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咲ら討伐隊員候補生は、一日遅れの武器選びに来ていた。今日は久東も居るらしく、店長三人で武器選びのコツを教えてくれるらしい。
奇妙なことに、昨日の事件に関してはノータッチだった。久東もまるで知らないかのような喋り方をしていた。候補生の間には指摘したいが指摘できない、そんな張り詰めた空気感が流れていた。
「武器選びのコツは大きく分けて1つや。自分がいっちゃんかっこええと思える武器を選べ。それだけやで」
「扱える武器にしてよ?下手に使いづらい武器使って死んでった奴らを俺らは沢山見て来たからね」
「ぼ、僕みたいに超異力だけで戦う人もいますし、そんなに思い詰めないでくださいね……!」
「んじゃ、決まったら教えてや。早速スタートや」
そんな忠告をよそに、咲らの武器選びは始まる。
咲らの前には大量に案山子のようなものが置いてある。基本壊れない案山子らしい。
そして、漫画にありそうなメジャーな武器から見た事もないような武器までずらーっと壁一面に並べられた武器たち。
ひとえにハンマーと言っても、ハンマー投げレベルで小さいハンマーから咲の身長と同じくらいあるとても大きなものまであるし、とげがついていたり変形出来たりと自由自在なものもあって、武器の多様性を具現化したかのような場所だった。
始まった途端、希望武器があると見える奴らが走り出したり、もう報告に行っていたりした。
報告組の中には無光や葉泣がいる。葉泣はおそらく銃を扱うのだろうが、そういえば無光の武器はなんなんだろう。
無光は何も持っていないように見える。その後素手で案山子を殴り始めた辺り、直接殴りに行くタイプなのかもしれない。
瓜香は早速ハンマーの方に走っていき、ちょうど真ん中くらいのサイズを選択し、案山子の方に戻って行った。
瓜香はハンマーを振り下ろす。超異力を使用しているらしく、腕のあたりが黄色く光っている。
かなりの轟音が鳴り響いたが、案山子はびくともしていない。まあ壊れてしまったら困ると言えばそれまでだが。
瓜香は、軽く頭を抱え、その後未だに何も動いていない咲の方に駆け寄ってくる。
「なんかこれじゃない感がすごいわ。なんというか……もう少しドデカい音を出せたらかっこいいのに」
「そう?結構音やばいけどな」
「違うのよ。ハンマーなんてこれくらいの音は出ないと困るわ。私はもっとロマンを求めてるのよ」
「えぇ……。店長が言ってたけど、使える程度にロマンしろよ」
「任せて頂戴よ。……そういえば、咲は希望武器どうするの?」
「全然決まってない」
「そうなの?じゃあ私が一緒に探してあげるわよ」
「え、いいの?」
「私はハンマーって決まってるからね。先に友達の武器選びをする方が、私達二人にとっていいでしょ?」
「感謝すぎる流石に……!」
二人は武器の並べられた壁の前に立つ。
咲はあんまり戦うことが好きではないし、何より長時間戦えるほど体力がない。
なので、できれば一撃で終わらせられる武器がいい。
かといって、瓜香みたいに奇跡が起こって怪力の超異力を習得できるわけでもないだろうし、素の力でデカい武器を振り回せる自信もない。瓜香が選んできたハンマーを持たせてもらったが、重すぎて一歩も歩けなかった。
「そうねぇ……一撃が重いけど物理的に重くない武器……」
「そんな都合いい武器ないよなー」
「……チェーンソーどう?!かっこいいし威力あるわよ!!」
「重いだろ!!色々と!!」
「えー……じゃあ斧とかかしら」
「斧も重いじゃんか」
「何よ難しいわね。今からムキムキになって一緒にハンマーライフを送りましょ?」
「いっちばんないからそれ!」
瓜香もお手上げらしい。二人でうなりながら再び武器リストに向き直る。
一撃が重い武器はどれも質量的に重い武器だ。当たり前ではあるが、その事実がだいぶ辛かった。
