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____おしやわせに。
👑「すちくんっ!」
太陽のような笑顔が周りを明るく照らす人だった。田圃ばかりの田舎道から少し外れた裏道を走って、毎日会いにきてくれた。
🍵「みこちゃん、」
お月様みたいな微笑みが周りを圧倒する人だった。田圃ばかりの田舎道から少し外れた裏道を少しだけ走って、毎日会いに行った。
🍵「あ、そういえば今日、母さんがお団子をくれたんだ。持ってくるね、」
👑「お団子…?!、ええのっ、?」
🍵「うん、俺は甘いのそんなに好きじゃないから、笑」
「ちょっとだけ待ってて、」
👑「うんっ!」
すちくんは”良家の御子息”ってやつだった。
綺麗な西洋風の白いしゃつに、髪の毛はとりいとめんとというやつでサラサラだった。
🍵「はい、」
コトンとお皿が置かれたのと同時に、甘い香りが広がる。
👑「わぁ、っ」
🍵「こっちは三色団子で、こっちはあんこだよ」
👑「きれぇ、すちくんの髪色とおんなじやねっ」
三色団子の緑色を見つめながら、目を輝かせてこちらを見つめてくる。
🍵「!…、ふふっ、うん」
いつも、他愛のない話をしてた。
それが何よりも楽しかった。
いい匂いのする西洋風のお洋服も、
お勉強にと渡される分厚い本も、
おやつと言われた食べ物も、
学校にいる同級生も先生も、
全部全部つまらなかった。
みこちゃんといる時間だけが特別だった。
👑「!、暗くなってきちゃった、」
🍵「本当だ、」
👑「そろそろ帰らなきゃ、」
🍵「…うん、また、ね」
👑「うんっ!、また来るな!」
🍵「…うん、待ってる。」
待っているばかりだった。今も昔も。
君は、いつも俺の先をいく。
それがどうしようもなく情けなかった。
👑「…すちくん、あのね、」
あついあつい夏の日だった。
少しだけ曇ったような表情を見せたあと、すぐに笑顔になった君。
👑「…俺、特攻するんよ」
🍵「…え、」
👑「…近所の友達もみんな、行くって言うてたし、俺も、みんなのために頑張りたいな〜って!」
「それに、訓練するようになったらご飯出してもらえるから、家族の負担も減らせるかなって!」
🍵「…どうして、」
👑「へ、?」
🍵「特攻…って、みこちゃん、何するかわかってるの、?」
👑「…お国のために、敵につっこむこと、?」
🍵「…っ、だから、それがどういうことかわかってるの?」
👑「ぅえ、…?なんですちくんおこってるん」
🍵「…零式艦上戦闘機、」
👑「へ、?」
🍵「ここら辺の訓練場ではこれを使った特攻を目的とした訓練が行われてるんだよ、」
「高い機動性と航続距離を持つ。元々は戦闘機として設計されており、爆弾を搭載して体当たり攻撃に使用」
👑「、?、す、すちくんは物知りやねっ」
「おれ、ばかやから何言っとるかさっぱり、笑」
👑「、?…、すちく」
🍵「爆弾を積んで突入するため、機体を軽量化し、帰還を前提としない改造がされることも多々ある。」
「…どう言う意味かわかる?、」
👑「…、?、うんっ、頑張るよ?」
🍵「違う、…頑張っても意味なんてないんだよ、」
「特攻なんて意味がないんだ、何人もの人の思いを犠牲にして、人間を、人を、道具としかみてない…、」
👑「…、すちく、」
🍵「…どうして、どうして、みこちゃんが特攻しなくちゃいけないんだよ、」
👑「…、すちくんは、いやなの、?」
🍵「嫌に決まってる、どうして、」
👑「…そっかぁ、…でもね、みんな、特攻するの、かっこいいって褒めてくれるんだよ」
🍵「っ…、かっこよくなんてないんだよ、意地汚くても、泥臭くても、生きているほうがよっぽどいい、」
👑「…、そ、っかぁ…」
🍵「…、どうして、特攻なんて、」
👑「…、ごめんね、」
🍵「…、」
👑「…でもね、俺、嬉しい、」
「…すちくんが言ってること、俺には難しくて、よくわかんないんだ、ごめんね、」
「でもね、特攻をすれば、みんな褒めてくれるし、母さんをいじめてた近所の人も、俺が特攻することを知ってからは、やさしくしてくれるんだ、」
