コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
徳川の知っている裏通りの喫茶店に入ると、ヤニの匂いが漂っていた。禁煙席がないというので、勉はお客のいない窓際の一隅めがけて進んだ。椅子が固い。勉の斜向かいに座る昔の友は「だめか」と灰皿を手にしている。ダメといったらどうすると勉が返すと、徳川はいたずらっ子が作るのと同じしらじらしい顔で、バーカ向こうの方が禁煙は厳しいんだ、もう吸わなくなって5年は経つぞと指を折ってきやがった。そのうち徳川は、勉のアイスコーヒーの減りが早いと言いだした。徳川によれば、東京は何でもせっかちだという。アイスコーヒーをすするのが早いのは暑いからで、東京とは何ら関係ない、そもそも俺はあの自販機前でアイスコーヒーを買おうかどうか迷ってたんだと勉が言うと、そもそもコーヒーというものはもっと味わって飲むもんだ、缶の甘ったるいのなんて飲むもんじゃないと、徳川は欧州帰りの風を吹かしている。減っていく勉のグラスとは反対に、徳川のは氷が解けた分、むしろ水位だけは上がっていた。店から見ると、ビールの窓際族よりもたちの悪い客に違いない。