テラーノベル
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耳を削るような谷風の音が、その日だけはどこか気持ち悪いくらい不気味に響いていた。
火の国と風の国の境界——私、たつまきアカネが生まれ育った「たつまきの里」は、いつも通りの貧乏で荒涼とした一日を迎えるはずだった。
「アカネ、今日も風が荒れてる。谷の果樹園の様子、見てきてくれ」
囲炉裏の薪をくべながら、父ちゃん——アラシが重々しい声で言った。かつて里一番の風使いだった父ちゃんだけど、数年前の任務で負った足の傷のせいで、今は歩くのも一苦労だ。
「分かってるよ。お兄ちゃんは?」
「チシオならもう行ったわよ。あの子ったら、アカネにいいところ見せようと朝一番で飛び出していったんだから」
母ちゃんのウズが呆れたように笑いながら、熱いお茶を出してくれる。母ちゃんの優しい手つきと、薪がはぜる音。私の世界は、これで全部だった。大国どうしの戦争だとか、「木ノ葉隠れ」のすごい忍だとか、そんなの私には何の関係もない遠いおとぎ話だと思ってた。
……あいつらが、現れるまでは。
「——なんだ、この貧相な村は」
突如、家の屋根が吹き飛んだ。
豪快な風じゃない。どろりとした、暗黒の雷光——『闇電(あんでん)』の衝撃波だった。
「きゃああっ!?」
「アカネ、伏せろっ!」
父ちゃんが私を押し倒し、覆いかぶさる。バリバリと嫌な音を立てて、我が家の柱が黒く焦げて崩れ落ちた。煙の向こうから、四つの影がゆっくりと歩いてくる。
「あー……めんど。こんな辺境まで来させるとかマジだりぃ……早く帰って寝たいんだけど」
だるそうに欠伸をする、気怠げな男。
「ヒャッハー! 良いじゃん良いじゃん! ボロい家が弾け飛ぶ音、最高に上がってきたわー!」
奇声をあげて笑い転げる、派手な服を着た男。
「ちょ、イワド、暴れすぎだってー。せっかくの可愛い女の子が灰になっちゃうじゃん? ねー、君、怪我ない? 俺と遊びに行かない?」
チャラチャラした口調で話しかけてくる男の周りには、黒い金属の粒——砂鉄が不気味に蠢いている。
そして、中心に立つ痩せた男。青白い肌に、落ち窪んだ不気味な瞳。
「静かにしろ。……見つけたぞ。『たつまき』の血か」
男の暗い目が、私を捉えた。蛇に睨まれた蛙みたいに、全身の血が凍りつく。
「大蛇丸様が遺した手記の通りだ。体内のチャクラを龍の形に固定し、変質させる特異な術式……。未開の血統にしては、実に興味深い実験素体だ」
「な、なんだお前たちは……! 里に何の用だ!」
父ちゃんが立ち上がり、必死で苦無を構える。
「退がれ、老いぼれ。不完全な素体は必要ない」
冷酷な声と同時に、黒い雷が走った。
「父ちゃん——っ!?」
バリッ!!と嫌な音が響き、父ちゃんの体が弾け飛ぶ。激しい悲鳴すら上げられず、父ちゃんは血を吐いて崩れ落ちた。
「あなた! アカネ、逃げなさい!」
「母ちゃん!?」
母ちゃんが必死に風の術を練ろうとするが、だるそうな男——蒸月(じょうげつ)が吐き出した熱い水蒸気の塊に包まれ、その場に倒れ込んだ。
「あー、熱いから気をつけてね。一応、死なない程度には手加減したから」
「父ちゃん……母ちゃん……!!」
頭の中が真っ白になった。
視界が赤く染まる。許さない。絶対に許さない。
「アカネ!! 逃げろおぉぉっ!!」
谷の奥から、血相を変えたお兄ちゃん——チシオが飛び出してきた。両手に風の刃を纏わせ、チャラ男のテッサに向かって飛びかかる。
「お兄ちゃん!」
「へー、威勢だけはいいじゃん? でもさー、俺の砂鉄には届かないよ?」
ガキンッ!と甲高い音が響き、お兄ちゃんの風の刃はテッサの周りを覆う黒い砂鉄の壁に阻まれた。逆に砂鉄の槍がお兄ちゃんの肩を深く穿ち、赤い血が舞う。
「ガハッ……! アカネ……走れ……!」
「お兄ちゃん……! あああああああっっ!!」
怒りと恐怖で、胸の奥が焼き切れそうだった。
——決して使うな。あれは身を喰らう術だ——
長老の教えなんて、どうでもいい。みんなが殺されるくらいなら、私は化け物にだってなってやる!!