店長らの武器はどうだったろう。久東の日本刀は多分不器用な咲には使えない。寺に置いてあったやつを持った時、案外重かったのも覚えているし。釘バットも……まあ重いだろう。
壊はタイヤに紐付けたものを振り回すらしい。重いの権化みたいな武器だ。
富良野みたいにするには咲の超異力がどうなるかによるためまず不可能だ。
須田の斧も重いだろうし。やはり、重さは覚悟した方がいいんだろうか。
すると、咲の視線はある一点を捉える。
薄暗い部屋の中で真っ黒い上に大してデカくもないそれは一見地味に見えたが、咲には光そのもののように見えた。
咲はそれを手に取る。重いと言えば重いが、ハンマーや釘バットなどに比べるととても軽いように感じる。
先端の方に痛い部分が集中しているため、持ち手は軽くとも刺々しい前の部分が重い。片手でギリ持てそうなくらいだ。
咲は実はこの武器の名前を知らない。咲がオタクな方面的にバトル漫画はあまり知らないのだ。
しかし、某ハンマーネキは知っているらしく、咲が手にしたそれを見て目を輝かせ、
「モーニングスター?!いいわね!!」
と叫ぶ。その後、ハイテンションになって咲が手にしたモーニングスターと言う名の武器について色々と語りだしたが、授業の三分の四を寝て過ごす咲にはまったくもって響かなかった。
咲が全然話を聞いていないと分かったのか、瓜香は「じゃあ実践よ」と言い、彼女も先程より一回り大きいハンマーを持ってきて、案山子の方へ走って行った。かなり咲を見ている。お前もやれってことらしい。
咲も察して走り出した。助走中に武器がすっぽ抜けないか不安だったがために、かなり利き手である右手に力を込めて走る。
流石に重い。リレーのバトンとはわけが違う。重心が右に傾きつつあった。
咲は言うて運動はできる。この前あった高校のクラス対抗リレーでは選手だった。一人追い越して次につないだのに、次の奴が転んで結果は5位中4位。絶対勝てそうだったのにあれは正直悔しかった、という思い出を今になって思い出す。
さぁ、案山子と言う名のゴールテープは目前に迫る。ここまで来て、咲はモーニングスターという名前を知ったばかりの武器でどう戦うのかあまり想像がついていないことに気が付く。とりあえず縦に振り下ろせばいいんだろうか。それともまっすぐ刺突する感じでぐりぐりするのか……いや、流石にそれはない。咲も相当参っている。
とにかく、咲はゴールテープに飛び込むビジョンを見いだせずにいたものの、そういえばリレーのバトン渡し練習も完全にサボっていたけどノリでなんとかなっていたことに気付き謎の安心感を得て、そのまま案山子へ一目散にモーニングスターを振り下ろした。
ドガッという鈍く低い音が鳴る。その三秒後に隣でバカでかい轟音が鳴り響いたせいでインパクトは皆無だったが。
しかし、局所的とはいえかなりのダメージが出たんじゃないだろうか。案山子にダメージを受けた様子はないわけだが、かなり揺れていた(ハンマーのせいか?)。
咲は、言語化できないが非常にこの武器が手になじんでいると感じた。
瓜香を見ると、完全にハンマーの虜になっているらしく、「ねぇねぇこのハンマーすごくないかしら?!」と今までに見た事のないような高いテンションで話している。
その後しばらく語りが続いた。ハンマーに関しては咲以上にオタクなのかもしれない。
そして、二人は報告しに向かう。
「東支店の花里瓜香です。このハンマー6号を使いたいです」
「東支店だから超異力使えるんか、そりゃ筋肉無くてもハンマーぶん回せるわけやわ。じゃ、頑張ってな」
「お、咲」
「あ、うす。この……モーニングスター?を使いたいです」
「あれええよなー。私も三人目お迎えするならモーニングスターがええわ」
「……ちなみに名前は」
「ハンマーちゃんやな!」
「あぁ……」
