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わたしと専務のナイショの話

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わたしと専務のナイショの話

29 - イチコロなハートマークが入れられません5

♥

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2024年09月23日

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金色の専務室のプレートを見ながら、専務ももう居ないみたいだな、とのぞみは思った。


そして、専務室の横の秘書室に入り、金庫を確認する祐人は、まったくいつも通りに見えた。


「よし、ちゃんと鍵、かかってるな」


じゃあ、来なくてよかったんじゃないですかね?

という言葉をのぞみは吞み込んだ。


確認するということが大事なのだろう。

祐人は専務室の鍵も一応確認していた。


「専務もちゃんと鍵をかけて帰られたようだ。


残念だ。

一回あのふかふかの椅子に座って、地上に居る奴らを見下ろしてみたかったのに


――とか思ってないからな」


だから、仕事中と変わらない顔で言うのやめて欲しいんですが、リアクションに困るんで……と思うのぞみに、祐人が言ってくる。


「お前も座ってみたいか、坂下」


「いえ、結構です」

と言うと、この冷静な酔っ払いは、


「そうだな。

お前はいつも、専務室の椅子に座っておられる専務の膝の上に、座ってやがるんだろうからな」

と言ってきた。


「乗ってません……」

「お前、そもそも、あれから専務とはどうなってるんだ?」


いや、真面目に訊いてるんだ、と祐人は言ってくる。


「秘書ってのは、仕えてる人間のそういうことも把握しておかないと、いろいろとボロが出たら困るからな。


例えば、常務を専務室に通したとき、専務はお前といちゃいちゃしてましたとか、洒落にならんだろうが。


専務が新入社員に早速、目をつけて、手篭てごめにしてるとか敵につかまれたらまずいだろ?」


「いや……、手篭めにはされてません」


なにっ? 付き合ってるんじゃないのかっ?

と祐人は言ってくる。


「付き合ってませ……

あ~、よくわかりません」

とのぞみは白状する。


「私、恋愛とかしたことないし。

誰とも付き合ったことないので、わからないです」


今のこの状態がつきあっている、と言われる状態なのか、どうなのか、と思っていると、祐人が、


「お前はいちいち考え込んで出遅れそうだな」

と言ってきた。


「はあ、まあ、そうかもしれません……」


メールの返信さえ上手くできない。


高校生か、と自分で思っていると、

「お前も万美子くらい考えずに動いてみろよ」

と言われる。


いや~、永井さんはあれはあれでいろいろ考えてますよ、と思いながら、


「自分が専務のこと、好きかどうかもよくわからないんですよね。

好きとか思う前に、ガンガン話が進んでっちゃって。


なんだか自信がないんです」

と言うと、


「じゃあ、付き合うのやめたらどうだ」

とあっさり言われてしまったが。


でも、とのぞみは赤くなる。


「でも、もう」


もう? と促され、


「専務とキスとかしてしまいましたし」

と酔った弾みで言ってしまった。


「そんなおおごとみたいに」

と祐人は、ふっと笑う。


「キスなんて、たいしたもんじゃないぞ」


こうだろ、と言った祐人に壁に押し付けられ、口を塞がれる。


ひーっ。


「もうちょっと先までやっとくか?

そしたら、専務とやるとき、迷うことなく、スムーズに行くだろう」


「結構ですーっ」


この酔っ払いーっ、と思いながら叫ぶと、祐人はちょっとやさしげな顔になって笑い、ぽんぽん、とのぞみの頭を叩いてきた。


「今、専務の方が好きだと思ったろ?」


……え。


っていうか、笑ってる。


笑ってるな……。


それをわからせるために今、したのかな?


ありがたいような、いや、被害甚大なんだが、私的に。


今まで、専務としかしたことなかったのに……。


「し、失礼します」

と慌てて先に出て行こうとすると、祐人に腕をつかまれる。


「待て、ひとりで帰る気か。

危ないだろうが」


いや、貴方が危ないです。


「お前になにかあったら、専務に申し訳立たんだろうが」


いや、貴方が後ろから袈裟懸けに斬り殺されてください。


「なんで早足なんだ?

なにか怒ってるのか?」


「他の人を好きな人に、そういうことされたくありませんっ」

とエレベーターの前で振り返り言うと、祐人は、ケロッとして、


「じゃあ、お前を好きならいいのか?」

と言ってきた。


「待ってろ。

今から、好きになるから」

と言って、祐人は、のぞみを見つめる。


しばらくして、言ってきた。


「……うん。

なにかお前のいいところを言ってみろ」


「ありません……」


酔ってようが、酔ってなかろうが失敬な人だ、と思いながら、下に降りる。


今度は、エジプトの壁画にはならずにロビーを歩き、警備員さんに、用事は済んだと報告した。


警備員の佐野村さん。

この人、すごくシャキシャキ挨拶して、好青年な感じなんですが、これ、酔ってるんですよ。


いつもより、むしろ爽やかですよ。


突然、オオカミになることを除けば……、と心の中で思いながらも言わなかった。


会社を出たのぞみは、女の子が、異人さんや、いいジイさんや、ひいジイさんに連れられていってしまう祐人の唄を聞きながら、夜道を歩く。


「うーん。

ニンジンさんに連れていかれるのは、何番だったっかな?」


いや、いいジイさんが二番、ニンジンさんが三番とかじゃないですよ。


女の子は何処に連れ去られようとしてるんですか、と思うのぞみに祐人が訊いてくる。


「もっと、違う歌詞のがあったよな。

なんだっけな? のぞみ」


ひーっ。

名前で呼ばないでくださいーっ、と明るいカラオケボックスの光を見ながらのぞみは心の中で絶叫していた。


店の前では、万美子が待っていた。


「お帰り」

と言う。


二人で出て行ったので、心配して待っていたようだ。


「おお、万美子。

今日も綺麗だな」

と祐人が笑って肩を叩く。


表情の険しかった万美子が照れたように笑い、

「なに言ってんの」

と言う。


そのまま二人で入っていった。


少し遅れてついて行っていると、

「ついて来てるか、子分っ」

と振り返った祐人が言い、その色気のないやりとりに万美子が安心したように笑っていた。




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