「秘術——……竜人化(りゅうじんか)!!」
ゴォオオオオオオッッ!!
私の中で、何かが弾けた。
チャクラが逆流し、全身の皮膚がバリバリと裂けるような激痛。だけど、それ以上に圧倒的な「暴力」の力が体内から溢れ出す。
真っ赤だった私の髪が逆立ち、背中から風のチャクラでできた龍の翼が突き抜ける。両腕は風の刃で織られた漆黒の鱗に覆われ、指先が鋭い爪へと化していく。
「ガアアアアアアアッっ!!」
咆哮一閃。私の放った暴風が、村の建物を木っ端微塵に吹き飛ばした。
「ほーう……! こりゃすごい! カムラ、あの子マジで龍になっちゃったよ!?」
「……素晴らしい。チャクラの密度、変質率……期待以上だ」
カムラと呼ばれた陰気な男の目が、狂気的な歓喜に濡れる。
私は足の踏みつけ一歩で音速を超え、テッサの懐へ跳んだ。
「風遁・龍爪斬(りゅうそうざん)!!」
「っと、ヤッバ!?」
#うちはイタチ
琴葉つきね
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テッサが焦って砂鉄の壁を展開するが、竜人化した私の爪はその金属の塊ごと切り裂いた。
「チッ、重い一撃だな……!」
「ハハハッ! 飛んだ! 龍が飛んだぞ! じゃあ叩き落としたらどうなるの!?」
狂った笑い声をあげたのは、パリピのイワドだ。奴が印を結んだ瞬間、頭上から見えない超巨大な『金づち』で殴られたような衝撃が襲いかかってきた。
「ガハッ……!?」
ズドォォン!!
重力だ。体が地面にめり込む。風の翼が強烈な重圧に潰され、みしりと骨が鳴る。
「くっ……離せ……!」
「無駄だ。竜人化のチャクラ構造は把握した。これ以上、素体を傷つけるわけにはいかない」
カムラが静かに近づいてくる。指先には、ドロドロとした黒い『闇電』が揺らめいていた。
(動け……動け私の足……! 父ちゃんたちを守るんだ……!)
だが、体が重力で動かない。爪が、翼が、重圧に押し潰される。
死の影が、カムラの指先とともに迫ってきた——その時。
「——そこまでだ」
シュバッと澄んだ風切り音とともに、無数の千本がカムラの腕を正確に射抜いた。
「チッ……木ノ葉の増援か?」
カムラが顔をしかめて跳び退く。
重力がほんの少し緩んだ隙に、私は必死で顔を上げた。
そこに立っていたのは、見たこともない綺麗な格好をした同世代くらいの少年だった。
白い服。そして……気味が悪いくらい澄み切った、淡い紫がかった「白い目」。
「木ノ葉隠れの下忍、日向(ひゅうが)ミズキ。……辺境の村で抜け忍集団が暴れていると聞いて来てみれば、随分と趣味の悪い実験ですね」
少年——日向ミズキは、冷静沈着な声で言った。
その白眼が、じっと私を見つめる。
「な……なんだ、あのチャクラは……? 人柱力でもないのに、体内でチャクラが龍の形に歪んでいる……? なんて、不格好で暴力的な術だ」
ミズキの瞳に、あからさまな嫌悪と軽蔑の色が浮かんだ。
「何よ……その目……! 人のことジロジロ見てんじゃないわよ……!」
「静かにしていなさい、野蛮な風使い。足引っ張りなら引っ込んでいなさい」
「なにおうっ!?」
瀕死の重傷を負いながらも、私はミズキのその鼻につく態度に激怒した。なんだあいつ。命の恩人かもしれないけど、絶対に気が合わない!