「だからね、俺は嬉しいよ」
🍵「…、俺は、嬉しくなんてない、ちっとも。」
「…君は行かなくていいんだよ、君は、ずっと、」
____俺の隣で笑っていてよ。
🍵「…、っ」
👑「それでね、訓練の帰りには、毎日寄るから、っ!いつもより会える時間減っちゃう時もあるっておはなしっ!」
🍵「…、わかった」
わかってなんてなかった。
毎日、可愛らしい顔に煤をつけて。
時には、訓練官につけられたというたんこぶまでおまけに。
👑「ぃて、っ…すちくんしみるよぉ、」
🍵「駄目だよ、きちんとしないと、お嫁に行けないんだからね」
👑「え〜?笑、ふふっ、俺男やよ?、すちくんへんなのっ笑」
「俺のことお嫁にもらってくれる人なんておらへんや…」
🍵「…いるよ」
👑「、ぇ?、」
🍵「…俺が貰いたいの、みこちゃんのこと。」
👑「、!…へ、/」
🍵「…ほら、今日はキャラメルだよ」
👑「!、ぇへへ、おれこれだいすきっ!」
🍵「…そう?よかった、笑」
そんな日がしばらく続いたある日。
👑「…すちくんっ!」
から元気なくらい明るい君の一言から始まった。
👑「…俺、明日出撃らしい、」
🍵「…、へ」
いつも通り、君が大好きなキャラメルを用意してた。それが手から滑り落ちた。
👑「…、いってくるね、!、」
「ほんとは、っ家族以外にはあんまり言っちゃ駄目なんやけど、すちくんはとくべつやから、」
🍵「…、ねぇ、みこちゃん」
👑「、?どしたん」
🍵「逃げちゃおうよ、」
最低な言葉だった。何もかもが時代にそぐわない俺の、馬鹿げた、阿呆らしい、最後の希望。
👑「…、ふふっ、すちくんはへんなこというね、笑」
🍵「…、変じゃない、できないなんて言わないで、俺も一緒に行くよ、だから」
👑「だめ、」
🍵「…、っ」
👑「すちくん、今までありがとう…」
「…ぇへ、なんか改めていうとはずかしいね、」
🍵「…ありがとうなんて、欲しくない、」
「ありがとうなんていらないから、俺のこと嫌いになってもいいから、俺のこと忘れてもいいから、ッ」
「だから、…特攻なんてしないで、」
👑「…すちくん、」
🍵「!…、」
👑「本当にありがとう、」
🍵「、…、ッ」
そう言ってから俺を見つめる瞳は、子供じみた俺なんかの何倍も大人びていて、真っ直ぐに、すべてを自分で決断した眼だった。
🍵「…、」
👑「…だからね、今日は訓練官がキャラメルをくれたの、」
「ほら、今日は俺がすちくんにこれをあげるね、っ」
「いつもと逆だ、不思議な感じ笑、」
🍵「…、っぃらない、いらないから、みこちゃんが、みこちゃんがずっといてよ、」
「俺は、みこちゃんがいたらどうでもいいんだよ、」
👑「!、…もぉ、…すちくん、」
🍵「…、みこちゃんがいなくなるなんて考えられないんだよ、」
「…ねぇ、みこちゃん、俺みこちゃんがすk」
👑「…、」
静寂の中、細くて少しだけ焼けた指が、俺の口元に添えられる。
👑「それはだめ、」
「…、ぜったいにだめ、」
🍵「…、っ…どうして、」
👑「…気のせいだよ、俺なんかにそんな感情を持つのは間違ってる。」
🍵「…、間違ってなんてない、」
「どうして、なんで思いすら伝えちゃダメなの?」
👑「…、すちくんは、ちゃんと、しやわせになれるから、」
「だから、だめ、いつか後悔する日が来る、」
🍵「…なにそれ、そんなわけないじゃん」
👑「…、それでも、ダメ」
「今度それ言ったら俺もう帰るからね、っ」
🍵「、っなんで、」
👑「なんでも、もうだめ、!普通に話そうよ、いつも通りっ!」
🍵「…普通になんて無理だよ、」
👑「なんでよ、!笑…できるよ、すちくんなら」
🍵「…、できない、」
「俺は、みこちゃんみたいに大人じゃない、」
👑「…、俺だって、大人なんかじゃないよ、」
今だって、手先が少しだけ震えてる。
動悸が激しくて、うるさくてしょうがない。
でも、あなたの声を聞いたら、少しだけ安心するの。ここは、俺の居場所なんだって。
大好きなの、ごめんなさい。
意気地無しなの、俺。
大好きなあなたに、好きって伝えちゃったら、もう戻れないと思うの。
