テラーノベル
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「大変長らくお待たせいたしてるでー!!只今より、第……何回やったっけ?ままええか、第何回:怪異討伐部隊員こと”店員”選抜試験を開始しますー!候補生は一列にビシッと並んで、ルール説明を聞いとくんやな」
という久東の掛け声から、選抜試験は始まった。
緊張した面持ちで臨む面々はほとんどが知らないやつらだが、つい最近まで友達であったライバルも見える。
支店の順に並んでいるので、隣は無光と瓜香だ。二人とも落ち着かない様子だが、無光は当然ながら余裕だろうに。
「んじゃ、ルール説明や。まず、本部の中庭、つまりあんたらが今いる場所やな、そこに事前に捕まえといた怪異を放出するで。怪異の強さはバラバラや。中にはあんたらの段ボールカッター戦より弱いやつもおるし、店長や店長候補筆頭でギリ倒せるくらいの強い奴もおる。そこの見極めも重要ってわけや」
「質問ですが、何体怪異がいるのでしょうか」
と、潔く挙手したのは眼鏡をかけた聡明そうな男性だ。スーツを着こなし、背がかなり高いように見える。おそらく咲達より年上の大人であろう。場所的に北支店か東支店。……武器がチェーンソーなのは見間違いだろうか?
「ええ質問するやんけメガネ。今ここにおる候補生は60人ちょいやけど、怪異の総数はなんと120体。一人当たり二体はおる。知性がある怪異なら群れてくるかもしらんで、ま、知性がある怪異ってことはそこそこの実力者やけどな」
またしても平然とえぐい事を言う。咲は今まで一対一想定だった。というか、全員そうだと思う。しかし、怪異のが多いという中々酷なことを言われてしまった。もし怪異に囲まれたら?一体ですらきついのに、地獄だろ、そんなの。
「最終的には早抜けやな。怪異のラストヒット取ったやつから先着順で八名抜けれる。九番目以降は……色々あんねんけど、とりあえず店員にはなれへん、とだけ。まあ実際抜けれんかった奴らにだけ教えっから、ちょっと怖いな思た奴は死に物狂いで店員になればええ」
「ほんで、ルールは実はそんくらいや。私ら店長は別室から監視しつつ実況するけど、候補生を先に削ったり、漁夫したり、何しても許されるで」
「抜けた奴が出た場合は実況席からお知らせするで、後は負傷が酷いと判断した場合は回復できる店員がそっちに向かうで。流石に死人を出すわけにはいかへんからな」
「ルール説明終わりー。じゃ、私は放送室兼管理室に行ってくるから、最後に何か言いたいことがあれば今のうちに叫んどき。スタート!放送が来たらスタートな」
そう言って、久東は離れて行った。
目の前には、既に何体か見知った妖怪がいる。
瓜香は都市伝説に惹かれ、あらぬ方向に語りを発動している。
咲も何体かに狙いを定める。あんまり群れるイメージが無い妖怪。かつ勝てそうな妖怪。
あいつくらいか。そう思った時、
「スタート!!」
という声が聞こえた。
開始一秒、五発、いや六発、七?現在進行形で増えていく弾丸の音。
そして、目の前の肋骨が浮き彫りになっている怪物が凶弾に倒れた。
思えば、銃弾が確定で当たるなら何発も撃てばいいだけの話だったか。
「あーもう葉泣おめでとーはいはい一位ねー」
放送もやる気がない。葉泣は本部の建物に案内され、消えていった。まあここまでは茶番みたいなところがある。
候補生の中の怪物が消えたところで、咲達はいよいよ動き出す。
咲は一目散に狙いを定めた奴の元に向かう。……もう一人、咲と共に来てるやつがいることを知らずに。
咲は初撃をとることの重要さをゲームで学んだ。「ふいを ついた!」というやつである。某ポケットなモンスター。
よって、咲は先手必勝作戦で突撃する。
「おっしゃー!食らえ狂骨!」
「食らいなさい、変な骸骨」
「あ?」
「はい?」
咲の先手必勝作戦は失敗に終わった。
咲がモーニングスターを振り下ろしたと同時に、何か銀色の光が邪魔をしたのだ。
いや、邪魔をしたのではない、その銀色の光もまた咲が目を付けた怪異を攻撃しようとしていたのだ。
エンジン音。咲の家の近くで聞きなれたその音が示す武器等、一つだ。
チェーンソー。そして、それを持っているスーツ姿の眼鏡。
「じ、邪魔すんじゃねぇ眼鏡!!」
「それはこちらのセリフですが。私はこいつを狙っていましたし」
「黙れハゲワシ!!」
「黙れハゲワシ??」
「私は妖怪に詳しいしなんならあんたより前に狙ってた自信あるから!!出てけ!!」
