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海の紅月くらげさん
シンデレラ役に選ばれて、九條くんの本性を知って、数日が経った。
いくら考えても、私がこの役割から逃れる方法は見つからない。
そして平穏とは程遠い生活に未だ慣れるのは難しい。
「——っ、!?」
トイレの個室に入った瞬間、頭上から雨が降ってきた。
……バケツと共に。
水が降ってきてから数秒の間、頭が働かなかった。
少ししてやっと思考が働きだす。これは誰かが故意によって起こしたことで、私がここに入っていると知っていて水をかけてきたんだ。
床に転がるバケツを見つめながらため息を吐く。髪の毛に滴る雫がぽたぽたと床に落ちて、肌にまとわりついた。
「ざまあみろ」
女子の声で確かにそう聞こえてくる。そして複数の甲高い笑い声も。
原因はシンデレラの件なのはわかっている。幸い前の授業が体育で、制服に着替える前だったので良かった。
でも、このびしょ濡れの姿で更衣室まで歩くのはしんどい。
「はぁ~……」
だけど行くしかない。このままここにいたって仕方ないし。
びちゃびちゃと足音を立てながら、俯いて廊下を歩く。
「なにあれ、やばくない?」
「いじめ?」
こそこそ女子生徒達の話し声も聞こえてくる。やっぱりこの光景はどう見てもいじめに思われるだろうな。
「ましろ?」
背後からした聞き覚えのある声に振り返る。
「お前、なんで濡れてんの?」
そこにいたのは目をまん丸くして不思議そうに私を見ている和葉だった。
「風邪ひきそうだな」
和葉が呑気なことを言いながら、珍しそうに私の濡れた髪の毛を触ろうと手を伸ばしてくる。
その手を私は払いのけた。
「……っやめて」
八つ当たりだってことくらいわかってる。
だけど、どうして知りもしない子達に嫌がらせされたり、影でこそこそ言われたい放題されないといけないんだろう。
悔しくて、悲しくて……気が緩めば出てきてしまいそうな下唇を噛み締めて涙を必死に耐えた。
和葉が顔を顰める。払われて行き場をなくした手は私の腕を掴んだ。
彼がいると周りからの視線が増して、余計に目立ってしまう。
「ごめん、……放っておいて」
和葉の手が私の腕から放れる。
私は背を向けて、なにも言わずに更衣室へと急いだ。
和葉に酷い態度をとってしまった後悔と、いじめがエスカレートしていく不安に息苦しさを感じていた。
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