大きめのピッチャーへ、彼が白ワインを注ぐのを見ながら、
「サングリアって、赤ワインのイメージでした」
と、思いついたことを話した。
「うん、サングリアは赤ワインで作ることが多いが、白ワインのものもあるんだ。サングリア・ブランカと言って、飲み口も赤ワインベースよりスッキリとしていて爽やかだから」
「そうなんですね」と、やっぱり矢代チーフは何でも知っていてと、感心しきりで頷いて、そのメガネのよく似合う端正な横顔に再び見とれてしまう。
グレープフルーツやレモンも入れて、スプーンで少し味見をさせてもらうと、シトラスの香りと程よい甘酸っぱさが口の中に広がった。
「美味しいーすごく」
「そうだろう?」
「これ、私の家でもやってみたいです」
「ああ、そうしたら今度は、僕がそれを飲みに行こうか」
二つのワイングラスに注いだサングリアを飲みながら、ローソファーに彼と寄り添って話をする。
「フルーツの方も、つまみ代わりに食べてもいいから」
そう言われて、ピックで挿してフルーツをかじってみると、ワインが中からじわっとしみ出して、高級なデザートみたいな味わいに、舌がとろけそうにも感じた。
僅かに開いたカーテンの隙間からは、欠けた月が見えて、こんな風に静かにお酒を愉しめる人と出会えたかけがえのない幸福を、私はしみじみと噛み締めた──。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!