「そんなの主観じゃないですか」
「狙ってる理論先に出してきたのお前でしょうが!!」
「確かに……敗北です」
「えっ……」
咲(と眼鏡?)が狙っていたのは、「狂骨」という怪異である。
狂骨は伝承によってさまざまな姿を持つ。骸骨の頭部分だけのものもあれば、実体を持たないとされるものもある。
今回の狂骨は最もオーソドックス、というか最も有名な狂骨の描かれた絵画そのものの見た目をした、白い布に身を包んだ人間の骸骨の姿をしている。
メガネは自分も狙っていたと主張するが、狙っていた云々関係なしに咲の方が妖怪知識は上だろうし、それに眼鏡にラストヒットを取られては困る。咲はそう考えた。
しかしそれは眼鏡も同じである。眼鏡だって正式な店員になるために必死だ。二人は永遠に思える言い争いをしていた。
「西支店・無光が二位で選抜を突破!!おめでとうやでー」
「うぇぇえ無光はっや?!」
「ではあなたは遅いのですか」
「ムカつくなぁ!初対面の癖に!」
「私もムカついております。……さぁ、いい加減出世させていただきます」
そう宣言したメガネはチェーンソーをまたもや振りかざす。しかし、そんな大ぶりな攻撃当たらんと言わんばかりに狂骨は体をよじらせ、ひらりとかわした。
咲もそれに続いてモーニングスターを振り下ろすも、再び外れる。それに反撃するように、狂骨は両手を咲の首に巻き付け、咲の首を絞め始めた。
咲はただもがくしかできない。新しいその鈍器を振り回せばいいのに、まだ戦闘慣れしていないからか足をじたばたさせて苦しくなるくらいしかすることがないのだ。
メガネは咲(もしくは狂骨)に何か話している。酸素がうまく脳に回っておらず、聞き取ることはできない。
ふと、昔を思い出す。
『昔々、ある所に』
『おじいちゃん、今度は何の話?』
『とある妖怪じゃよ。……昔々、ある所に、一人の男がおった。男はそれなりに楽しく暮らしておったが、哀れな奴じゃ、犯罪に巻き込まれて亡くなってしまった。その遺体は井戸に捨てられたんじゃ。男の怒りは計り知れない。いつしか、彼は全てを恨む恐ろしい妖怪と化してしまった。男の誰にも発見されなかったという怨念はやがて骸骨の姿をなす。そこに魂だけが入った傀儡も同然の姿になった。男、いや妖怪の名を狂骨と言う』
「いど……」
「井戸?」
「めがね、いど、さがして」
「いくら田舎とはいえ井戸なんてないでしょう。走馬灯か何かを見てるんですか」
「じゃあたすけ」
「はぁ……昇給チャンスが……」
眼鏡はぐちぐちと悪態をつきながらチェーンソーを振りかざす。
流石に両手がふさがってる状態で避けるのは難しかったらしく、チェーンソーが狙っていた狂骨の手首はボトっと落ちた。
と同時に、咲の体は解放される。
「た、助かった」
「俺の昇給チャンスを邪険にしないでください。あと、井戸ってなんですか、井戸って」
「井戸!そう、井戸を探さないと」
「何故……?」
すると、カタカタと骨が擦れる音がして、二人は振り返る。
そこには、いつも通りの狂骨が居た。いつも通りの。
もう少し言えば、切られた手首が再生していた。
「はぁ?!どうなってんですか!」
「再生してんのかよ!!」
咲は思考を巡らせる。
再生する妖怪自体別に存在するだろうが、狂骨は伝承によっては「実害がない」と言われていることもある。
もしそれらの噂も含めての今の狂骨なら、おそらくとても強い部類には入らない。
なので、再生するという強い特性も何か欠点があるはずだ。
というか、欠点がないなら狂骨に戦いを仕掛けた時点で積みでしたね、で終わらそう。
その欠点だが、井戸井戸連呼している咲にはもう既に見当がついている。
再生能力によくある、本体があるというやつだ。
回復してくれる本体が攻撃してくる体とは別にあって、そいつをまず殺さないと攻撃は止まないってやつ。
おじいちゃんが話してくれたのによれば、狂骨は井戸に遺体を捨てられた人間の無念が具現化した姿らしい。
となれば、本体は井戸にあるはずだ。
「再生してんだったら猶更井戸だな」
「その井戸は結局なんなんですか」
「……あんたは知らないだろうけど、狂骨って井戸に死体が捨てられた人間の怨念なの。だから、井戸に本体があるかもしれない。そして、その本体を攻撃しない限り」
「狂骨は再生し続けると?」
「と、思う」
「なるほど、馬鹿そうな見た目してる割に頭は冴えますね」
「ぶち転がすぞ」
「じゃあ、どうします?」
「井戸探すだろ」
