
翠「……ッッッ、、、!」
声にならない悲鳴が喉に詰まる。
絶望。
全てが覆い尽くされる感覚になる。
視界が滲む。シャーペンの先端が滲んではっきり見えない。
次第に急降下する。
全てがスローモーションになった。
天井の蛍光灯が、にじんで揺れて見える。
もう、終わりだ________
だが______
先端が俺の顔に到達することはなかった。
翠「、ッハァ、ッハァ、、」
恐怖と緊張で過呼吸になる。
シャーペンは目のすぐ上で止まっていた。
みことは面倒そうに吐き捨てた。
黄「……飽きた」
そう呟くと、俺の首を押さえつけていた手を離し、立ち上がる。
そのまま教室を出ていくと、他の奴らもみことに続いて出ていった。
周囲の視線が一斉に逸れ、再び何事もなかったかのように空気が流れ出す。
床に横たわったまま、俺は必死に息を吸った。
震える手が止まらない。
誰も近寄ってこない。
誰も声をかけない。
チャイムの余韻だけが、いつまでも耳の奥で鳴り続けていた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
長い1日が終わり校門を出ると、すでに空は橙色に染まっていた。
家路へと歩き出した俺の歩幅は、自然と小さくなる。足を速める理由もなければ、帰りたい場所があるわけでもなかった。
背中にかすかな気配を感じて、振り返る。
少し離れた場所に、同じクラスのらんが歩いていた。
彼は俺を見つけると、小走りで追いついてきた。
桃「すち、、、」
桃「……大丈夫、?」
言葉に込められた声音は、優しさそのものだった。
けれど俺の胸の奥には、ぐるぐると渦巻く何かがあった。
なんて無責任な言葉なんだろう。
空気みたいに俺を扱ってたくせに……
心の中でそう吐き捨てながらも、俺は表情に出さないよう、作り笑いを浮かべた。
翠「大丈夫……慣れてるから」
自分でも驚くほど、声は軽かった。
けれど、その笑みは自分で分かるくらい歪んでいて、きっと彼の目には不自然に映っただろう。
らんは何か言いかけて、けれど口をつぐんだ。
夕焼けに染まる彼の横顔には、迷いが浮かんでいた。
沈黙が流れる。靴音だけがアスファルトに響く。
俺の心臓の鼓動は、先ほどまで殴られていたときよりも、なぜか速くなっていた。