帰国していることは勉以外まだ誰も知らないという、ついさっきまでこの一生で次回いつ会えるのか全くもって未定だった旧友と、こんな電器屋の陰の、こんな奥まった小さなテーブルを挟んで再会している現実に首をひねりながら、勉は徳川の薄くなったコーヒーを見ている。
いくら腕に自信があるからといって、いつまでも時代遅れの速記者になんかこだわっていていいのか。徳川が国を出た頃にはまだかけらすら存在すらしなかった建設中の東京スカイツリーは、窓の外で日に日に高くなっていく。コンピューターは処理速度を上げながら、秋葉原の店先で配置を日ごとに変えていく。ゲームセンターでのスティックさばきを見たとき、勉には徳川の生活が透けて見えた気がした。散歩のふりをしてさりげなく飯田橋の職安を紹介するのが友のためかと思いながら、さりとてきっかけがつかめず、アイスコーヒーのお代わりばかりが多くなる。しかも、勉が聴きたいのは向こうでの生活なのだが、今の徳川は東京の方が目新しく映っているらしい、新宿の居酒屋だとか吉祥寺の古着屋の話ばかりが続く。そうして、やっぱり自由が最高だと、学生時代と変わらぬ台詞をうそぶいている。
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