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「あ、いや、いいんだ」
ここは樹の部屋。
長身で、オシャレでイケメンの樹がいるのは当たり前のこと。なのに、今、樹が目の前にいる有り得ない状況に全然慣れなくて、ただ無条件にドキドキする。
すっぴんをさらすことと、ちょっと甘すぎるかなと思いながらも購入したパジャマのお披露目が重なり、二重に緊張してる。
樹はいったいどんな風に思ってるんだろう……
「疲れは取れたか?」
「あ、うん、すごく気持ち良かった。真っ白で本物のミルクのお風呂に入ったみたいだったよ」
「なら良かった。じゃあ、俺も入る。好きなの飲んでていいから」
樹は何か落ち着かない様子で、さっさとバスルームに行こうとした。
「ねえ」
そんな樹を、私は思わず呼び止めてしまった。
「樹……」
「……?」
「あっ、あの、ごめんね。すっぴん、びっくりしたかな? やっぱり私って、美人じゃないし、可愛くもなくて……」
そこまで言った時、樹は一瞬戸惑いながらも、次の瞬間、私の側に歩み寄り、そして……パジャマに身を包んだ体をゆっくり優しく抱きしめた。
えっ……
私は、予想もしていなかった行動に驚いた。
あまりにも突然で、何が起こったかわからない。
「ごめん。嫌なことしないって約束だったのに。こんな簡単に約束破った」
私……
今、樹の腕の中にいるんだ……
樹の体温を直に感じて、お風呂でほてった体がさらに熱くなる。
「お前がリビングに入ってきた時、すごくドキドキした。ものすごく可愛くて……」
「う、嘘だよ。沙也加さんや周りのモデルさん達をずっと見てきた樹なら、私なんか全然見劣りするでしょ。このパジャマだって、樹と一緒だからって、無理して買ったけど、あんまり似合ってないし。私1人が張り切り過ぎてバカみたい」
似合ってるとおだてられ、調子に乗って買ったパジャマを着てる自分が急に恥ずかしくなった。
「柚葉は可愛い。世界で1番だ。このパジャマも買ったんだな……。うん、すごく似合ってる」
そんなこと、本当に思ってくれてるの?
それは嘘偽りのない本心なの?
私を離さず、ずっと抱きしめたままの樹。
もうダメだ……心臓が爆発しちゃう。
「樹……。やっぱりこんなの良くないよ」
その言葉で、樹はすぐに私から離れた。
「俺、どうかしてた、悪かった」
樹は、私の顔を見ることなく、足早にバスルームに行ってしまった。
「嫌じゃなかった。あのままずっと抱きしめられてたら私……」
樹がいなくなって、思わずつぶやいた。
きっとあのままだったら、私は何も考えられなくて、樹に身を任せてしまったかも知れない。
でも、そんなのはダメだよね。柊君への思いも、まだ吹っ切れてないのに。
いやだ……まだ鼓動が治まらない。
私はいったい誰が好きなの?
本当にこれからどうすればいいの?
何度も何度も考えるけど、やっぱり答えなんて出てこない。
樹の香りが私の体にまだほのかに残ってる。セクシーな大人の香りに、思わず身震いしそうになる。
正直、樹には、柊君以上に男性としての魅力を感じてしまう。心を許しきれてない自分もいるくせに、樹のミステリアスな部分に妙に惹かれてしまって……
だけどやっぱりすぐ側にいる樹が、ふとした瞬間、柊君と重なってしまうことも……否定はできなかった。