朝、柔らかな陽射しが窓から入ってくる。
何とも暖かく、そのままずっと寝ていたい気持ちはあるものの、今日もしっかり起きることにしよう。
ベッドから出て、まずは大きく伸びをする。
んー……。よし、今日も一日頑張ろう!!
さてと、まずは着替えをして――
「……ん?」
視界の隅に、昨日作った『伝説キノコの菌床』が目に入る。
何となく遠目ながら、昨日とは違った雰囲気のような気がしてならない。
近くに寄って見てみると、菌床の上に小さなキノコが生えていた。
「お、おぉ……?」
え? もしかして、上手くいっちゃった?
ひとまず鑑定しておこう。かんてーっ。
──────────────────
【ガルルン茸】
神の慈悲により人間に与えられた祝福のキノコ。
疫病への抵抗力を上げる薬を作ることができる
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………あれ?
一行目の説明、昨日と変わってない……?
って言うかこれ、エミリアさんが創作してた文章をパクってない……?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「エミリアさん、お話があります」
朝食後、食堂を出てからエミリアさんを呼び止める。
そしてそのまま、私の部屋に連行する。
「アイナさん、どうしたんですか?」
部屋に置いていた菌床を改めて確認すると、さっきよりもキノコが少し大きくなったようにも見えた。
「これをご覧ください」
「わっ、キノコ! ……もしかしてこれ、ガルルン茸ですか?」
「はい、昨晩ちょっと菌床――
キノコを育てるアイテムを作ってみたんですが、昨日の今日でこの通りです」
「さすがアイナさん!」
「……という、いつもの流れは置いておいてですね。
私がお見せしたいのは、こちらなのです」
そう言いながら、私は鑑定のウィンドウを宙に出した。
──────────────────
【ガルルン茸】
神の慈悲により人間に与えられた祝福のキノコ。
疫病への抵抗力を上げる薬を作ることができる
──────────────────
「鑑定なら昨日見ましたけど――
……って、えぇっ!?」
「『神の慈悲により人間に与えられた祝福のキノコ』……って、何か見覚えありませんか?」
「……はい。
前半のところは、わたしが口走った……ような、してないような?」
「してましたね!」
「ですよね!
……あれ? それが何で、鑑定に出てくるんですか?」
「私も分かりませんけど、昨日エミリアさんが言ったアレですかね?
『大いなる存在』がそれっぽい名前を付ける……ってやつ。
それが説明文にも反映されて……?」
「えぇ……?」
「でもこれで、エミリアさんもガルルン教ですね!」
「むぐっ」
「ところで説明文の『神』って何でしょうね?
単にエミリアさんの創作に乗っただけなのか、本当に神様のご慈悲なのか……」
「これは難しいですね……!
ルーンセラフィス教に照らし合わせれば、絶対神アドラルーンと六属性の神々のいずれかになるのですが……何せ、ガルルンですからね」
「はい、何せガルルンですから」
「……もしかして、本当にガルルン神がいらっしゃるのかも……?」
ガルルン神……ッ!!
そもそも最初からガルルン神という存在がいて、私は知らず知らずのうちに、その使命に巻き込まれていた……?
いや、そもそも私が転生のときに会った神様の名前が、『ガルルン』だったのかも……?
――それは何か、イヤだなぁ。
「多分、絶対神アドラルーンがちょっとしたお茶目でガルルンの名前を使っただけでしょう。
うん、やっぱり深くは考えないことにしますか」
「絶対神アドラルーンが……、ちょっとしたお茶目……。
わたしにはちょっと、想像が付きませんね……」
仮に私が会った神様が絶対神アドラルーンだったとしたら――
……少しくらいお茶目なことをしても、そんなにはおかしくないかも?
いかにも神様って感じではあったけど、何ていうか優しそうだったしね。
めちゃくちゃおじいちゃん言葉だったし。
でもエミリアさんのイメージは、きっととても厳粛なものなのだろう。
何せ『絶対神』だからね。名前からして|厳《いか》ついのだから、これは仕方ない。
「まぁ、今度会ったときにでも聞いてみましょう。会えたらの話ですが」
「あはは、そういうことにしておきましょう!
でもわたし、神様にお会いしたら多分失神しちゃいますよ」
「そう言うものですか?」
「そう言うものですよ!」
……ふむ、そう言うものなのか……。
でもそれって、怖いから失神……とかじゃなくて、感激して失神……みたいなことだよね?
そういう存在がいるっていうのは、ある意味では羨ましいかなぁ。
私には、特にそういうものはないし――
……ああ、もしガルルン神っていう、ガルルンの見た目そのままの神様がいたら感激してしまうかもしれない?
でもそのときは失神するんじゃなくて、やっぱりパンチを入れちゃいそうだよなぁ……。
ガルルン神にはぜひ、そのパンチを優しく受け止めて頂きたいものだ。
「さて、そんなわけでガルルン茸は順調に進みそうです!
これ、ガルーナ村に送って育ててもらおうかな、って思うんですよ」
「なるほど、ガルーナ村の特産が増えますね!」
「これと木彫りの置物で相乗効果を生み出して……。
あとは、美味しい野菜で疲れを癒して……」
「おお、結構盛りだくさんになってきましたね。
わたし、ガルーナ村に戻りたくなってきました」
「そうすると、私とお別れになりますね!」
「ではやめておきます!」
「はい!」
エミリアさんと一緒にいられるのは、私が王都を発つときまで。
そう言えば、すぐに戻ってくる用事でも、それは『発つ』にカウントされるのだろうか。
……多分、カウントされちゃうんだろうなぁ……。
「それではガルルン茸は、ガルーナ村に送って育ててもらいましょう。
一応、死滅するのは避けたいから、一部は私のアイテムボックスに保管しておくことにして……。
あとは『野菜用の栄養剤』を作って、手紙を書いて――」
「やることが多いですね。
それでは午後にでも、冒険者ギルドに行ってみますか?」
「そうですね、そうしましょう。
エミリアさんも付き合ってもらって良いですか?」
「はい、もちろんです!
いやぁ、それにしてもガルルン教が進み始めましたねー」
「ガルルン教というか、ガルルン茸というか……。
あ、メルタテオスのガルルン教のブースにも、このキノコを展示したいですね」
「キノコを展示……。木彫りの置物の横に、キノコを展示……」
ぶつぶつと、考えながら呟くエミリアさん。
そんなにおかしいかな……と思って自分でも想像してみると、確かに、何とも微妙な光景が想像できた。
「……やっぱり止めましょう。
あのブースは、引き続きシンプル・イズ・ベストで」
「それでは、ガルルン茸はガルーナ村に送るだけ、ということで!」
「はい! それでは昼食後、よろしくお願いしますね」
「分かりましたー。
用事が終わったら、ガルルン教の法衣を作りに服屋さんに行きましょうね!」
「行きません!」
「行きましょう!」
「行きません!」
「行きましょう!」
「エミリアさんも作るのであれば!」
「むぐっ」
ふふふ。ルーンセラフィス教の司祭が、ガルルン教の法衣を作るわけにもいくまい。
……さて。
とりあえずそれは置いておいて、早めに準備をしておこうかな。
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