私はこの国の公爵家の息子として生まれた。
両親は何代も続く公爵家をとても大切にしていた、そう、それは息子である私よりもだ。
私は両親に厳しく躾けられ、幼い頃から公爵家のものとして恥じない生き方を強いられてきた。
幼い頃は涙を流した日もあったが、10歳もすぎればその生活にも慣れ、それが当たり前になっていた。
そんな両親を早くに亡くし私は10代でこの公爵家を継いだ。
他の貴族に舐められないようにと自分を律しながら生きてきた。
公爵家の為になるならばと侯爵家の一人娘を嫁に貰った。
何不自由ない生活をさせていたが、何が気に入らないのか嫁に来たプルメリアはいつも不満そうにしていた。
プルメリアの仕事は世継ぎを産むことそれを叶えてやったのにプルメリアはその息子から目を背けた。
私からも背けユウリを産んでからその仕事も放棄するようになった。
ユウリがいるからまぁいいと私もプルメリアをいないものと好きにさせていた。
そんなある日プルメリアが階段から落ち意識が戻らないでいた。
「ウィリアム様、プルメリア奥様の様子を見に行かれた方が」
秘書のアルバートにそう言われても今に行く気になれない。
彼女には部屋に絶対に入るなと言われたからだ。
まえに約束を破り部屋へと近づいたなら大声をあげてかんしゃくを起こした事があった。
それを思うと近づこうとは思えなかった。
医者も呼び十分に役目は果たしていると自分を納得させて私はプルメリアの様子を見に行かなかった。
そして3日後無事に意識を取り戻したと聞き、少しばかり安堵する。
アルバートからの報告によると頭を打ったようで記憶がない部分があると言っていた。
そして何故かわからないが生きる気力を失くし食事もまともに取らないと言っている。
「全く、意識が戻っても迷惑をかけてくれる」
ため息を付きしばらく様子を見ることにした。
しかし何日かするとプルメリアの様子が変わったらしい。元気になり、何故か今まで見向きもしなかったユウリにご執心との報告に耳を疑った。
しかし実際にユウリに近づく姿をみて報告が嘘では無いことを知る。
その後プルメリアに久しぶりに会うと彼女は私の事を忘れていた。
普通に瞳を見つめ挨拶をしてきた。
彼女の顔をじっくりと見たのは本当に久しぶりだった。
それから彼女のユウリへのつきまといは続いた。しかし肝心のユウリが拒絶しているようで彼女のしている事は無駄だろうとほっておいた。
しかしいつの間にか彼女はユウリの心の壁を壊してしまった。
「ユウリ様はここのところプルメリア奥様とご一緒に就寝しております」
ユウリには私と同じように公爵家のものとして教育をしなければならない。
だからこそ一人で何もかもさせていたのにプルメリアがそれを妨害している。
「はぁ、彼女はやはり私への嫌がらせをしたいのだな」
ユウリに近づいたのもきっとその為なのだろう。
しばらく無視していれば飽きるか戻るだろうと思っていたがプルメリアの行動は変わらなかった。
私はプルメリアを呼び出し馬鹿な事をやめさせようとした。
いつもなら顔を背け私の話など聞かずにいる彼女だったが部屋に来た彼女はじっと私を見つめて話をしている。
たまに微笑む顔に初めて会った頃を思い出す。
確かに彼女は美しい娘だった。
ユウリを産んでもその美貌は変わらない。
年下のはずなのに今話している彼女は何故か年上に感じた。
いつも通り話をして終わらせようとしたが、彼女は譲らなかった。
それどころか私まで一緒に寝ようと誘ってきた。
呆れて何も言えずにいると彼女はサッサと約束だと言って部屋を出ていった。
「アルバート、彼女は本当にプルメリアか?」
「は、はいそのはずです」
私達は今の光景を信じられずにいた。
そして次の日になり私は部屋へと向かう。どうせ行けば部屋に入るなと喚き散らすと思っていたが思惑は外れた。
プルメリアは私を笑みを浮かべ招き入れベッドに横になれと言ってきた。
彼女の作戦を知る為にも今は大人しく言うことを聞いてみようと横になる。
すると隣にユウリが寝かされた。
ユウリは体を固くして私に触れないようにと身を縮めていた。
そんなユウリにプルメリアは場所を変わると言い出した。
私から離れたユウリは明らかにホッとして肩の力を抜きプルメリアに身を預けている。
「2人とも私に近づいて」
本が見えるように覗き込めとプルメリアに近づいたようだ。私もユウリにならい少し近づく。
プルメリアが開く本に集中して彼女の声に耳を傾けた。
彼女の声は私の心を揺さぶった。
話の流れの中悲しげな時は悲しそうに楽しそうな時には声を弾ませ読むその声に、いつの間にか本の中に入り込んだ気持ちになった。
次は!と思っていると、話が唐突に終わる。
聞けばユウリが寝ておりこの話は明日に持ち越しになるそうだ。
少し残念に思い私もそろそろ部屋を出て行こうかと思っているとプルメリアがまた明日も来ないかと誘ってきた。
本当に彼女は何を企んでいるのだろう?
答えられずにいると彼女はユウリを愛おしそうに撫でる。
「こうやって親子で寝るもいいでしょ」
ユウリを抱き寄せると気持ちよさそうな顔をした。
そして私の体にも頭を寄せてくる。
その温もりに戸惑ってしまう。
私には感じたことのない温もりだった。
そう言えば彼女は悲しそうな顔をして私の子供の頃に出会いたかったと訳の分からないことを言い出した。
頭がおかしいのかと笑おうと彼女を見たがその瞳は嘘などないように見える。
彼女は本気で私を慰めようとしているのか?
一体何を慰める?
戸惑う私に彼女は手を伸ばしてきた、そしてか弱い小さな手で私の頭をユウリのように撫でた。
「頑張ったね」
微笑み私を撫でる彼女は女神に見えた。
年下でひとひねりで倒せそうな彼女が何故かこの時は大きく見える。
「な、なにを」
振り払おうと思うのだが体が言うことを聞かない、プルメリアの温もりを感じていたと思ってしまった。
すると彼女は私の目を閉じさせる。
そして優しい声をかけながら頭を撫で続けた。