「ほう、日向の『白眼』か。良い眼だ……だが、今日の目的は達成した」
カムラが冷ややかに言った。
「竜人化のデータは取れた。アカネと言ったか……次に会う時は、お前のその『龍の肉体』を丸ごと解剖してやる。行くぞ、『彼岸』の者たちよ」
「え〜、もう帰んの? あの龍ちゃんともっと遊びたかったのに〜」
「だりぃ……やっと帰れる……」
水蒸気が爆発するように広がり、あたりの視界が真っ白に染まる。
霧が晴れた時——奴らの姿は、もうどこにもなかった。
惨劇の跡が残る「たつまきの里」。
幸いにも、父ちゃんも母ちゃんもお兄ちゃんも、命だけは取り留めた。だけど、父ちゃんの脚は二度と動かなくなり、お兄ちゃんの肩には消えない傷が残った。
里の診療所の前で、私は自分の拳を見つめていた。
竜人化は解け、全身が激しい筋肉痛とチャクラ酔いでガタガタと震えている。
「あいつら……『彼岸』って言ったな」
「ええ。各里を追われた危険な抜け忍の集団です」
壁にもたれかかっていたミズキが、冷たい声で応えた。
「あなたのその『竜人化』という秘術……洗練とは程遠い、あまりにも危険で泥臭い力だ。白眼で見れば分かります。使えば使うほど、あなたの体は龍のチャクラに蝕まれる」
「うるさい……! だったらどうしろっていうのよ! あの時、あの術を使わなきゃ、父ちゃんたちもみんな殺されてた!」
私が叫ぶと、ミズキはフッと鼻で笑った。
「だから言っているのです、野蛮だと。力に頼るだけで、チャクラの制御すらできていない。……ですが、あの連中を放置するわけにはいかない。僕も木ノ葉に戻り、彼岸の追跡任務に就くことになります」
ミズキは私に背を向け、去ろうとする。
「待ちなさいよ、白眼野郎!」
私は痛む体を無理やり起こし、ミズキの背中に叫んだ。
「私はもっと強くなる! 竜人化の力を完全に乗りこなして、あいつら……カムラも、テッサも、イワドも、蒸月も、全員ぶっ飛ばしてやる! 父ちゃんと里の仇を討つんだ!」
ミズキは足を止め、振り返らずに肩をすくめた。
「ハッ……精々、自滅しないことですね。次に会う時まで生き残っていたら、あなたのその荒削りな風、僕の柔拳で綺麗に矯正してあげますよ」
「言ったな! 次会った時は、その澄ました顔、私の風でぐちゃぐちゃにしてやるからね!!」
生意気な木ノ葉のエリート少年の背中が、谷の霧の中に消えていく。
私は振り返り、傷ついた家族と、吹きすさぶ「たつまきの里」の風を仰いだ。
世界の広さなんて、何も知らない。
木ノ葉隠れがどうとか、忍の歴史がどうとか、そんなのどうでもいい。
だけど、私の大切なものを踏みにじった奴らを、私は絶対に許さない。
「待っててね、父ちゃん、母ちゃん、お兄ちゃん……。私、強くなってくる」
真っ赤な髪を風になびかせ、私は苦無を固く握りしめた。
マイナー一族の落ちこぼれ少女が、世界を揺るがす「龍」になるための旅が、今、始まった。
コメント
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第2話、一気に読んじゃいました!最初の穏やかな家族の日常から、あの「彼岸」の連中の襲撃までが一瞬で切り替わって、心臓が止まるかと思いました。特にアカネが竜人化する場面の「使えば使うほど蝕まれる」という危うさと、それでも家族を守るために化け物になろうとする覚悟が、すごく胸を打ちました。それと、木ノ葉のミズキくん!あのクールな態度と「野蛮な風使い」呼ばわりに、思わず「やっぱり気が合わない!」ってアカネと一緒にツッコみたくなりました(笑)。でも命の恩人でもあるし、次に会う時はどうなるんだろう……続きがすごく気になります!