逃げちゃおうなんて言わないでよ。
俺は、あなたにそんなふうに思ってもらえるような人じゃないの。
何度も食べ物を盗んで、よくわかんないやつの相手もして、汚いヤツなの。
だから、俺のことを好きになんてならないで
どうか誰かと、幸せになって。
俺なんか比べ物にならないくらい綺麗で、優しくて、あなたにぴったりの人が、絶対にいつか現れるから、その時、俺が貴方の中に少しでも過ってしまわないように。
綺麗な貴方が、純粋に愛せるように。
幸せであれますように。
なんて、心の中で取り繕ってみても、半分本当で半分嘘なの。
🍵「…、っ」
確かに、当たり前だ。俺と同じ年齢で、国に死ににいけなんて言われて、気が狂ってしまってもおかしくないんだ。
👑「…、もーっ、こゆ話やなの!笑」
「普通に話そうよ、キャラメルでも食べながらさ」
「…、ほら、好きな子の話とか?笑」
🍵「…みこちゃんが、それはダメって言ったんじゃんか、」
👑「…、ちがうよ、将来のお嫁さんの話!、」
「すちくんはきっと、綺麗な人と結婚するんだろうねっ!」
「聡くて、美しくて、3歩後ろを歩く謙虚さもある、絶対に素敵な人だと思うよ!」
「だって、すちくんのお嫁さんになる人だもん、そんくらいじゃないとダメだよね?笑」
🍵「…、そんな人、やだ」
「俺は、バカで、太陽みたいに明るくて、俺の言うことなんて聞いてくれない人がいい、」
👑「…、すちくんは、へんなひとがすきやなぁ笑」
🍵「…変でもいい、それでも、その人しか俺は好きになれない。」
👑「…、」
「…、ねぇ、すちくん、明日、俺いつもの訓練場の近くのとこから出発するの」
🍵「…、うん、」
👑「暇だったら、来て、。」
「会いたい。」
🍵「…、っ、うん」
👑「…そろそろ、家族とも話さないとだから、」
🍵「…、わかった、」
👑「うん、また、ね。」
🍵「…、っ、うん、また。」
熱い熱い夏の日だった。
早起きして、君がいるはずの場所に向かった。
数十個の小さな戦闘機が並んでいる。
10代後半あたりの男性が多くいる中、ひとりだけ、背丈の小さな君がいた。
周りには、少しだけみたことのある君の家族と、近所の小さな子供たちと、その親。
祝福の拍手を送る近所の奴らの笑顔は、いつまでも俺の脳裏に焼きついて離れない。
呪いのようだ。
顔の引き攣った君のお母さんと、何が何だかあまりわかっていないまだあまりにも幼い君の弟妹たち。
俺に気づいた君は、大きく身体を動かして手を振ってきた。
すぐに君の元に走っていった。でも、伝えたいことは何も言葉にはできなくて。
👑「…、すちくん、きてくれたんや、」
🍵「…、みこちゃんが来てって言ったんじゃんか。」
👑「へへ、うん…、でも、来てくんないかとおもって…、」
「…、むしろ、そっちの方が良かったのかも…、」
🍵「なんで、…、!…さ」
大きな瞳には、めいいっぱいの涙が溜まっていた。
👑「…、ぁ、〜だめだ、…、」
「ほんま、おれだめだなぁ、…、ごめん、すちくん、」
🍵「…、っ、」
👑「!、/」
🍵「…、誰も、みてないよ。」
👑「…、ぅん、」
あたたかかった。ずっと、ここにいたかった。
👑「…、ありがとう、すちくん、」
🍵「…、うん、」
👑「…ね、最後まで、おってくれる?」
🍵「…うん、でも、家族とはいいの?」
👑「うん、…母さん、仕事あるし、」
「弟妹たちも、…まだ小さいから眠たがってて、もう帰ってもいいよって、言ったから、笑」
🍵「…、そう、」
👑「へへ、最後の最後にひとりはちょびっと淋しいなんて馬鹿みたいかな、笑」
🍵「…、うん、ほんとバカ」
👑「!、な、ひつれい、っ!」
🍵「ほんと、バカ。」
「…、でも、そういうとこだよ。」
👑「!、…、」
🍵「バカで、太陽みたいに明るく振る舞うくせに、ほんとはビビリで、嘘つきで、俺の言うことなんて聞いてくんない、」
「生真面目で、家族思いで、思いすら伝えてさせてくれない。」
「…、俺のこと、好きなくせに。」
👑「!、…、」
🍵「なんちゃって、笑」
👑「…、」
🍵「…、あー、ごめん、ちょっと調子乗ったかも、」
