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第二話 正しい色
小学校に入ると、
絵は「自由な時間」ではなくなった。
図工の時間には、
必ず見本があった。
黒板の横に貼られた、
完成図。
山は緑。
空は青。
花は赤か黄色。
そう決まっていた。
僕は、
見本を見るたびに、
自分の目を疑うようになった。
同じ山を見ているはずなのに、
同じ空を見上げているはずなのに、
僕の中の色は、
いつも少し違っていた。
クレヨンを手に取る前に、
迷う時間が増えた。
青を選ぶと、
また言われる。
また直される。
だから、
別の色を選んでみる。
名前だけを頼りに。
赤。
黄色。
緑。
紙の上に置かれたそれらは、
僕の中の世界とは、
やっぱり噛み合わなかった。
でも、
それを言うことはできなかった。
「ちゃんと見て描きなさい」
その言葉は、
いつの間にか、
「ちゃんと見られていない」
という意味に変わっていた。
家に帰ると、
僕はランドセルを放り出して、
机に向かった。
白い紙。
削れた鉛筆。
青を使わない絵を、
描こうとした。
空を、
白のまま残す。
花を、
輪郭だけで描く。
何度も消して、
何度も描き直して、
気づけば紙は、
灰色に濁っていた。
それでも、
青を置くことはできなかった。
夜、
こっそり青を使って描いた絵は、
昼間よりも、
ずっと静かだった。
誰にも見せないから。
正しくなくても、
直されないから。
それなのに、
描き終えたあと、
胸の奥に残ったのは、
安心じゃなかった。
「また、やってしまった」
そんな気持ちだった。
絵は、
好きなはずだった。
でも、
描くたびに、
自分の目が間違っている証拠を、
積み重ねている気がした。
――絵なんて、大嫌いだ。
そう思いながら、
それでも筆を離せない自分が、
いちばん許せなかった。
コメント
1件
小学生の時もみんなと見てる景色が違かったんだ〜 今回もめっちゃ面白かった!