次の日、私は、目覚めてすぐに時計を見た。
アラームは、まだ鳴らない。
温かいベッドの中、昨日のことがすぐに思い出された。
樹がお風呂から上がった後、2人でソファに並んで座り、色んな話をした。
アメリカにいた頃の話は特に興味があったから、ワクワクしながら耳を傾けた。
結局、私を抱きしめてくれたことには触れなかったけど、私の素顔を可愛いと褒めてくれた。
思い出すだけで、また心臓が高鳴る。
目を閉じると、樹の真剣な表情が浮かんできて、勝手に胸がキュンとする。
樹、もう起きてるかな……
私はゆっくりとベッドから出て、パジャマの乱れを直し、髪を手ぐしで整えてから洗面台に向かった。普段なら気にしないことも、ここでは自然にできた。
静かだな……
樹はまだ寝てるんだろう、起こさないように気をつけながら、フローリングをゆっくり歩いた。
ドアを開けてリビングに入ると、すでに部屋は暖かく、樹は起きていた。
「おはよう、柚葉」
樹の甘い声、朝からイケメン全開だ。
「お、おはよう。まだ寝てると思った。起きるの早くない?」
「俺、早起きだから。柚葉こそバイトまで時間あるからまだ寝てればいいのに。無理して早起きしなくていい」
「あ、うん。何だか早くに目が覚めちゃって……」
「そっか。これ、サンドイッチ作ったから好きな時間に食べて」
「サンドイッチ? 作ってくれたの?」
ハムやタマゴ、トマトにレタスも挟んであって、ものすごく美味しそう。私を気遣う優しさがすごく嬉しい。
「そんな大したことないだろ。アメリカでは毎日作ってた」
毎日って……
私なんて、時間がない時はトーストを焼くだけとか、ヨーグルトだけとかもよくあった。
樹は、本当に何でもできるんだ……
イケメンで、英語ペラペラで、お金持ちで、オシャレで、料理も家事もできて……って、最強じゃない。
性格も、今は……悪くないし。
沙也加さんが好きになるのもよくわかった。
「それより、俺が出勤した後は、戸締りをキチンとすること、いいな。鍵は昨日渡したよな」
「あ、うん。鍵、ありがとう。今日は18時までだから、帰りは私の方が早いよね」
「そうだな、気をつけて帰れよ。何かあれば大声で叫ぶか、非常階段から逃げる、いいな」
本当に、私のこと、ずっと心配してくれてる。
子どもみたいな扱いだけど、でも……やっぱり嬉しい。
「大丈夫だよ。ちゃんと気をつけるから」
「……ああ」
樹は、しばらくしてからマンションを出た。
それを見送る私。
本当に、不思議な感覚だ。
樹の私物にはあまり触れないように気をつけながら、私も出かける準備をした。
これから、しばらくこの生活が続くのかな?
恥ずかしいような、嬉しいような。
緊張感もあって、本当に現実味がない。
でも、始まってしまったからには、樹とのルームシェアを楽しまないともったいない気がしてる。
きっと、沙也加さんが樹を忘れられたら、私達のルームシェアは解消――
もう二度と、一緒に暮らすことなんてないのかも知れないから。
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