「忘れて、全部嘘。笑」
👑「…、ぅん、。」
最後の放送が鳴る。
内容は、準備を始めろとの合図。
👑「ねぇ、すちくん、っ」
🍵「?、」
👑「…、おしやわせにっ、」
🍵「…、うん。」
それ以上は伝えなかった。
少し経って、日常が戻ってくる。
それでも、いつも君と話した場所から見える景色は、色褪せていて、甘いはずのキャラメルは、なんの味もしない。
少し肌寒くなってきた季節。
郵便受けに、俺宛の手紙が入っていたと母さんに伝えられ、その手紙を手に取る。
宛先には、「すちさまへ」
改まった言葉なのに、漢字が使われてないことに少し違和感を覚えながらも、読み進める。
いつも、ありがとう。 きゃらめるも、おだんごも、ほんも、ゆうひも、ぜんぶ、すちくんがおしえてくれた。 すちくんといると、いつもあたたかかった。 ありがとう、
おしやわせに。
拙い文字で、最後には、
俺が、だいすきで、たまらない、君の名前。
みことより。
君は、最後まで俺の言うことなんて聞いてくれなかった。
一緒に逃げてくれなかったし、思いさえも伝えさせてくれなかった。
だから、俺だって君の言うことなんて聞いてやらない。いや、聞いてあげられない。
幸せになんてなれるわけがない。
君以外を、好きになんてなれないんだ。
🍵「あー、…、ほんと、あいしてる、」
目の前の手紙の文字が、少しだけ滲む。
あの日君がくれたキャラメルだけは、味がした。甘かったけど、しょっぱかった。
また少し経った頃だった。
君のお母さんが俺の家を訪ねてきた。
ぼろぼろの封筒を持って、小さな子をおぶって。
母「…、これ、貴方に、、みことから。」
🍵「…、え、」
母「…、みことは、いつも、貴方のことを楽しそうに話してました。」
「最後の夜、だけじゃないんです、ずっと前から、貴方へ、お手紙を書いてて。」
「…、私、学がないから、みことに文字を教えてあげられなくて、読みにくいところもあると思うの、」
「だから、あの子、1番綺麗にかけたって手紙だけを郵便に出してて、私、同じことをずっと書いてるんだと思ってたんです、でも、ちがったんです、」
「…、たまたま、見えたんです。、あの子の思いが、」
「…、読んであげてほしいんです、これを読むのは、貴方がふさわしいんです。」
🍵「…、ありがとう、ございます、…」
部屋に入って、いつものあの場所に座って、
封筒なら手紙を取り出す。
何十通もの紙に、いくつもの文字が連なっている。内容は、あの日読んだあの手紙に似ているものが多かった。けど、それだけじゃなかった。
その一つ。他のものよりもしわがついて、よっていて、しみがついた手紙が目についた。
すちくんへ、
すき、だいすき、あいしてる、
いいたい、すちくんといっしょにいたいって、こわいって、ひとりにしないでって
にげようっていわれたとき、ほんとはそうしたかった、うれしかった、
でも、おれは、いくじなしだから、まわりのめがこわくて、できなかった
すきって、いえなかった
いったら、もどれないとおもった、
さいごまで、うそつきでごめんなさい
ほんとは、あなたにすきっていってもらいたかったし、あなたのことがすきでたまらなかったの、ほかのひととしあわせになんてなってほしくなかったの、
すきなの、だいすき、
でも、こんなの、めいわくだから
こんなの、まちがってるから、
でも、あいしてる
あいしてる、
ほかのひととしあわせになんてならないで、
おれのこと、わすれないで、
すきって、いって
書き殴りのように記された内容は、最後に行くほど筆圧は強く、でも、弱々しく震えた手元でかかれたことが伝わるくらい、揺れていた。
🍵「…、言い逃げなんて、ずるいよ」
「…あいしてる」
しあわせになんてなれやしないし、きみいがいなんてすきになれやしない。
最初で最後の、最低で最悪の、君からの呪いが、心地よくて、憎たらしくて、あまりにも、愛おしい。
コメント
4件
たくさん泣きました 素敵な作品をありがとうございます…✨️
感動系書くの上手すぎませんか?!🥹こんなの泣かない人いませんよ~😭