「そういや、もう武器決まったお二人さんに朗報やけど、武器決めた奴らにはジムを解放しとって、そこで筋トレできたり試し打ち出来たり、自己研磨の場やね。明日は試験があるわけやし、使ってみたらどうや?」
「へーあざす」
「ありがとうございます!ね、向かってみましょうよ、咲」
「そうだね、行ってみっか」
久東から詳細な場所を教えて貰い、二人はジムに向かう。
戸をたたけば、既に大量の候補生が居た。
見知った奴としては、春部や無光、葉泣もいる。もう殺すなよ。
前回の反省を生かしてか、富良野が監視員のような感じで扉近くに立っていた。
葉泣はひたすら的を打ち抜いている。周りの人間にムカついているようには見えない。
無光側から珍しくこちらに駆け寄ってくる。咲や瓜香の持っている武器が特徴的すぎたのか、人が多い中唯一と言っていい知っている中でまともなやつが来たからなのか。
「無光じゃん、どしたの」
「なんだその武器。珍しいな」
「私の?モーニングスターって言うんだって」
「へぇ。なんかかっこいいな」
「でしょ?」
「瓜香のは……大きいな、すごい」
「そうよ。ハンマーは大きければ大きい程いいの!貴方にもその良さがわかるかしら」
「えっいや……使いやすい方がよくないか」
「……”教育”が必要なようねぇ……」
「咲、助けてくれないか?」
「うわー明日に向けて戦闘の練習しないとー(棒)」
「おい咲!!」
瓜香が一方的な蹂躙をしているのをBGMに、咲はモーニングスターに慣れるべく練習を始める。
やっぱり振り回せるほど軽くはない。どうしても持っている側の手が下がり気味になって、重心がぶれる。
今の咲には脅威がないから走っている間攻撃を受けないが、実際の戦闘ではまず死ぬだろうなと直感する。
じゃあどうするか?敵の攻撃を受けないことなどまず不可能だろう。おそらく超異力が使えたら話は変わってくるんだろうが、とりあえず咲は超異力なしでの試練突破は確定事項なため、自身のスキルのみで戦い抜かねばならない。
咲には自信がない。怪異そのもので、最終目標の怪異と何らかのかかわりのある無光はおそらく強いだろうし、瓜香は超異力を使用して馬鹿馬鹿しい威力を叩き出せるハンマーを振り回す。おまけに都市伝説から生まれた怪異にめっぽう強い。
咲に何か特出した物はないだろうか、と考えた時、最初に思い浮かぶのは妖怪に対する知識量だ。
おじいちゃんの受け売りではあるが、今まで出会った奴の中に妖怪に関する知識で負けたことはない。
なので、咲の明日の作戦はこうだ。
・妖怪から生まれた怪異と遭遇し戦う
これだけである。
咲は細かい事を考えるよりも何も考えず突貫する方が性に合っている。
こいつは妖怪だ、よし戦うぞ、と決めればその時点で咲の作戦は終わる。これくらい単調でいいんだ。
しばらくすると瓜香や無光も練習組に参加してきた。瓜香は相変わらずの破壊力とパワーで周囲をドン引かせているが、本人はものともしていない。しかし、かなり一発一発に疲れるらしく、三発ほど叩いたらぶっ倒れた。
無光は人間でもありそう、というか見た事あるような格闘技をいくつか組み合わせたような戦闘スタイルで殴る蹴るを繰り返している。動きは洗練されていてかつ早く、目で追えないことも多い。時折紫色の閃光が拳や足に舞っているが、これが彼の超異力(怪異だから別の名前になるのか?)だろうか。
一応別支店にも強くてニューゲームもとい”強くて超異力”勢はいるらしいので、無光もその枠として溶け込んでいる。
葉泣がこちらを見ているのは瓜香の轟音のせいか他支店の超異力持ちに雑魚ではない可能性を見出しているからか。
正直殺人犯の気持ちを考えるなんて不可能な話だ。しかし、彼の瞳に一瞬光が入っているように見えたのは咲が汗だくだからだろうか。
その後、ずっと監視員していた富良野が一人一人にアドバイスを言っていた。どうやら別に殺人事件が起こらなくともこういう役割の人はいるらしい。今回はたまたま店長が務めていたが、普段は通常の討伐部隊員(店員というらしいのは別の話)が務めているそうだ。
