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4 - 楓原万葉に息子が居たらしい

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2024年04月14日

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やけくそに書いた話。書く気はあります






楓原が、死んだらしい。

死んだと言えども僕は彼と親しかった訳では無いし、…どうでもいいことだ。

幸いにも楓原の姓が耐えることは無かったらしい。そこそこに嫁をとり、旅を辞め、家業を継いだらしく息子も産まれたらしい。

その息子も今年で元服を迎えるそうだ。

(…幸せに、眠れただろうか)

あの楓原が惚れた女のことだから、相当いい女なのだろうな。最後の最後まで楓原に尽くして、死ぬその瞬間まで手を握っていたかもしれない。

楓原も、惚れた女と子供に囲まれて大層満足した気持ちであの世へ、逝ったことだろう。

僕がこんなことをおもっても、していい思っているわけではない。

でも、これだけは。

今まで顔を見にも、会いにだって行っていないのに、手の平返しもいい所だけど。

墓参りにでも、行ってやろうか

僕は丹羽の死にも、墓にも立ち会ったことは無い。だから、せめてその血を引く楓原の墓には行きたかった。

….楓原の妻が、僕を追い返したって何も言えない立場だけれど。

◇◆◇◆◇◆◇

「……、」

結局、本当に、来てしまった。稲妻は雷雨が引いたあとのようなピリついた風が気に食わない。

ただ歩いて、あわよくば通りすがりに楓原の墓の位置でも聞き出せたら。なんて思っていたけどまあそんなことは無い。

ただただ歩き続けて、一つの場所へ向かう。

鳴神島の、楓原の親友の墓へ。

◇◆◇◆◇◆◇

鳴神大社の方へは断じて近づきたくなかったのだが、これは致し方ない。

神社の方は徹底的に避け、遠回りで来たせいでだいぶ時間を食ってしまった。

だがもう目の前寸前の墓を見れば全部どうでも良くなる。

楓原が親友を忍んで刺した刀とは違う、もうひとつの刀。

これは一心伝の刀だ。…ああ、よく打てている。

丹羽が打っていた物と似ている。

じわりと涙が滲んで、視界が見えづらくなるがそんなことはどうだっていい。手の甲で乱雑に拭う。

二つの刀の両脇には灯火が消えた、ふたつの神の目。

「元気にしてたかい」

返事が返ってくるなんて思っても無いのに、楓原と、その親友がそこにいるかのように言葉を紡ぐ。

「初めまして。僕は….放浪者。楓原の一族を滅ぼし掛けた人物さ。…はは、そういえば君は僕を赦してくれたんだっけ」

十数年前のことを思い出す。

君は馬鹿だよね。あのことを打ち明けた時、君が全てを終わらせてくれると信じて願っていたのに、お主はそんなこと望んでいないであろう〜だって。…そんなわけない、僕は、ずっと….

過去を追随しているうちに、だんだん立っているのも嫌になって、へたりと座り込んだ。

「….僕は楓原の先祖を殺した人物なのに、その人の死にも立ち会ったことがなくてね。だからその人の子孫である楓原の墓にはきてみたくて。」

楓原みたく僕が墓をつくってやればいいのかもしれない。….数百年経ってから?はは、流石にやだよね。丹羽だってさ。

膝に顔を埋めて、腕で頭を隠すと視界が暗くなった。当たり前と言えば、当たり前だけれど。

ぐす、と鼻をすする音がする。啜った気は無いのに、無意識のうちに。

「っあ、もちろん、手持ち無沙汰では無いよ?きみ、君達の、口に合うかは….分からないけれど….酒を買って、きたんだ。これはスメールのものだけど、気に、いると思うよ。僕には…少し甘すぎた。」

言葉が上手く発せない。気管支が狭まって、意味もない嗚咽が出そうだ。

「……どう、かな。不味くは、ないんじゃないか」

懐から小さめの酒瓶を取り出して、ゆっくりと立ち上がる。

少し上の方から刀が突き刺さっている土の部分目掛けて酒瓶を傾ける。

いつの間にか勢いが無くなり、ぽたぽたと滴り出した酒を垂直にし、蓋を閉める。

しばらくそのまま硬直していたが、また丹羽や楓原との思い出がフラッシュバックして、座り込んだ。

「…..ごめん、っ……ごめ、」

ああ、だめだ、だめだな。今更涙が溢れて、止まらない。こんな風に泣いたのは何年ぶりだ。

地面に蹲ってただ泣きじゃくっていると、背後よりかは遠いけれど、どこか近くから声が聞こえた。

「な、何故なにゆえお主は泣いているのかっ?!」

濡れた視界でも焦点を合わせようと振り向くと、ばちり、と雷が散る音がした。

「ぐ、具合が悪いのでござるか?よもや、どこかが痛むなど….?!」

雷の音がしたかと思えば、眼の前に人が現れ、忙しなくこちらに問いかける。

ぐちゃぐちゃになった視界で相手の方を見ているけれど、涙が滲んでよく見えない。

立ち上がらず、ぼーっとどこかを見続けている僕の背を擦りながら相手は話を続けあ。

「っ、….聞こえて、いるだろうか….?」

遠慮がちに、でもちゃんと意志をもった声色で、そっと問いかけられる。どこか他人事のような感覚のなか、その青年の声だけがよく聞こえた。

「…..きみは、」

ごしごしと乱雑に手で目元を拭い、相手の胸ぐらを掴んで、相手の鼻と僕の鼻が触れ合いそうなほど凝視する。

相手の赤の目を一通りみたのち、服は掴んだまま距離を取ってその外見を確認する。

茶色とまではいかないにしろ、楓原のような白髪でもない薄茶の髪。その右側にはあの特徴的な赤色のメッシュが着いている。

目は楓原よりも、丹羽と似ている茶。その中にもどこか楓原の朱色が混じっていて、面影はある。

「…楓原?」

「へ?」

ずび、と鼻を啜ると相手は懐から手拭いを取り出した。

楓原、いや万葉…のような、丹羽のような…どちらにも似てどちらにも似ていない中途半端な外見だ。もしや、この子は…

「お、おろ…鼻を啜らない方がよい。この手拭いでも使って…」

「…楓原家の末裔。」

「…!」

「そうか、へぇ、彼の…ねぇ、」

「お、お主…話が見えぬでござるよ?」

さっき泣きじゃくって居たのに急にニヤニヤと口角を上げる僕をどう思ったのか、この子は僅かに顔が引きつっている。

そんな様子すらもまた、愛い。

楓原。楓原の息子。そんな言葉が胸の内にすっと溶けて、腑に落ちる。

だって、あの、楓原が。

またにやりと歪みそうな口元をコントロールして彼に問いかける。

「ふ、ごめんね。君があまりにも愛らしいものだから」

「…へ?」

「いや、そうか…。楓原。なるほど。ふふ、ふは、」

可愛い。ほんとうに、もう、それ以上出てこない。



あきた

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