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夕方に目が覚めた。小さなキッチンで水を口に含み、食道を下る雫の重みにこの戦いに生き残った事を実感する。夢の様な一時《ひととき》を駆け抜け、失い掛けた自信を取り戻した…… 全て終わった。
―――これで前を向ける……
達成感と喪失感が、交互に波の様に満ち引きを繰り返す。耐え切れず震える身体を自ら抱きしめた。これでもう後悔は無いと云えば嘘になる。
勝ち取ったのは年間のNo,1では無い、謂《い》わば月間No,1。そこに悔しさが残らない訳が無い。
―――でもその先に答えが有るかもしれないのよ?……
先日のBarのママの言葉が頭に浮かんだ。私は一体何処に行きたいんだ…… 携帯をチェックするとお祝いの言葉とメッセージが沢山入っていた。
≪黒川です。昨夜はおめでとう、素晴らしい戦いだったね。早速、今後の事を話し合いたいと思ってね。今、ホテルのラウンジに居るんだ。少し飲まないかい? 勿論部屋も取ってある。ゆっくり話がしたいんだ、来てくれるね? 待ってるよ≫
≪やほぉ~お兄ちゃんだよ! 昨夜はおめでとう頑張ったね。お兄ちゃんは明日から地方に撮影に行っちゃうから、今日の夜しか会えるチャンスないかも。ホテルに泊まってるからディナーでもどうだい? その後は兄妹でいけない事しちゃっても愛があれば神様は許してくれるよね? 待ってるからねPS……≫
≪楓です。ちか、昨夜はお疲れ様でした、凄かったね、おめでとう。今夜ホテルで来てくれるまでずっと待ってます。最初に貴女が私を選んだように、私はまた最後に貴女に選ばれたい。これが私の最後の我儘です…… お願いちか…… 私を貴女の特別にして下さい≫
―――私は何処に向かうのか
何処に向えばいいのか―――
「どちら迄? 」
「〇〇〇ホテルまでお願いします」
バタンとタクシーのドアは乾いた空気を吐き出す様に閉じた。
運命の悪戯は此処からまた始まる……
―――完―――