「んなこと分かってますよ。でも二人で井戸探しに走り回ってたら骸骨にぶち転がされますって」
「二手に分かれろと?」
「はい。馬鹿そうな見た目して」
「お前と一緒にいるとキレそうだしいい案だと思うわー!じゃあお前が探しに行けや井戸」
「まあいいですよ。エリートに任せなさい」
「自称エリートかよ!!」
二人は分かれる。
咲は改めて狂骨に向き直る。
遺体が井戸に捨てられたことにより生まれた妖怪。
妖怪には必ずしも過去、バックボーンがある。
おじいちゃんは毎回それを語る時、もの悲しそうな雰囲気を漂わせていた。
しかし、おじいちゃんは言った。どんなにつらい過去があっても、可哀想だと思っても、
絶対に手加減してはいけないと。
「み、南支店の琳さんが3番目に試験突破でーす……!すごいですね!」
知らんやつが突破したらしい。
しかしその情報は咲らを焦らせる。
それすらもおそらく想定に入れられているのだろう。
そのうえで、決して焦らなかった奴が勝てるのではないか。
咲は威勢よく狂骨の頭をカチ割る。
そこまで耐久力はないらしく、狂骨の頭は簡単に崩れた。
しかし、再び目まぐるしい速度で狂骨は再生する。
まだ本体は破壊されていないらしい。
そもそも井戸に本体があるという咲のよくわからん仮説もあっているのか分からないのに、走ってくれる眼鏡もかなりいいやつであるが、言動がかなりゴミだったせいで咲はその事実に気付いていない。
咲は先程の首絞め攻撃がまあまあ痛かったせいで狂骨に対し逃げ腰になっている。
狂骨は咲の首に手を回す。咲はそれを振りほどき、片手に痛恨の一撃を食らわせる。
絶対に手加減してはいけない。絶対に。
戦いにおいて、油断してはいけない。
よくおじいちゃんが言っていたことだった。
咲は臨戦態勢を解除しない。
慣れない武器で戦い、慣れない一対一をした咲はかなり消耗していた。
狂骨を睨みつける。それには瞳もないはずなのに、奥の方が淡く赤く光っているように見えた。
所謂霊感なんだろうか。咲は流れる冷汗をそっとぬぐい、また狂骨に殴りかかった。
狂骨も咲の喉をひっ裂くよう、指をガッと立てて襲い掛かる。
この時、咲はあることに気付く。
モーニングスターには振り上げてから下ろすまでの動作が要る。
その間に隙がありすぎることに気付いた。
飛び上がって殴るまでの、例えば……胴体。
咲は自慢の頭の悪さでそれに気付けなかった。
狂骨のとがった右手が咲の喉を引き裂く。
思わず倒れた咲に狂骨は狙いを定め、馬乗りになる形で首を絞め始める。
実況が何か言っている。もう何人か試験突破者が現れたんだろうか。
開始初期からずっと聞こえてきていたハンマーの音ももうすっかり聞こえない。瓜香はクリアしたんだろうか。
喉が熱い。悲鳴を出そうとするともっと熱くなる。血液が流れていると分かった。
その時だった。狂骨の元に光が消えた。
今だ、と誰かに言われたような気がする。
咲は、その言葉に背中を押されるように、最後の力を振り絞って、狂骨の顔にモーニングスターを投げた。
*
海里氷空の能力は非常に難解である。彼自身も理解できていない。
彼が所持するチェーンソーは先程から青い閃光を放っているが、名前も知らない変な棍棒を持った女は気づいていないらしかった。
彼は葉泣という嫌な性格をしてる奴にラスヒだけ取らせてもらうというなんともな方法で超異力を手にしていた。
彼の能力、それは「再装填を必要としない能力」。
何を言ってるのかよくわからないと思うが、例えばチェーンソーで言えば、一回スイッチを引いたから永続的にエンジンがかかり続けるわけじゃなく、いつかは止まってしまう。その時に、もう一度スイッチを引く行為が必要になる。それを再装填と呼ぶ。
しかし、その行為をせずとも永続的にチェーンソーを動き続けさせられるというのが氷空の能力である。
そして、それはチェーンソーなどの物理的な再装填だけでなく、走る・跳ぶなどの行為にも適用できる。
走っている人間は永続的には走れない。いつかは止まる。というか止まれ、さもないと死ぬぞという脳の指令が出て、それで人間は止まるし、それまでに速度が落ち始める。
それをなくせる。よくある算数の問題「時速〇kmで走るAさんが〇km走ったら何分かかる?ただし、Aさんは一定の速度で走れるものとする。」の「Aさんは一定の速度で走れるものとする。」を実現できるのだ。
今も尚、氷空はその能力を用いて本来なら無理な時間を半永久的に走り続けている。
全ては井戸を探すために。
「にしても、井戸なんて。田舎とはいえ、そんなことありますかね」