「花里さんは火力が高くて凄いですねぇ……!」
「仇桜さんの動き、丁寧で感動しました!」
「枝野さん、勢いがあって素晴らしいです!」
実質褒め褒め大会が開催されていたが。
ちなみに久東がこの枠だとコテンパンに言われ、須田は直前のパチで勝ったか負けたかによって正確なアドバイスがもらえるかもらえないかが決まるらしい。大敗した時は一人ずつぶん殴られるそうだ、酷すぎる。
なので富良野がやってるときは人気が高く、富良野だからジムに行こう、という人もいるとのこと。
なんだかほわほわした気持ちで帰路についたのであった。
*
会議室。ここに、四人の店長が集う。
「いよいよ明日っすねー選抜。今年は豊作の予感っすか?」
「せやな。10回に一度おるかおらんかレベルの逸材がわんさかおる」
「一支店ずつ出してくー?」
「じゃあ須田から」
「……まあ葉泣っすか?というか、こっちはみんな超異力持ちっすし、東が占めるかもしんないっすよ」
「ほんまに?葉泣は強いやろけど、他の奴は並程度の奴に苦労せずして超異力持たしたんやろ?使い慣れてないやろし、浮かれとる奴もおるやろ」
「で、でも普通の人よりは強いですよね」
「んねー。ぶっちゃけ東は多いでしょー」
「そう言う北はどうなん?」
「いやほぼいないー。超異力勢いないし今年はただ人数多いだけー。送り返すのだるすぎ、誰か手伝ってねー」
「南は超異力おったやろ」
「琳さんのことですか?確かに南支店の中だと一番強いですよ。速度もありますし。でも、あの性格だから天神さんとかに突っ込んでいかないか不安で……」
「強さを過信してる部分はあるかもっすね」
「西は相変わらず怪異くんー?」
「せやね。あいつならギリ葉泣ともやれるかもしらんな」
「怪異でやっとの実力って、もはや葉泣が怪異なんじゃないっすか」
「天神家出身の方は何回か来たことありますけど、毎回あり得ないくらい強いですよね」
「そして出自を語りたがらへんと。ほんまに怪異なんとちゃう?」
「怪異には怪異をぶつけましょー」
「明日のルールは特に変更なしでええかな」
「うーっす」
「異論なし、です」
「ういぃー」
「個性ある返事やな……。んじゃ、明日に向けて寝ようや」
*
咲は、またもや瓜香に起こされる。咲の寝つきの良さはすこぶるいいので、別にド深夜まで付き合わされようと大丈夫だ。
「ねぇ咲、恋バナしない?」
「あ?」
「恋バナよ恋バナ。したことないの?」
「いやあるけど……この異世界で好きになる奴なんているかぁ?」
「いるわよ。私は」
「いんの?!」
「まあ、元から面識あった人だから」
「誰?」
「ちょ、ちょっと!恋バナなのに好きな人聞いて答えるわけないでしょ!」
「えー……当てたいんだけど」
「何よ。当てれるもんなら当ててみなさい?」
「アキネイター方式でいい?」
「危なくなったらやめるけど、それでもいいなら」
「私が知ってる人?」
「そうね。知ってると思うわ」
「東支店?」
「……うん」
「え、東で知ってる人……あ、えっ、もしかして」
「ストーーーーーップ!!!」
「えなんであんなやつ」
「ストップ!!もう私寝るわ!おやすみ!」
「寝れる勢いではないだろ」
「まあでも……そんなこんなで私は明日の選抜は勝ち抜かないといけないのよ」
「恋とハンマーと都市伝説のためか」
「ええそうよ。咲だって何かあるんでしょ」
「うーん……特には。でも強いて言うなら、そうだな、私のおじいちゃんが『妖怪と戦ったことがある』って言っててさ、それを継いでみたい……って言うとなんか日本語おかしいけど。そんな感じかな」
「素敵じゃないの。じゃあ、私もあなたも譲れない戦いってわけね」
「そうだな。ライバルってやつ?」
「まあそうなるわね。でも、私としてはやっぱり二人で!この選抜を突破したいわね」
「ね。頑張ろ」
「そうね、頑張りましょう!」