そう愚痴も零したくなる。氷空はお盆の時期に度々墓参りにここを訪れる程度ではあるが、井戸何て見た事がない。それに、あんな馬鹿そうな女の話なんて信じられない。しかし、
「あ」
そこには井戸が在った。
古い、みすぼらしい井戸だった。苔むしていて、蜘蛛の巣があちこちにあった。
都会暮らしの氷空からすれば非常に嫌なものだった。
しかし、あんな馬鹿そうな女とはいえ今も狂骨と一対一で戦っているわけだ。
あの首絞め攻撃を女が食らっている際、氷空はあの記憶を思い出してしまう。
本当に嫌気がさした。吐き気を催した。最悪だった。
若干弱そうだからという理由で戦いを仕掛けたのが失敗だった。氷空は会社の時のように詫び菓子は何にするかと考えていた。
中を覗き込むと、何やら魂のようなものが浮かんでいた。
氷空は実は妖怪に全くもって疎い。これの正式名称は知らないが、よく幽霊の隣にふよふよ浮いているイメージがある。
「これを壊せばいいんでしょうか。というか、これそもそも実体あります?」
とはいえ、井戸に飛び込むしか選択肢はないだろう。ここまできたら、馬鹿女の仮説は合っていたんだろうし。
氷空はチェーンソーを下に向け、飛び込む。
足が底に着くと同時に、激痛とともに生暖かい感覚が走った。
氷空の能力は強そうにみえるだろうが、その永続させた動作を切り替えると動作分のダメージを受ける。
さっきは、「走る」を永続させていたが、井戸を見つけて「止まる」、井戸に「飛び込む」という動作に変更したので、「走る」をしていた時間分のダメージを受けたのだ。
うめき声をあげる。井戸のせいでアナウンスとともに反射して、まるで自分が怪異みたいだ。
みると、もう魂みたいなやつは消えている。これが奴の本体もとい回復してくるやつなんだろうか。
となれば、馬鹿女はもう狂骨を倒せるはず。氷空は激痛に耐えながらも永続動作を「跳ぶ」に変更し、地面に着いたタイミングで「走る」に変更、馬鹿女の元へ向かう。
馬鹿女は狂骨にかなり押されている。喉元からは血が溢れていて、今も狂骨に馬乗りにされ、殴られている。
氷空だって、能力のダメージを受けていた。走る体を止められず、氷空はかすれた声で叫ぶ。
「今だ!殴れ、そいつを殴れぇぇぇえ!!!」
バカ女は覚醒する。彼女が持っている棍棒は、狂骨の頭を貫いた。
*
咲の両手は淡く青緑色に光り出す。そして、咲が両手を掬うような形にすると、言霊のような何かがそっと咲の目の前に現れた。
「やった……!」
「西支店・咲が五番目のクリアやで!おめでとさんー」
五番目。咲が狂骨に殺されかけてるときに誰かがクリアしたらしい。
しかしそんなことは咲にとってはどうでもいいことだ。咲はクリアできたんだ。
ふと隣を見ると、眼鏡が小さく拍手している。彼もかなり消耗しているらしく、酷く息切れしている。
「本当にありましたね、井戸。貴方がいなければ俺は負けてたでしょう」
「こっちのセリフだよ、マジで。てことはやっぱ、井戸にあったんだ、本体」
「魂みたいなのがありましたね」
「壊してくれてありがと、眼鏡。……んでもいいのか?私がとって。眼鏡がいなきゃ私こいつ倒せてない」
「本当、折角の昇給チャンスが。まあでも、久しぶりに楽しかったですよ、結構。それに、貴方と絶対同期になりますから」
「へへ、待ってるぜ!」
「長くは待たせませんよ」
「枝野さーん、試験クリア者はこっちにお願いしまーす」
旗を持った女性がこちらへ来た。店員の一人なんだろう。
「あ、ちょっと待ってください。……眼鏡、名前なんて言うの?」
「海里氷空です」
「氷空?へー。よろしくね、私は枝野咲」
「あのー……そろそろ」
「あ、はーい!」
咲は氷空と名乗る眼鏡と別れた。とはいえ眼鏡の方が呼びやすいと思ったのは事実である。
道中、咲は女性と色々会話をした。
「超異力ゲットですか。凄い凄い、今までクリアしてるのは既に超異力持ってる人たちですからね」
「え、マジか、私超強いってことですか!」
「そうですよ。怪異のこともしっかり分析なされてて流石。貴方の超異力は試験終了後に詳しく解析しますので」
「楽しみにしときまーす」
「そういえば、花里瓜香ってもうクリアしました?」
「ええと……」
女性は持っている端末を操作する。端末には色々文字が書いてあって、咲には理解できない。
「……まだみたいですね」
「え」
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